第23話 英雄の骸


 騒ぎ――というには重過ぎる。あの大事件は一度収束を迎え、私は誰も居なくなった処刑場に足を踏み入れた。

杖と共に足を踏み出す度、パシャパシャと水音がして、徐々に祭服が重くなっていく。裾が汚水に浸っているのだろう。私の損なわれた目ではそれを満足に確認することもできないが、ローレンスがどこに眠っているのかだけは不思議と分かった。


 私にとっての英雄はこんな掃き溜めで殺され、混乱の中で亡骸を踏み躙られた挙句、誰にも弔われることのないまま醜態を晒している。

だが、私はローレンスが哀れだとは思わない。彼はあの少年に託し、安心して息を引き取ったのだから。


 私がローレンスと同じ床に在って、彼を見下ろしたのはこれが初めてだ。

私がずっと見上げる立場だったから……

彼と共にその傍で倒れていた黒鋼の矛。私はそれを拾い上げた。


「私も、あちらの剣が欲しかったなぁ……」


泣きとも笑いともつかない私の喘ぎ声が、いつの間にかこの暗がりの中を反響していた。

私は自分が恐ろしい。けれど、もう後戻りはできない。


「ローレンス。あとは私に――このサリヴァーンに任せておくれ。君の死を無駄にはしない」


私は謝罪の思いと同時に、強烈な野心を胸に抱いていた。


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