第27話 英雄の骸

――サリヴァーン視点から開始――――――――――――――――――――――――


 騒ぎ――というには重過ぎるか。

あの大事件・・・は一度収束を迎え、私は誰も居なくなった処刑場に足を踏み入れた。

杖と共に足を踏み出す度、パシャパシャと水音がして、徐々に祭服の端が重くなって行く。

裾が汚水に浸っているのだろう。

私の損なわれた目ではそれを満足に確認することもできないが、ローレンスがどこに眠っているのかだけは不思議と分かった。


 私にとっての英雄はこんな掃き溜めで殺され、肉塊に成り果て、混乱の中で踏み躙られた挙句、誰にも弔われないまま惨めな姿を晒している。

だが、彼は遺志をあの少年に託し、安心して息を引き取った。

哀れである事に変わりは無いが、ほんの僅かな救いはあったことだろう。


 私がローレンスと同じ床に在って、彼を見下ろしたのはこれが初めてだ。

私がずっと見上げる立場だったから……

骸の傍に落ちている黒鋼の矛、私はその柄を持って立てた。


「んん、流石に重いな。…………私も、あちらの剣が欲しかったなぁ」


泣きとも笑いともつかない喘ぎ声が、この暗がりの中を反響する。

私は自分が恐ろしい。

けれど、もう後戻りはできない。


「ローレンス。あとは私に――このサリヴァーンに任せておくれ。君の死を無駄にはしない」


私は謝罪の思いと同時に、強烈な野心を胸に抱いていた。


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