第16話 インクリメント
「お前さんがココに来て十日も経ってないという話じゃったよな?」
「そうですね。寝た回数で数えているので正確かどうかは微妙ですがまだ五日も経ってないと思います……」
「お前さん、これが見えるか?」
オッサは再び首からステータスカードを見せてくる。そこには『【祝福】3』と表記が見えた。
「あ! 見えます見えます『3』って表示がありますね!」
「いいか、ステータスカードに出る情報は偽造などを除いて必ず本物じゃぁ。【祝福】はその持ち主の人生に何かしら影響を与える。でないとステータスカードの意味がない」
「意味がない?」
「よいか? ワシらはこのステータスカードで個人の断定や能力や才能を知ることができる」
「そうですね」
「そこに犯罪歴があればそいつはどこかで犯罪を犯したということでもあるし、先ほどお前さんが言っていた無職も仕事が定着すればギルドに行かなくても変わる」
「え? そうなんですか?」
「例えば、暗殺者なんてのはギルドに登録しない方がよいじゃろうが、その暗殺者の人生が暗殺者であればステータスは暗殺者なんじゃよ」
オッサが丁寧に説明してくれているが正直分かり辛い……職業は別にギルド関係なく「俺がプロです」って自称してある程度食っていければステータスカードの欄が変わるってこと?
「うーん、俺が別にギルド行かなくても音楽家としてやっていければステータスカードも勝手に更新されると?」
「そうじゃな、もちろんギルドなどで書き換えができる部分もある、ただなんでもかんでも書き換えはできん。例えば名前やレベルというのはギルドでは書き換えできん」
「はい、まぁそうでしょうね……」
ギルドで勝手に自分の名前や年齢を変更できたら大問題だ。
「だったら分かるじゃろ?」
「え、何がっすか?」
(面倒臭くなって敬語おかしくなっちゃったよ)
「あのなぁ、ステータスカードのステータスが嘘の情報じゃったら門番は何を基準に判断するんじゃ?」
「えー、あー、そうですね」
(話の流れが分からなくなってきた)
「修行をしてステータスカードの力の欄が10上がった、防御力が10上がった。その情報を元にしてより難易度の高い魔物の討伐に参戦できるんじゃろ?」
相変わらず当たり前のことを言っていて趣旨が分からないが、やっぱり魔物がいるというのが分かった。となると魔素や魔石とかが存在する可能性もあるんだろう。
「そうですね、得られた値が嘘だったり偽造できちゃったら色々問題が出そうですからねぇ」
(受け答えこれで合ってるか?)
「そうじゃ、だから力が以前より力が+10であれば、それは+10されたという証じゃろ?」
(めっちゃ当たり前のこと言うじゃん)
「そりゃぁ、もちろん」
「お前さん分っとらんな、じゃぁ……お前さん今まで生きてきて飲んだ水の量わかるか?」
(うわー、これパンの枚数だったらもうアレよ? 時止めちゃうやつよ? )
「いや、考えたこともないですね……」
「そうじゃろ、だからそういう人生に寄与しないものはステータスカードに表示する必要もなければ必要性すらない」
(――っ、ちょっと分ってきたぞ!)
「つまり、もしステータスカードに今まで飲んだ水の量が表示されるんであれば、それはその人にとって重要なことであると?」
「うーん、ちょっと違うが、まぁそんなんでよい」
(違ったか……)
「それと【祝福】がなぜ……あっ――」
「そうじゃ、ワシのステータスカードには今まで【祝福】を受けた回数が記載されておる。もちろんこれは意識しないと表示されんが、それこそ『今まで飲んだ水の量』とワシが意識してもステータスカードには表示されん」
「なるほど!」
「いいか、【祝福】の全ては解明されておらんが、以前魔王との大戦があった際に勇者が国王に呼ばれ王国の戦士に対して【祝福】を与えたことがあった、するとその国どころか他の国の戦士全員のステータスに【祝福】の項目が増えたのじゃ……」
「え? 王国の戦士だけじゃなくですか? 他の国もですか?」
「そうじゃ、それまで全員がもってるステータスは『共通ステータス』と呼ばれていた、例えば年齢とかじゃな」
(ココにきて共通ステータスね、これを先に言ってもらいたかったわ……)
「あぁ、なるほど【祝福】はその時を境に共通ステータスになったと、そしてそんなものは今までなかったという話ですね!」
「はぁ、毎回ちょっと違うのはなんでじゃろな? ワシのせいかの……」
オッサは心底面倒臭そうにため息をつくと地面に目を落とす。
「え? 違いました? すごく理解したと思ったんですが……」
「あのな!共通ステータスというのは必ずあるものじゃし変更できん、生きてれば年齢があるし変更効かんじゃろ?」
「はっ、はい」
顔を上げたオッサの目は気絶しそうなぐらい血走っている。ここで『俺、若返ったけどな』などと発言したら倒れてしまいしそうだ。そのまま続けてもらう。
「で、個別スキルはそれぞれの生き方などによって本人が必要な項目が違うわけでステータスカードに表示される項目もそれに伴ったものになる」
「あー。なんとなく分かります。俺に暗殺スキルの項目あっても必要ないですもんね……」
「ところが【祝福】は受けた者は必ず寄与されるものじゃ、受け取り拒否も変更も返却もできん」
「え? ステータスって受け取り拒否とかもできるんですか?」
「あまり例は思い浮かばんが、ワシがお前さんの事が『ウザくて理解がなくて面倒で泣き虫でメチャクチャ変な奴じゃなぁ……』と思っているとする」
アカン、唐突なdisり具合にメンタルが崩壊しそうになる……
「じゃが、ワシ本人がどんなにいらないと思っていても【祝福】は与えられてしまうし、拒否できんのじゃ……」
「……なんか、すいません」
「そのくらい【祝福】はそれだけで恩恵があるとみなされておる」
(なんか、納得いったと言うかいかないというか……)
オッサの例えがイマイチだったが、この世界はステータスカードの情報がかなり重要でその情報は捏造できないものと認識されている。
パラメーターの上昇具合の数字も捏造や嘘があったらマズいしあり得ないということだろう。そして項目の中には持ち主にとっては大事な項目だが他人からするとどうでもいい項目があると……
俺で言うと『歌唱力 』とかこういう部分だろう――で【祝福】は例外として本人の意思関係なく後天的かつ強制的に与えられちゃうので、そういう例外なものというは恩恵があるに違いないという『うっすーーーーーーい』話だったと思う。
で、よく考えたら俺は今まで【祝福】の確認してなかったことに気づいた。それくらい自分の中ではどうでもいいことだった。
「俺、自分の【祝福】を確認してなかったんですよねぇ……」
【祝福】なんて全く興味がなかったからしょうがないと思いながらステータスカードに【祝福】を意識してみると『【祝福】4』という表示がされるので、それをオッサに見せる。
「――ほら、やっぱり四回でしょ?」
「お、おう……」
「で、元に戻りますが、俺この【祝福】のステータスを100にするくらいなら割りと簡単にできるんですよ……」
(だって、チューリップの曲で+1されるんでしょ?)
家にある楽譜とか今まで覚えてる色んなTVで流れたアニソンとか特撮とかゲームの曲とかジャンル拘らないんだったら100ぐらい余裕でいけると思う。しかも口笛とかでもいいんであれば一日で達成できそうだ。
「――っ【祝福】が100じゃと?」
「はい、だって昨日オッサさんの前で二回やったじゃないですか? あの要領でやれば……」
オッサの目が細くなるのに気づいた俺は言葉を続けるのをやめる
「お前さん【祝福】を自分だけのための目的で二回受けたと言っとったよな?」
「あー、まぁ正確に言うと自分のだけのためとかじゃなく、なんだろう暇つぶしというか偶然というか」
「ひ、暇つぶしじゃと?」
「いや、すいません、暇つぶしとは違いますね現実逃避が正しいかな、ただ対象を誰かの為とかとかも考えずにやったのは間違いないです」
「うーむ、それはワシの知ってる情報と違うのよなぁ……」
確かに、音楽という特性を考えると基本はリスナーあってのことだし、聞く対象のいない『チューリップ』の曲で【祝福】が発動するのはあんまり道理が立たない気もする。
「じゃぁ、実際にやってみましょう、今から自分の家の中でオッサさんに祝福を与えないやりかたで実験してきます。上手く成功すれば俺のステータスカードの値が+1されて、オッサさんのステータスカードの値は変わらないはずですよね?」
「簡単に言うが、そうじゃな……」
「で、その上で今度はココに戻ってきて、俺とオッサさんの値を+1させてみせますよ」
「はぁ……もうワシは何が何だか分からなくなってきたぞ……」
「やって損はないんでちょっとやってきますね」
俺は、自分の家に入り、奥のPC部屋に行く、クローゼットから六弦ベースを出すと、チューニングを確認し、なるべく小さな音の指弾きで『カエルの歌』を弾いた。
『フリューメに新しい曲が誕生しました』
(やっぱり【祝福】が発動される。『カエルの歌』だぞ?)
とてつもなくシュールな絵だが、これで【祝福】が聞こえたので『与える』とか『受ける』じゃなく発動だと思う。
自分のステータスカードで+1されていることを確認し、そのまま六弦ベースを持ったまま玄関から外に戻り、オッサにステータスカードを見せる。
「――増やしましたよ!」
俺もカード見てオッサは眉間に深い皺を寄せる。
「確かに増えとるが、そもそもそのギターはなんじゃ? 何本持ってるんじゃ?」
「あー、これはベースと言ってですね……って今はそれはどうでもいいじゃないですか!すぐに増やしたいのでオッサさんのステータス変わってないことを確認してもらえますか?」
「お、おぅ」
オッサがステータスカードを確認すると『4』のままだった。
「大丈夫ですね、じゃぁ静かにしててくださいね」
俺は、六弦ベースでピックを使い「ぶんぶんぶん」を弾く。
『フリューメに新しい曲が誕生しました』
キタコレ!
「本当にやりおった!」
「ね、簡単に増やすことできるんですって、例え『いらない』と思っていても!」
ちょっとだけ嫌味を返す俺。
「ふん。もらえるものはもらっておくというのが人間じゃろうに!」
(欲しいのか欲しくないのか分からない人だなぁ……)
とりあえず実験は成功だ。
「ちょっと、これ重いので家に置いてきますね……」
「お。おう」
実験が成功し少しテンションの高い俺は一旦六弦ベースを戻しに家の中に入って再びオッサの元に戻る。
「――で、今の結果を含めていくらになると思いますか?」
俺はもう一度聞き直す、やっぱり俺がこの世界で生きていくには演奏をしていくのが一番よいのだろう。子どもの頃に諦めていた部分もあるが
「大変申し訳ないが、結論は変わらん『分からん』としか言いようがない」
あちゃーだめかぁ、付加価値ついてウハウハとか思ったのになぁ……
「むしろ、こんな簡単に【祝福】を与えられると、確実に犯罪に巻き込まれるぞ?」
(そうでしたー! そう言っておりましたねー)
ってことは『詰み』か?いや『詰み』ではないか!音楽家以外の方法を模索って手もあるけど、何をしたらいいだろう……
「うーん、ダメですかぁ、俺にはこれしかないと思ってたんですが流石に命を狙われるような事はしたくないですしねぇ……」
「【祝福】も命あってのことじゃからのぉ……」
俺は
「【祝福】に関わらないものだったらよかったんですけど……あっ!」
「なんじゃ?」
「そっか、メッチャ簡単な事でした【祝福】を与えない演奏をすればいいんだ!」
オッサは理解不能の顔をしている。
「もう一度、ベースを取ってきます!」
演奏家の夢の道が一気に見えてきた俺はオッサの返事も待たずに六弦ベースを取りに家の中へ入っていった。
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