第10話 帰りたい
オッサが『どうしてカードケースを持っていたのか?』は単純に門番をしていた際に怪しい奴がいて
そのカードケースを所持し続けているオッサもどうかと思うが、一先ず色々俺の『呪いのカード』の理由が聞けてよかった。
「なるほど、で真っ黒カードの俺はこれからどうなるですかね?」
呪いの度合いで黒くなるのは分かったが、俺のカードは本当に真っ黒である。ぶっちゃけ転移自体が『呪い』みたいなもんなので、これ以上悪化もしない気がする。
視力回復したこともあるし地球でのブラックカードのイメージが残っているのでオッサの不安との意識の差は結構大きいと思う。
「……知らん……」
「えっ?」
「ワシも見たのは初めてじゃし、そもそも人のステータスカードを凝視はせんじゃろ……ワシは職業柄チェックせねばならぬが。普通は呪いが進行しているカードをおいそれと見せる奴なんじゃおらんじゃろ?」
確かに、アラフォーの俺の人生でも免許証の提示を求められる機会はそんなに多くなかった。
しかも、伝承程度でしか聞いたことのないブラックカードなので、その効果っていうのも分からないのも道理が立つ。
「一度、お前さんが自分で確かめてみるといい、それが確実じゃぁ」
(確かめる?)
確かめるってどうやればいいんだろう。だって、真っ黒の状態って呪い殺されてるとか別の物体に変えられてるとか末期の状態であって、ワンチャンここから『金色』になる可能性もあるが、それがいつやって来るのかも、どうやるのかも知らない。
「定期的にカードでステータスを確認するのが一番かもしれん」
方法が思い浮かばない俺にオッサが提案してくれる、話によると「どういうスパンなのか分からないが呪いが本物であればステータスが異常にマイナスになっていくだろう」という話だ。
もちろん、何かがきっかけでマイナスになるかもしれないし、今日は大丈夫でも明日にはすごーく下がってるかもしれない事もあると。
(うーん、すごーくってどのくらいなのだろう? )
アバウトすぎる気もするが、オッサ自信の話ではないので検証の方法を教えてくれただけでもありがたいと思う。
「とりあえず、見た目が気持ち悪いから早くケースをつけてくれんかのぉ」
(え? なんか俺のカードってゴ◯ブリぐらいの扱いされてない? 見た目一緒なのに色が黒いだけでこんな扱いになるの?)
「わ、分かりました」
(おぉ、なるほどこのカードケース覆ってると思えないぐらいピッタリするのね!)
色々思うところはあるが、俺はオッサの言われた通りにカードケースをつけ『異世界すげーよ』と感動してしまった。
「――さて、これからどうするかのぉ」
「そうですねぇ、でも俺の呪いが本当の可能性もあるのでこの町にいるのは危険ではないですか? しかも手続きの際に変色したところなんかをスタッフの方も見てると思いますし……」
そう、ここでカードケースをつけたところで町内で『ブラックカード』が出たという噂が回るのは必至だろう、おまけに代行手続きで名前も伝えている。大抵こういうのは業務というのは守秘義務がセットでついていると思うがなんせ『呪い』なのだ、仮に俺がスタッフだったら家族や大事な人には100%言っちゃうと思うし、少なくともあの施設の中のスタッフでは噂で持ちきりな気がする。
「うーむ、その可能性は低いじゃろうな」
どうやら、あの『布の衝立』を介すると色の情報が伝わらないらしい、これも昔はなかった仕組みのようだが【才能もち】がスタッフにバレることで『職業の斡旋』や『【才能持ち】に群がるようなスタッフ』『その情報を高額で売り渡す』などの犯罪やモラル違反が続出したこともあり、このような対策がとられたそうだ。
(つーか、それなら『ロボット』や『魔法』でどうにかすればいいのになぁ)
実際に日本でも完全にスタッフをなくした無人の販売機では窃盗が行われる事があるので監視カメラが必須である。監視カメラがあるということは色々な情報がバレてしまうし、今回だとカードの色も分かってしまう。『運用というのは中々難しい』というのは
「呪いが本当か分からないまま
俺だって、オッサに対して多少の『思いやり』や『恩』を感じる心はあるつもりだ。
が、これ以上オッサと時間を共有するのはよくないしオッサも精神衛生上よくないだろう。こんな結果になっているがステータスカードの発行手数料を借りているということも心苦しい。
「オッサさん、俺が一番簡単にお金を稼ぐ方法はなんだと思いますか?」
「はっ?」
「いえ、俺ほら一文なしじゃないですか? 先ほど借りたお金もありますし、生活する上でお金って絶対なくちゃいけないので……オッサさんならどうするかなぁと?」
「お前さん大丈夫か? そもそも【才能もち】はその才能で食っていくのが当たり前じゃろうに……木こりの才能あるものが漁師すると思うか?」
(ぐぅ……)
ぐぅの音が出ちゃったよ……確かになぁ。木こりの才能ある人は漁師してたら俺だって「大丈夫か?」って聞くわ。
「確かにそうですね。なるほど……」
でもなぁ、グラスハープとかでできるとか大見得を切ったものの、ヘルメットもない今の俺ができることは口笛くらいだ。音楽を奏でるだけの複数のグラスを用意する金もなければ水の用意の仕方も分からない。ただ、ここは異世界なのだ。できればもうちょっとだけ俺の思い描くミュージシャンっぽい楽器を扱いたい。ギターと――
「因みにあの斧みたいなのはお薦めせんぞ!」
(おうふ、先を読まれたよ! )
参ったな、やっぱり口笛でストリートミュージシャンしかないかなぁ、でもよく考えたら寝るところもない。せめてあの家に帰れば色々作戦は練れる……
(つーか、一度帰るのが得策じゃねーか)
「オッサさん、ギターのところに戻るのって俺一人じゃ難しいですかね?」
「お前さん、ワシの話聞いとらんのか?」
「いえ、あの楽器そのものを使うんじゃなくてですね、あれに小さい音の鳴るものが入ってるので、それを取りに行きたいんですよ」
本当は家に帰りたいんだけどね、もう俺脳を通さずに嘘を言えるようになってる気がするわ。【詐欺師の才能】とかあったらどうしよう……
「ワシは、あの口から小鳥の真似するのでも充分じゃと思うがの……」
(やっぱり、口笛がお薦めですか……)
でも気分が乗らない。せめて本当に口笛でパフォーマンスするのであればもうちょっとしっかり練習したい。どういう嘘をつけばあそこに戻れるだろうか…
「――あと、あの入れ物にお金が入ってた気がしていて……」
(これでどうだ? お金は大事だろ?)
実際は入ってないが、確認されたら「やっぱり拉致されてた相手に盗られてました!」でどうにかなるし。
「……」
オッサは無言でこちらを見つめる。
「こういうのは公平にいくのが筋じゃろな……」
オッサは何かを覚悟した表情で呟く。
「お前さん、本当の目的はなんだ? 金じゃなかろ?」
「いや、お金ですよ、お金ないと宿泊施設も借りれませんし食べ物を買うこともできないじゃないですか!」
「違う! お前とのやりとりは本当にイライラする、武器のところに戻るのは金が目的じゃないじゃろ?」
オッサの眉間には皺が寄り、明らかに怒りを感じることができる。
「……」
――やっぱり俺、詐欺師の才能ないのかも……あと、コミュ障が改善したと思ってるのも勘違いっぽい……
「お金が目的ではないのは『はい』です。が、ギターを持ち込むことは天に誓って『ない』です。どうしても戻らなければならない理由があるんです」
「天に誓う?」
(え、そこか、そうだな天に誓うって日本語ならではだもんな、この世界では何に誓うのがいいんだ?)
そもそも神という存在があるのか? もしチェリアが魔王が収めている地域だったら「魔王に誓う!」というのが良いのか?
「あ、私の育った地域では本当の本当のことを『天に誓う』と表現するんです……」
(あれかなぁ、『リアルガチで!』とかの方が通じたんだろうか)
「まぁ、いい。『呪いのカード』じゃからの、あの服装も妙な兜も何かしらの理由があるんじゃろ、そしてワシが理由を聞いたら呪われるかもしれんからのぉ……」
(おおぉ。それよそれ!)
『理由を言うと呪われてしまうから、言えないのですが!』って言い訳は百点満点の答えじゃん。出てこいよ俺!
「あと、お前さん頭悪いんじゃろう……そもそもステータスカードは既に持っているわけじゃから、
ストレートに『頭悪い』と言われた……まぁ自覚はあるが、今のこの状況は『自分一人ではあの場所に戻れる自信がないから』お願いしているのであって、俺のオツム馬鹿さも自由も今関係ない。怒っている道理もわかるし、このまま『ここでサヨナラ』なのであれば感謝は伝えないといけない。
「――そうですね。カバーまで用意してもらって感謝しています」
これまでのオッサの発言を鑑みるに『勝手に出ていけ』という感じにも受け取れるがせめて地図的なものがないとスマホに慣れ親しんだ俺としては時間効率が悪いし、土地勘もない中に夜移動するのは危険だ。
(うーん。やっぱり今の状況で
呪い付きだが自分の『身分証明書』ができたおかげで冷静になったからだろう、食事以外にも「時刻」「地図」「文字」など文化的なものの重要性に気づく。
とは言え、話す分には会話が
(そういった意味で『家ごとの転送というのは便利』なんだな……)
まぁ、これが『召喚』なら王宮で全て用意してくれているとか、ギルドのドジっ子受付嬢が色々手配してくれるとかあるんだろうけど、ほぼ丸二日に渡って大きなイベントがなかったわけだし、俺のモチベーションとこの状況はどう考えても魔王を倒しにはいく感じではない。
逆に今日に至っては色々ありすぎなのである、オッサへの恩を考えなければ早いところ『呪いのカード』を色々検証して、適当に飯を食って歯を磨いて眠ってゴロゴロしたい、金儲けとかは二の次にしたいとさえ思っている。
(自分のステータス確認までにどんだけ時間かかるんだよ、一話目で分かることがまだかかりそうだもんな……)
つくづく『人付き合いが向いてない』と思う。マイペースでやるには一人が一番だ。とりあえずここから無理なく適度な心の距離感のまま去れる『呪い』を全面に押し出した
「少し、時間をください」
長考というほど考えはしないが、どうせ考えるのであれば前もって時間を確保した方がよい。
(まず、家に帰りたい。電気がなくてもレトルトやレンチンご飯を冷えたままで食べれば腹も満たせるし、あのギターの草原から林を越えるのは日が落ちなければどうにかなるはず)
(とりあえず、帰り道が分かるもの紙があるなら地図やメモをもらう)
(ないならどのくらい歩いてきたか時間を教えてもらおう、時間の概念がないなら……歩数で……でも数の概念がないなら……)
多くのプログラム言語にはif文というのがあり、『もしAの場合はこうなるが、そうじゃない時』はelse文を使う。電車が間に合わなかった時、雨が降ってしまった時など、そういう『通常パターンではなかった時のことをどれだけ想定できるか?』がプログラミングの設計においては重要だったりする。現在『自分のプラスになるようにオッサの家から出る方法』を考えているが、正常系の処理がどうしても地球仕様になってしまうのである。
・右左の概念がなかった時は?
・ステータスカードがあるので数字の概念はありそうだが10進数じゃない時
・時間にしたって24時間じゃない可能性もある……
(うーん、こういう時は『素性をバラす』か『過去の記憶がない』って言っちゃうのがいいだろうが、名前言っちゃってるし……)
(名前も嘘ついてましたパターンもあるが、ステータスカードに偽名が使えない可能性もあるしなぁ……)
一度思考をまとめてみよう
■Aパターン『呪いで名前だけ覚えていて記憶喪失です』
名前だけ覚えているとか都合が良すぎ。音楽家の仕事をしていたとか言っちゃってるし、ステータスカードの事を『知っていた風』を装ったことなどが仇になりそう。
■Bパターン『素性をバラす』
あの家に来てもらうのが一番良いが、その行為自体が
(……どっちもダメじゃね?)
段々考えるのが面倒になってきた、もうアレだ『黙って家まで着いてきてもらうのが一番良い』かもしれない、そこで何かされても一対一だし最悪籠城してれば大丈夫だろう。
なんとか家に入って鍵を閉めたら、耳栓をして電池式のアンプを全開にしてギターのフィードバック音でも噛ませば『追っ払う』ぐらいはできると思う。
他の門番が来ても最悪、暴力は好きじゃないが例の六弦ベースで応戦だ!
「――お待たせしました」
「お。おう……」
「えー。何も言わず着いてきてもらいたいです」
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