第13話 ランダム要素
俺の【視力】がよくなった理由が分かった。俺の
『rand(1,5)*.1』というのは少数の「0.1」から「0.5」の値を返すものである、簡単に説明すると俺の能力が『0.1〜0.5ランダムな値でアップする』らしい。
なので、【視力】が地球にいた時より0.5(これはmax値)補正されたわけだけども……
はっきり言おうクソであると。
勇者の仲間だったら真っ先に置いていかれてるパターン、召喚されていた場合ならお金だけ渡してあとはひっそり生きてくださいパターンのやつ。
こんな現実的な感じのは望んでなかった。大体こういう時の定番は転生仕様で実用的なレアものになっているべきだし、まして『1以下の補正値』というのは視力意外で実感できるものはなかった。
一応、この世界には【魔力】というものがあるらしいが、地球人だった時の俺の【魔力】はもちろん「0」なので、「0」に対して「+0.5」の補正がつく。つまり俺の【魔力】は「0.5」ということになる。
(「0.5」で使える魔法ってなんだろう? いっそ「0」でよくねーか? )
【素早さ】も「+0.4」という補正がかかって「1.2」となっているが、足の筋肉を見てもオリンピック選手の様に100メートル走を10秒切るような速さでも走れない自信しかないし、【力】も「+0.2」でこちらも「1.1」だが重量上げの選手のようになるわけでもなく元々地球人としてのパラメーターが弱かったであろう俺には視力以外ではほぼ恩恵のない
尚、【年齢】は18歳になっていた。きっと『36歳の0.5倍』ということでオマケしてくれたんだろうと願いたい。
【身長】は当たり(?)で魔法と同じ最大値の「+0.5」が補正されて163cmになっていた。
せめて『*.1』の『.』(ドット)の部分がなければ少数じゃなく整数になり「1〜5」の補正になるのでまだ望みはあったと思う。
気になったのは【コミュニケーション】の項目で「+0.2」の補正値込みで「0.7」となっていた。
基準値がどこなのか分からないが普通の人が「1」だとした時に、俺は補正をされても「0.7」しかないのだ。元々地球人だった時のパラメーターは「0.5」だったらしい……
因みに【知能】も「+0.2」の補正がかかっていたが補正込みで「1.3」という感じだ。
ステータスカードは便利なもので、自分が知りたい能力を思い浮かべて手を触れたりかざすとカードの上に日本語で浮かび上がる。
項目は最大12個まで表示されるが、一個だけでも表示させることが可能だし12個以上思い浮かべて下にスクロールさせることもできる。
因みに最初は身長や体重などから表示していったのでテンションがまだ下がっておらず、12個をほぼ同時に思い浮かべる訓練だけを三時間ぐらいやった。
無駄な訓練だったが机に『思い浮かべたいステータスの項目』を紙に書き出し一旦暗記する、暗記できたらステータスカードに触れて表示させるという具合だ。
最初は能力の項目の意味があまり理解できてなくて、ただステータスカードに文字が表示されるだけで「すげー」と声が出たが、よく考えたらスマホの方が紙や鉛筆を使う必要もないし百倍凄いと思う。
スマホよりイケてる所って『薄さ』と『充電しなくていいこと』くらいで、これなら健康診断の結果をスマホに入れ込んでいた方がよっぽど役に立つと思う。
で、基本的なステータスを確認したらいよいよ自覚のある【視力】を見てみたくなって表示させた。これが一番自分で違いを感じた部分だしやっぱり『【視力】いくつになったんだろう?』って思ってたから、そしたら「0.5」の補正込みで「0.9」だからね。
ここで、気づきましたよ『あ、俺の才能の欄のアレってやっぱりプログラム的なやつで最大「0.5」までしかアップさせないんだ』とね。
いや、これが最大「0.5」の補正じゃなく瞬間最大で「100」とかだったら『凄いな!』って思うんだろうけど、【視力】が「0.9」と分かった時って逆に落ち込んだ。「2.0」とか「1.5」とは言わないまでも「1.2」までは回復しててほしかった。
あぁ、一応【レベル】ってのもありますよ?
でもね、どうやらこの世界のレベルって年齢と同じっぽい、だって俺Lv.18だもの。いやLv.18って本来なら中々よね、
確かに『何の経験値を上げればLv.19になるのか?』って言われると非戦闘者がLv.0とかLv.1ってのもおかしな話な気がするし、ITや音楽の世界でも『この人とはレベルが違うわ』って言うもんね。
生きてりゃなんらかしらの経験をしてそれが生物的なレベルに対応するってはある意味明快ではあると思う。
できればLv.36にしておいてくれるとちょっと『異能感』あってよかった気がするが……アメリカとかみたいな飛び級がある所の人がこっちに来たらレベルと年齢の相関が崩れるのかなぁとか思ったりもした。
で、気になる才能だけどさ【準絶対音感】だったよ。
知ってる? 『準絶対音感』
楽器をこどものころからやってると一度は聞かれる「絶対音感ある?」と言う言葉、これは聞いた音をなんでも『ファ』とか判断できる能力のことだ。
で、俺ずっと絶対音感あると思って過ごしてたのよ。
この『準絶対音感』というのは滅茶苦茶精度の高い相対音感のことで相対音感というのは『とりあえず音が高い、低いを聞き分けられる誰でも持っている能力』のこと。
で、俺の『準絶対音感』というのは常日頃から楽器などに接していると音を覚えてしまいそれで音が分かるようになる能力らしい。
なんで、『らしい』かと言うとこのステータスカードを見るまで自分は絶対音感があると思っていたからだ。
聞けば音の名前分かるし、音が同時になるハーモニーも分かるし、ある程度モノを叩いた打撃音とかも分かった。
「まぁ、確かにヴァイオリンをやっていた子は1/8ぐらいズレてるとか分かってたもんなぁ……」
思い当たる節はあったが、今の今まで絶対音感があると勘違いしていた。
他にも音楽繋がりで【歌唱力】ってパラメーターも見たが、「0.9」に「+0.2」の補正で「1.1」だったし、口笛のレベルは「1.0」に「+0.2」の補正「1.2」だった。
「なんでもステータスで確認できる世の中ってのは辛いわ」
現実を知り凹む。そしてありがたい(?)事に【準絶対音感】には「+0.5」の補正がかかっていた。仕事がらプログラムを書いていたので『数値化してないものに数値補正が記載してあるのは気持ち悪いな』と思った。
「贅沢は言わないから【四捨五入】って
でも、結局「0.5」が「1」に繰り上がったところでやっぱり一番恩恵を受けるのは【視力】が「1.5」(常人レベル)になるということだろう。
因みに【視力】が上がってるのでもちろん【嗅覚】や【味覚】【触覚】も補正がされていた。
【嗅覚】の補正は「+0.3」だったが、元々鼻炎があるためか補正ありで「0.9」だったし、【味覚】や【触覚】に関しては「+0.1」しか補正されておらず変化を感じない。
まぁ、この辺は変に向上して痛みに敏感になったり、不味いものを食べて悲しくなることもなさそうなので期待してなかっただけいいとしよう。
そう、俺はこれらの事実を受け止めて思ったのはそもそも『この世界でこの程度の
音楽にしても同じで、色々な楽器をやったもののやっぱりその『専門』の人の方が上手いし、作曲にしても比較はされるものではないが『この人みたいに曲が書けるといいなぁ』と思ったことは沢山あったわけで『できない・分からないわけではないが突出していない』という器用貧乏の典型だったと思う。
で、俺はある程度自分の気になっていた項目を見て一頻り納得できない数値を確認するとステータスカードで自分の能力を見ることをやめた。
◇◇◇
俺は、家にあった保存食として大量に買ってあるレトルトカレーとレンチンのご飯を温めずに食べる。その後はシャワーを浴びながら裸のまま今日来ていた着替え手洗いし、寝巻き用のジャージに着替え歯を磨きベッドに横になった。日が暮れると照明がないので横になるしかないのだ。
まぁ、今日は色々ありすぎた。ここ数年間で一番身体を使った気がするが神経が昂ってすぐに寝付けず『自分の能力』やこっちに転送され『今まであったこと』を改めて考えてみる。
「ゲームで一日で色々な街やダンジョン行くけど、あんなの絶対無理だな……」
体力の回復だけでもしたいので目を瞑ろうとするが、その前にもう一度だけステータスカードで自分が表示させた項目を改めて見てみる
【 名前 】クロダ ソウタ
【 年齢 】18
【 レベル 】18
【 技能 】+rand(1,5)*.1
【 才能 】準絶対音感 (+0.5)
【 身長 】162.5cm (+0.5)
【 体重 】56kg (+0.2)
【 知能 】1.1 (+0.2)
【 力 】0.9 (+0.2)
【 体力 】0.8 (+0.3)
【 素早さ 】1.2 (+0.4)
【 魔力 】0.0 (+0.5)
【コミュ力】0.5 (+0.2)
【 視力 】0.4 (+0.5)
【 嗅覚 】0.6 (+0.3)
【 味覚 】0.9 (+0.1)
【 触覚 】1.0 (+0.1)
【 聴覚 】1.0 (+0.5)
【 歌唱力 】0.7 (+0.2)
【 口笛 】1.0 (+0.2)
敢えて言おう我が能力は【クソ】であると。
◇◇◇
次の日、濃い一日を過ごしたからか昼過ぎに起きた、オッサが来てる様子もないのでレンチン用のご飯の上にレトルトの親子丼をかけて食べる。
もちろん、湯煎できないので冷たいままだ……そして電子レンジは偉大である。
しかしスマホもPCも使えない家というのは暇である。ヘッドホンをして音楽やお笑いのラジオを聞くことができないというのは人生の大事な何かが奪われたようで悲しくなる。
いや、本当ならば昨日『音楽家として生きよう』とか思っていたはずなので楽器の練習をしなければならないのだけども、『俺は異世界でプロカンリバ師になる!』っていうのも何か違うし、何よりさっきステータスカードで職業を表示してみたら【無職】と表示されてしまっていたのよね。
(えー、確か35歳以下の働く意志のある人のことをニートと呼ぶってのが本来だった気がするので俺はニートだ)
などと自分を慰めつつ、この世界は『働くということ』が必要なのか? というのも気になってきた。
資本主義の日本であれば、働いてその見返りとして賃金をもらいそれで生活していくというのが義務でもあるけども、これがアラブの石油王だったら働く必要もないわけで、この世界やこの土地が全員何かしらの職業についてなければならないという前提でいるのはおかしい。
おかしいが、昨日の門番とかお金というものでステータスカードを発行していることを考えると、働かざるを得ない気がする。
少なくとも、自給自足できるほど農業や料理スキルに秀でているわけではないし、そのガッツもない。
暇なんで楽典でも読み直すかぁと思っていたころ、玄関の方で「コンっ」「コンっ」と音がしている。
不審に思い玄関を開けると、オッサが玄関に向かって小石を投げていたようだ。
「――何をしてるんですか?」
「いや、この家の仕組みを知らないのでお前さんの呼び出し方が分からんのだよ……」
よく考えれば当然であるが、この家の呼び出しチャイムは電池式なので押せばなる。
「あぁ、なるほど……ここのボタンを押すとですね俺に分かるようになってるんですよ」
そういうと俺は築30年以上のマイク機能も何もないシンプルな玄関チャイムのボタンを押す
『ピンポーン』
(ミードー)と聞き慣れた音階が家に響く。
「ほう、なるほどの便利じゃの」
日本にいたころはヘッドホンしてて気づかないことや居留守使うことも多く流石に不便なのでスマホと連動できるカメラ付きのに変えようと不動産屋さんに交渉しようと思ったが面倒でやってなかったんだけど、この世界では便利に感じるようだ。
まさか、他の人の家の玄関に小石を投げて呼び出すのはこっちの常識ではないと思い『こちらの世界ではどうなんですか?』と聞こうと思ったが『こちらの世界』というワードを出すのがなんとなく正しくない気がするので一旦飲み込む。
「それでステータスは確認したか?」
「はい、まぁ色々落ち込むことがあったりましたが、ココに来る前より悪くなってるという印象はなかったですね」
そう、俺は起きてちょっと考え直した。少なくとも『+』が付くわけで依然よりもレベルアップ(この世界でレベルアップというのは意味の取り違えがあるが)しているし、若返りもしている。
鼻炎も視力もコミュ障も改善しているのだ、これは素晴らしいことではないか!
変に魔力や戦闘能力があるとモンスターと戦わなければならなくなるし、そうじゃなくても知力が高いと軍師とかにされそうだから本当一般人のステータスでよかったと思っていたところだった。
「そうか、しかし黒じゃからのぉ……」
「あー、まぁ呪いなんですけど、いくつか聞きたいことがあるのですが質問しても大丈夫ですか?」
「変に感情的になって『泣き出す』とかしなければ知ってる範囲で答えよう」
ステータスカードで自分の状態を知り、精神的に落ち着いたのかちょっと嫌味を言われても動じない俺はこれをチャンスと捉えてオッサに質問をすることにした。
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