第11話 嘘の代償

「いやじゃ!」


 オッサは眉間のシワが一層深くし、即座に断りの言葉を口にした。


「確かに真っ黒のカードは不気味じゃし気持ちが悪い。まぁお前さんのあの斧での【祝福】を考えるとあそこに戻りたいのは分かるが……」


「じゃぁ――」


 オッサは俺の声を遮りこう続ける。


「そもそも、ワシはお主を完全に信用しておらん、あそこに二日以上放置されていたのに食事を求めないのはなぜじゃ? 水分補給は? ワシの家に来てからお茶だけを飲んで、そうかと思えばいきなり『金の話』じゃ。おかしいことだらけじゃろ?」


 オッサは俺に対しての不信感をぶつけてきた


(あちゃー、確かにそうよね。喧嘩で顔の腫れとかは怪しまれると考えたが、まず二日以上放置されてたら水を求めるのが一番だわな……)


「『呪いのカード』をワシが知っていた時点で、本来なら真っ先にそれらの嘘の説明をするかと思っていたが、そうでもない。

【祝福】を受けた礼もあるから町までは連れてきたが、わざわざ嘘だらけの奴が『街を出たい』というのに黙ってついていくがワシにないじゃろ? 繰り返すがお主がワシを信用しておらんのと同じで、ワシもお主を信頼しておらんよ」


(はい、無理ー)


 面と向かって『信用してない』と言われるのが意外とキツイ。また泣きそうだ。


「いえ、信用してないわけではないのです。『呪い』のこともどう説明をすれば納得してくれるのかと……」


 やや泣き入りそうな声になるが、泣き落としを狙っていると思われるのも誠実じゃと思うので堪えて反論する


「納得するしないは、お主じゃなくワシの問題じゃろ?」


(いやー、そうなんだけど「朝起きたら異世界にいたんで……」は誰も信じないと思う。服装に増してヤベーやつだもの……)


 このまま、『信用』だの『納得』とか並行線でなんか埒が明かない気がするし『家を見てもらった方がいいんじゃないか?』と思ってきた。


「――分かりました、では俺が『呪い』と思っている現象をお見せするので、着いてきてもらえますか?」


「ほう、お主は自分にかかっている『呪い』を先ほどの質問をしていたということか……」


「いえ、俺も『呪い』のが分かっているわけではないのです、ただ『呪い』としか言えない現象が二日前に起きたので、それをお見せするのが『お互いに一番納得する』かと思いまして」


「ふむ、でその『呪い』がワシやこの街などに『被害を及ぼさない』と言える根拠や証拠は?」


(うーん『家の転送』という現象が俺以外に影響を及ぼすとは思えないんだけど、要は俺がこれ以上ウソをついた時のペナルティが何もないってのが問題なんだよなぁ……)


 嘘をついてきたツケがここに来てるのだろう、オッサの目は鋭さを増し取り調べのごとく(受けたことないけど)質問を返される。


 異世界で、ステータスカードを手に入れるってだけでこんなにも苦労するなら転送されたくなかった。


(ん?……ステータスカードか!)


「では、私が先ほどもらったステータスカードとカバーを含めて、オッサさんに預けます。その上で一度着いてきてもらえますか? 何度も言ってもし訳ないですが、その目で確かめていただければ納得してもらえると確信しています」


「うーむ。ワシがお主のステータスカードを持つと……その行為自体に罠がありそうじゃが……」


(なんか、このオッサンひねくれすぎじゃね? じゃぁ、なんでココまでフォローしてくれたんだろう? あの場所に行くのがよほど嫌なのかなぁ……)


 自由の身と言ってくれたし、諦めて『一人旅』にした方が楽な気がしてきた。

 もう話を切って出ていきたいのをグッと我慢して話を続ける……


「その『呪い』もあくまで個人的なものなのでオッサさんに被害がないことを保証したいのですが、私は保証するものが何もありません。ステータスカードが黒であるという事実以外は今は何を言っても信用してもらえそうにないのが実情です。カードの所持が嫌なのであればケースだけでもお返ししますのでなんとか着いてきていただけないでしょうか?」


「………………」


 しばらくお互い一切喋らない時間が続くとオッサが口を開く。


「――お前さんさっきから『着いてきて』と言ってるが、そもそもワシに案内してほしいなら『着いてきて』というのがおかしいと思わんか?」


「あっ……」


 家に戻りたいのが先に出てしまい、つい「着いてきて」と言ったが、本来ならオッサの言う通りまずは「連れていってほしい」とお願いするのが筋だ。

 本当に、こういう『やりとり』とか『交渉』とか面倒臭く自分にと痛感する。今後、人の接点を持つ時はどうにかして『適度』というのを守りながらやっていきたい。


「時間も時間じゃし、一旦腹ごしらえをしてから、そっちに向かおう、村を出たらカードケースは一度返してもらうぞ」


「!分かりました、ありがとうございます!」


(今までのやりとり何だったんだろう? )


 とりあえず家に戻れそうなので安堵するものの『あの草原』までなら1時間程度だったし早く戻りたいのが本音だ。


「――あれじゃろ、腹ごしらえもやらなくてよい、もしくは移動しながら食べればよいと思っとるじゃろ?」


 心を見透かされたようにオッサが尋ねる。


「正直その気持ちもあります。あの楽器もの値段しましたしできれば回収したいとも思っていて、誰かに盗まれる可能性もないわけではないので……」


「だいぶ素直になってきたようじゃの。まぁ相手の気持ちを考えないところは問題じゃが……」


 もうそろそろオーバーキルだ。


「一文なしのお主が飯を食うも意味があるということでよいんじゃな?」


「オッサさんの中で斧の価値がどのくらいなのか分かりませんが、少なくともあそこに置いてきたギターの値段は一食分では全く釣り合わないくらいの価格でしたよ」


(まぁ、タンスの肥やしでしたけどもね……)


「ただ、そのギターとやらの回収が目的ではないんじゃろ?」


「直接『呪い』の原因ではないですが、愛着あるものなので回収したいかどうかを聞かれたら、それはもちろん『はい』になりますよ」


 やっとギターのことを武器とか斧と言わずに『ギター』と言ってくれたオッソに対して正直に告げる。


「はぁ、面倒じゃのぉ……一旦カードごとワシに渡せ、ワシが一食抜くんじゃ。ケースだけじゃぁ信用ならんわい、街から出る時にカードごと渡してくれるならお主が泣いてた場所へ案内しよう……」


 根負けしたのか、オッソはすごく面倒臭そうに答えた。


(というかあのエレキギターと釣り合う一食ってどんなんだよ? そこそこの高級食材じゃないと全く釣り合わないぞ……)


 とりあえず俺は言われた通りカードをオッサに渡しながらお礼を言う。


「ありがとうございます。後ほど門番の方の目が届く位置で必ずお渡します。あと、絶対呪われませんから……」


をこれから確かめに行くんじゃろ? いくぞ」


「分かりました。行きましょう! 私の元々着ていた服はどうした方がいいですかね?」


 着て来た服以外にもカッターがあったり、日本の衣服なのでタグに『日本語』や『アルファベット』が表記されている。色々見つかると面倒だが服を借りている手前『物々交換』の可能性があるので確認はする。


「流石に『あの格好に戻れ!』というのは……ワシも好奇の目で見られるのは嫌じゃからの、袋を持ってくるのでそれに入れて持っていく方が得策じゃろ……」


「分かりました。何から何までありがとうございます」


 袋を渡してもらい、着替えを入れると靴を履きオッサに着いていく。当初危険を気にして『ヘルメット』を持ってきたが安全が確認できた今は邪魔すぎて嫌になる。

 因みにオッサの家の鍵の施錠についてだがどうやら家の鍵はステータスカードでやるようだ、入ってくる時『考え事』をしていて気づかなかった。


(うーん、移動中結構長かったけど話をした方がいいんだろうか、それとも黙ってついて行った方がいいんだろうか……)


 正直、鍵以外にも質問したい事は山ほどある


 ・『魔王』や『勇者』的なもの存在?

 ・ステータスカードは魔法や魔道具の類なのか?科学なのか?(魔法っぽいけど)

 ・王国制なのか?

 ・宗教、フリューメの歴史とか


(うん、無理だな……)


 焦ることはないが移動中の居た堪れなさに耐える方法が思い浮かばない、スマホの優秀さを改めて感じる。


 オッサの家を出て例の門番のところを通りすぎる。オッサの真似をしてステータスカードと手を大理石のところにかざす。例の発行時の認証と同じ手続きのようだ。

 この時点である程度ファンタジーっぽいが、現代社会にも『NFC』や『静脈認証』があるので科学でも充分対応できる事だ、そういう便利さという意味では今の所スマホより便利なものがあるとは思えない。


(インターネットのようなものがあれば最高なんだが……)


 門番に軽く会釈をすると、門番に分からないようにステータスカードをオッサに渡す。ギターの回収と家に戻ることを優先するためにもオッサからの信用を得ることが重要だろう。


「ふむ、約束は忘れてはおらんようだの」


(どんだけ俺って信用なかったんだよ……)


「では、案内をお願いします」


 街にくる時も思ったが、オッサは地図のようなものを一切見ずに歩いている。これは『この世界の全員がそうなのか?』それともオッサが特別なのか細かいところがに気になる。


(でもなぁ、これこの世界の人全員が地図なくても大丈夫だったら、仕組みを聞くこと自体が変な質問になっちゃうしなぁ……)


 聞くかどうか悩むが、特に話すこともないので聴いてみよう。どうせ家に案内したら絶対に信じざるを得ないと思うし彼の中で『変人』であることは間違いないのでいいだろう。


「こんなことを聞くの変なのかもしれませんが、オッサさんは俺がいた場所や街へ簡単に行けるんですが何か秘密があるんですか?」


「ん? そんなもん門番と言えど、街周辺の治安を守るのも仕事の一つじゃろ、木の位置や景観である程度分からんと夜に何かあった時に役に立たんじゃろ?」


(え? 街頭もない自然の中の夜? 普通に凄くね?)


 もちろん俺も実家は田舎の方だったし、子どもの頃なんてのは街頭も少なく、秋の夕暮れに山の方とかに行くと帰り道は真っ暗だった。とは言え、アスファルト舗装がされてない道であっても車の轍があったり、遠くの民家の光とかである程度予測はつけた上で懐中電灯を必ず使うなどして位置や安全を確保したものだが……


「もしかして、警備というか仕事での巡回中だったのですか?」


「まぁ、そんなもんじゃな、じゃないと軽装であんな所に行く理由がないじゃろ?」


(あんな所なのか、そんなところに転送した『基幹システム』だか『神』だか『バグ』だか知らないけど、やっぱりお城の一室だとかギルドが近いところだとかお決まりの場所に転送してほしいよ)


 もちろん、ワンチャン俺に能力があれば良さそうだが、今の所便利なマジックアイテムを転送時に与えられてるわけでも、魔力があるわけでも何かの値がズバ抜けている感じもない。

 転送時に天の声とか聞こえるとか、夢で何かフラグ的なものを回想するわけでもなかった。


(かと言って、動物やモンスターに転生してるわけでもなくエクストラハードとかそういう系でもない感じだよなぁ……)


 色々考え込んでいるとオッサが口を開く。


「――あとな、別に無理して喋って来なくてよいぞ」


「あ、はい……」


(今は無理して喋ったわけじゃないんだけど、勢いというか癖で返事しちゃったよ……)


 そうして俺は元のあのギターの草原に向かっていくのであった。

 

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