第14話 Read / Write
「――じゃぁ、こちらにどうぞ」
俺は玄関先に立っているオッサを家に招待しようとする。ウチに入る初めての異世界人だ……
(まぁ、俺もオッサの家に入れてもらったし『おあいこ』状態だよな)
「いや、ワシはココでよい」
「え……?」
「ワシはココでよい、正直この家に入るのが不気味なんじゃよ」
「あー、ですよねー」
(分かるー! 分かるよー! 俺も昨日そうだったもん)
「昨日、建物自体に『呪い』をかける可能性は低いと言ったものの、見た目というか存在自体がもう不気味なんじゃよ」
確かにオッサからすると玄関から見えるウチの中の家具を含めた雰囲気自体が異世界に見えるだろうね。
これに照明などの電気家具が使える状態だったらもっと異世界だっただろうに……
(ただ立ち話も微妙だし、椅子はいるよなぁ……パソコンチェアを持ってくるのも変だし、何か腰掛けになるものあるかなぁ……)
「えぇ、気持ちは分かります。ただ立ち話も何なのでちょっと椅子になるものを探してきます」
異世界の物とはいえ流石に椅子ぐらいなら使ってくれるだろう。
「いや、気にしなくてよい、腰掛けぐらい自分で持ってきたわい」
(おぉ? 家に入るの以外は結構乗り気? )
「そうですか、じゃぁ俺の準備だけしてきますね」
(と言ってみたが、どうしようかな……あまり人を待たせるのもよくないし……)
結局、段ボールの上に座布団がいいだろうという結論になり、ネット通販の段ボールを潰したものと座布団を持ちサンダルを履いて外へ出る。
「では、よろしくお願いします」
「これまた、面白い格好をしておるのぉ」
「あー、そうですか? 俺のいた所では割と人気のある衣服なんですけどね……」
俺の格好は寝巻きのジャージのままだが、そこに突っ込まれるとは思わなかった。あと今回の『質問コーナー』に際して俺は日本のことを『俺/私のいた所』と呼ぶようにし、他にもいくつか作戦は練っている。
ステータスカードがある時点で俺からしたら異世界だが、オッサの目線で考えた時に俺が『異世界人なのか海外の人なのか?』の判別ができている可能性が分からなかったからだ。
「まぁ、家自体がこれじゃからの理解はできんが、納得はする」
矛盾しているような返答だが俺もこの言い方には理解するのでスルーして続ける。
「ありがとうございます。早速ですがオッサさんは俺のステータスカード読めますか?」
俺は自分の名前だけを表示させたステータスカードを見せる、日本語の文字が認識できるのか……
「はぁ? ソウタと名前が表示されてるだろう?」
「あぁ、そうですよね……ではこちらはどうですか?」
俺はバッテリーが40%になっているスマホの画面を見せてみる、そこにはメモアプリ上に『ソウタ 18歳』と記載しているものを見せる。
「――これは?」
「俺が元いた所で使っていたステータスカードのようなものです。ただ、昨日発行してもらったステータスカードのように個人の特定まではできません。そして、これは定期的に充電という行為をしなければ使えないんです。その充電ができない状況なのでいずれ使えなくなってしまいますが……」
(どうよ?この作戦、我ながら天才だと思うね)
補正値合計で【知力】1.3で出した『どうせ使えなくなるなら先に出しちゃえ作戦』の凄さよ。
因みに今のターンは『文字の差異の確認』だ。
「文字みたいなものが浮かんどるのは分かるが全く読めん……」
なるほど。ということはステータスカードの表記文字は閲覧者の識別できる文字に自動変換され表示されるっぽい。
ステータスカードを二人同時に見て同じ文字と認識しているということは網膜に入る情報として変換してるってより脳に直接『文字として認識させている』と言う風に考えた方が自然だろう。
(いや、自然ではないがご都合主義って奴だろうな)
「では、今から俺が書く文字は読めますか?」
「はぁ? 書く? どこにじゃ?」
「地面にです」
と言い、昨日オッサが投げたであろう小石を拾い『そうた』『ソウタ』『奏太』『sota』と書いてみる。
「どうでしょうか?」
「全部読めんの……ワシが全ての文字を知っとるわけじゃないし『似たような文字』がないわけではないが何を書いたすら分からんの……」
「なるほど……可能であればなんですが、オッサさんのステータスカードに名前だけ表示させて俺に見せてもらうことは可能ですか?」
「あぁ、名前ぐらいなんでもないわい、これでよいか?」
とオッサは首から下げていたステータスカードを見せる、仮説通り俺にも読めた。どうでもいいが苗字が『コノー』ってのもわかった。
「ありがとうございます、申し訳ないですがオッサさんの名前を地面に書いてもらってよいですか?」
「おまえさんがしたようにだろう? いいぞ」
やけに素直なオッサは地面に文字らしきものを書いてくれているが、俺が『文字らしき』と認識した時点で結論が出ている。俺には読むことができなかった。
これらの事から分かることは喋ることに関しては今のところ問題ないが(識字率は別として)
「ありがとうございます。やはり私はここの文字が読めないようです」
「まぁ文字が読めん人もいるにはいるからのぉ、しかしお主のステータスカードは分厚いのぉ。不便そうじゃ……」
「そうですね、身の証明のためというより生活を便利にするために特化させてる部分はあると思います」
(懐中電灯、計算機、地図にメモにボイスメモに動画撮影・試聴、音楽鑑賞、ゲームに決済機能ついてるからなぁ、日本にいればステータスカードより便利だと思うんだけど……)
「あと、ここでは火を使う時はどうしていますか?」
「そりゃぁ、こうじゃろ」
オッサは何かを呟いて人差し指を軽く振ると1.5cm程度の「火種」が出た。
「これは……」
「まぁ、魔力は使うがそもそもこの程度なら10歳くらいに殆どの子どもが覚えるじゃろうに、お前さんところは違うのか?」
(おぉ!生まれて初めて魔法を見た!感動しちゃうね)
ただ、これは予想通りの展開!俺はココぞとばかりに百均で買っていたライターを取り出す。
「私のいた所ではこれを使ってこうやるんですよ」
俺は引き金式になったライターのトリガーを引く。
「ほう!」
カチッと音がしてオッサが出したような火が出るとオッサが面白いものを見るような目で反応を示す。
「なるほど、こういう魔力を通す魔道具の方が火種が遠くになる分、火傷や熱さ対策にはよいかもな!」
(そっかー、そうだよなぁ『魔道具』になっちゃうかぁ……どう説明するかな……)
「あー、これ実は魔力使わなくですね、私のいたところでは魔力がゼロの人も居てですね。ガスというものを使って火を起こす方式をとっているんですよね」
「ふむ、それはガスという道具なのだな、確かに魔力なしで火を起こせるというのは便利ではあるな」
……説明を間違った。どうやらオッサはライターのことをガスと認識してしまったようだが、ここはどうでもいいので訂正しない。
「で、ですねこれを開示していいのか分からないのですが、俺も魔力が0.5しかないんですよね」
俺は苦笑いをしながら自分のステータスカードに魔力の項目を表示させてオッサに見せる。
「0.5とは初めてみたの……」
元々0だったからないよりマシなのかもしれんが、0.5って使い所がなさそうである。
「うーむ、ただ火種を出すぐらいならそんな魔力を消費するもんでもないからのぉ、実際火種を作っても魔力の数字は減らんのじゃよ」
『数字』という発言がひっかかった。ただ、これまでの事を考えるとオッサの言っている数字と俺の知っている数字の概念は違うのかもしれない。
「でも、魔力を使っていることには違いないんですよね?」
「そうじゃな、ワシもこどもの頃は魔力が抜けるのは感じた気がするが、なんじゃろのぉ感覚というのは説明が難しいのぉ」
「例えば、先ほどの火種を百回やると魔力が1減るとかはあるのではないですか?」
「まぁそれはそうじゃろうが、一日に百回も火種使うことがないからのぉ」
「あれじゃよ、お主痰が絡んで吐き出した時に体の水分が減ったなぁと感じるか?」
(おおお、すごく下品というかすごい角度での例えが来たぞ……魔力を『痰』で例えるのって斬新すぎる……)
「なるほど、意識したことないですね……」
「よほど喉が渇いている時以外は気にしないじゃろ? ワシにとってはそんなもんなんじゃよなぁ」
「ありがとうございます。では水を温める時にも魔力を使いますか?」
「いやいや、それは薪を使うなりするじゃろ? 水を温めるまで魔力を注ぎ続けるなんて何の苦行じゃ?」
(確かにな……そりゃぁそうだ。でも、今の質問の目的って飲むお湯ってより、お風呂のお湯の為の質問なんだよなぁ……)
口調からは不可能ではないが『効率悪い』という話っぷりだ、昨日お茶出してもらった時にどんな道具使ってるのか見ておけばよかったと後悔する。
(ん? お茶、お茶、そうだお茶を出さなきゃな……でも、お湯が使えないが、これはチャンスじゃないか? )
「あ、飲み物出してないですね、ちょっとお待ちください……」
俺は家に入り、マグカップ二個に水を入れて玄関に戻る。
「すいません、ウチ今火が使えないのでお水しか出せないんですけど」
「はぁ? お前さんさっきのガスとか言った奴でお湯作れるじゃろうに……」
(そうよねぇ、そうなる……でも電気ポットも使えなければガスレンジも使えないんだもん)
「いや、ウチの中にですね薪を使う竈門が存在しなくてですね、魔道具に似たような器具で温める文化だったんですがココに来た際に使えなくなっちゃって……」
電気やライターの名称をガスと勘違いしてるオッサに説明するのが難しいので『魔道具に似た』という表現で濁してみたがどうだろう……
(いけるか? 俺のコミュ力0.7の力よ!)
「お前さん、かなりゆるい所で育ったんじゃろうなぁ、【才能持ち】っていうので優遇されてきたのかのぉ……」
まぁ、現代日本は色々言われてるが飢餓や戦争や銃が隣り合わせでもないし世界的に見たらゆるい所であるのはいい舐めない。
だからこそ、冒険者に憧れることもなければスローライフで自給自足をしようとも思わない。
「あー、まぁその『才能』についてもちょっと聞きたいことあるんですが、実際オッサさんがこの水を温めようとしたら魔力使いますか?」
「そりゃぁ、この場に限りじゃったら魔力使うじゃろな。自分の分だけでこの量っていうのが分かっとるからの」
「そうですか、その際って魔力ってどの程度消費するんでしょうか?」
「分からん……考えたこともない、お前さんの来たところは毎度毎度コップ一杯ずつお湯を沸かすのか?」
「しないですね、しかも自分で質問してて変ですが、私のように魔力が乏しい人間でない限り『コップ一杯のお湯を沸かすための魔力の消費量を測る』なんてことはしないと思います」
……うーん、でもちょっとやってもらいたいなぁ、もしコップ一杯の水をお湯にするのに魔力消費が0.5以下なのかどうか知りたいんだよなぁ。どう頼もうかなぁ……
「ちょっとやってみるかの」
(あら、今日のオッサさんすごい積極的じゃないの? 素敵!)
「え? いいんですか?」
「いや1も減らんと思うぞ?」
オッサは「見せんぞ」と言うとステータスカードで自分の魔力量を確認した後コップを握る。マグカップの取手を掴むのではなく両手でマグカップを包むようにしているのは魔力を両手から出している状態なんだろう……
30秒程度だろうか、しばらくするとコップから湯気のようなものが出てくるのが分かる。
正直火種より地味だがこちらの方がライターで代理できない分魔法の凄さを実感できる。
「こんなもんかの、飲むためのものじゃし沸騰させると溢れると困るしワシの手も熱くなるからある程度までで止めたわい」
あれだな、元も子もないこと言うと『電子レンジ』だな。正直、魔法に憧れがあったが、ライターや電子レンジで代用できることにちょっとガッカリ感が出る。
昔、テレビで超能力者がテレパシーで誰かに話しかけてコミュニケーションできても『相手側をキッカケとしてテレパシーできない時点で電話の方が遥かに便利』って言ってたのを思い出す。
しかも、嫌な時は出なくても良いというメリットもあるとか言ってたなぁ……
どうでもいい事思い出しオッサとの『質問コーナー』は続く。
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