第23話 英雄の骸
騒ぎ――というには重過ぎる。あの大事件は一度収束を迎え、私は誰も居なくなった処刑場に足を踏み入れた。
杖と共に足を踏み出す度、パシャパシャと水音がして、徐々に祭服が重くなっていく。裾が汚水に浸っているのだろう。私の損なわれた目ではそれを満足に確認することもできないが、ローレンスがどこに眠っているのかだけは不思議と分かった。
私にとっての英雄はこんな掃き溜めで殺され、混乱の中で亡骸を踏み躙られた挙句、誰にも弔われることのないまま醜態を晒している。
だが、私はローレンスが哀れだとは思わない。彼はあの少年に託し、安心して息を引き取ったのだから。
私がローレンスと同じ床に在って、彼を見下ろしたのはこれが初めてだ。
私がずっと見上げる立場だったから……
彼と共にその傍で倒れていた黒鋼の矛。私はそれを拾い上げた。
「私も、あちらの剣が欲しかったなぁ……」
泣きとも笑いともつかない私の喘ぎ声が、いつの間にかこの暗がりの中を反響していた。
私は自分が恐ろしい。けれど、もう後戻りはできない。
「ローレンス。あとは私に――このサリヴァーンに任せておくれ。君の死を無駄にはしない」
私は謝罪の思いと同時に、強烈な野心を胸に抱いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます