第11話 ことの終わり

 弁護士が今日の業務を終了する前にとPCでメールをチェックしていると、ある人物からの受信メールに気付く。


 弁護士がその受信メールをクリックし内容を確認すると、その内容はとても短く『全て確認出来ました』とだけあった。


 弁護士はそのメールの内容にフッと鼻で笑うと「どこで見ているのでしょうね」と不思議に思うが、ことが終わったのであれば自分の仕事もこれで終わったことになるので、後は事後処理としての雑務が残っているだけである。


 では、その雑務を済ませる為にある人物へと連絡を取ろうとスマホを手に持ったところで、その画面には伊集院玲美の元父親からの着信が知らせられる。


 弁護士はスマホの表面をスワイプしてから「もしもし」と電話に出れば『準備は出来た』と言われたので弁護士は「では三日後でいいですか」と言えば『構わん』と言われたので、そこで通話を終わらせる。


「まぁ、もののついでですし」とあまり連絡を取りたくない相手だが、そういう訳にもいかないので嘆息しつつ『木村家』へ連絡を入れると「明日、伺います」とだけ伝えると電話の向こうから『おう』とだけの短い返事と共に切られる。


 弁護士も木村の素っ気ない態度に少し思うところもあったが「こんなものか」と余り深く考えずに事務所を後にする。


 翌日、木村家へを訪問すると「まずはこれを」と手に持っていたブリーフケースの中から札束を取り出しテーブルの上に並べる。


「ほう、確かにこれは予想以上だな」

「そう言って貰えると助かります。もし、少ないとごねられたら……」

「どうするつもりだった?」

「さあ……まあ、それはそれとして今日は別のお願いがあって来ました」

「お願いね。それは簡単なことか?」

「ええ、すごく簡単ですよ。人の貸し出しですから」

「貸し出しね……」


 木村は弁護士の顔を一瞥してから「誰が望みだ」と低い声で確認すると弁護士は「あの娘です」と答える。


 すると木村はニヤリと笑い「やめとけ」と柔らかく釘を刺す。それに対し弁護士は苦笑いしながら「何か勘違いされていませんか」と言えば木村もおや? と言った顔になる。


「ですから、貸し出しを希望しているのは私じゃありません。まあ、かといって誰と言えることではありませんが……」

「まあいい。帰してはくれるんだろ? まさか、そのままってことはないよな」

「それは……相手次第ですね」

「相手次第か。まあ、いい。で、まさかタダって訳じゃないよな?」

「そうですね。これと差し引きでどうです?」

「ん?」


 弁護士はブリーフケースから出したタブレットである動画を再生させるとそれを木村に確認させれば木村の顔が見る見るうちに険しくなり、大声で息子達三人を呼びつけると「どういうことだ!」と怒鳴りつける。


「オヤジ、いきなりなんだよ」

「そうだぜ」

「先ずは訳を言ってくれよ!」

「……見ろ」


 木村は息子達を一瞥してから、タブレット上で再生されている動画を息子達に確認させれば「ヤバッ!」と息子達は目を逸らす。


「説明しろ!」

「「「……」」」

「おい!」

「わ、悪かったよ」

「ちょっと、小遣い稼ぎのつもりで」

「ちゃんとモザイク掛けているじゃないか」

「そういうことじゃないだろ!」

「「「……」」」


 弁護士が再生させた動画は木村達の息子三人と玲美との絡みだった。確かに息子が言うように顔にはモザイクは掛けられているが、玲美のモザイクは多少甘く見る人が見れば分かるレベルだった。


「私も依頼者から連絡を受けて初めて知ったのですが、正直こういうのは困ります。確かにこの少女はあなたの養子として手続きしました。ですが、まだ日も経っていない内にこういうのが流されると人身売買を疑われてもしょうがないですよ」

「すまん!」

「ですので、今回のお願いは「ああ、分かった」……では、三日後に迎えに来ますので、なるべく綺麗にしといて下さいね。出来れば、当日に風呂に入れてもらえると助かります」

「分かった。そうさせてもらう」

「それから「まだあるのか!」……ええ。さっきの動画ですが、窓の外に特徴的な建物が映っているので、今後はカーテンを閉め切って夜間に撮影することをお奨めします。では」

「あ、ああ。すまんな」

「「「すみませんでした!」」」


 弁護士が帰った後、木村は並んで座っている息子達の頭の上に拳を落とす。


「「「痛っ!」」」

「巫山戯たマネをするんじゃねぇ!」

「「「……」」」

「お前達はこれから三日間、あの娘に手を出すなよ」

「「「そんな……」」」

「うるさい! とにかくだ。あの娘に手を出すなよ」

「でも……なあ」

「ああ……そうだな」

「オヤジ、それは無理だ」

「何が無理だ! 無理ならアイツらみたいにを詰めるか? ん?」

「誤解だ!」

「そうだよ」

「俺達の話も聞けよ!」

「ほう、聞かせてみろ」

「あの娘は……」


 木村が息子達に対し玲美に対し手出しするなと言えば、息子達は声を揃えて無理だと言うので、その理由を聞いて納得するが逆に面白いとなり息子達に「貞操帯を買ってこい!」と命じる。


「は? なんでそんなもん」

「バカか。挿入れたくても挿入れる穴が塞がれてればどうにもならねえだろうが。分かったのなら、さっさと買ってこい!」

「でもよぉ、そんなのどこで買うんだよ」

「そうだよ」

「知るか! ドンキでも『大人のおもちゃ屋』でもどっかあるだろうが!」

「えぇ……」

「いいから、さっさと行って来い!」

「分かったよ……なんで俺が……」


 木村は息子達を怒鳴りつけ、玲美に手を出さないように貞操帯を買いに行かせるとふと考える。


「でも、誰があの娘を……まさか……な」


 それから三日後に約束通り、玲美を迎えに来た弁護士は玲美の様子を見て驚く。


「あの……正直に言って欲しいのですが何か危ないクスリを使われてますか?」

「失礼だなぁ。いくら俺達でもそんなのは使わねぇ」

「いや、ですが……これはどう見ても……」

「ああ、俺達を疑いたくなる気持ちも分かるが、一言で言えば欲求不満だ」

「は?」

「まあ、そうなるわな。でもな、あの日から息子達にも手を出さないように言い付けてあるし、この娘にも貞操帯を着けて何も挿入れないようにしてある。そして、これがその鍵だ。ほらよ」

「え?」

「だから、そういうことだから。お前も下手に仏心出して可哀想だと鍵を外すなよ。まともに運転出来なくなるぞ。そういうことだから、後はよろしくな」

「まあ、そういうことなら分かりました。では」

「ああ、オヤジさんにもよろしくな」

「……それはどういうことでしょうか?」

「あ? もしかして当たっちまったか。ぷはは。当てずっぽうに言ったつもりだったんだけどな」

「分かっていると思いますが……」

「ああ、大丈夫だ。そこまでバカじゃねぇ」

「……信じますよ」

「ああ、信じてくれとしか言えないがな」

「……」


 弁護士は目隠しされたままの玲美を車の後部座席に座らせシートベルトを着けると運転席に乗り込み車を走らせる。


「オヤジ、いいのか?」

「だから、まだ手を出すの早いって言ってるだろ。それに材料ネタが増えたと思えばいい」

「でもなぁ~」

「いいから。それよりもあそこまでになるとはな。ありゃ、一種の生体兵器だぞ。エロテロリストってのがあったが、それよりも酷いかもな」

「あ~あの娘を相手にするなら、腹上死もあるかもな」

「そういうことだ。そうなりゃあの娘もボブに渡すことになるかもな」

「え~そりゃあんまりだぜ」

「そうだぜ、オヤジ」

「しょうがねえだろ。なら、精々殺さないことを願うんだな」

「「「……」」」


 弁護士を送り出してから数時間後に弁護士に連れられて玲美が帰って来るなり「口直し」と息子三人を奧の部屋へと引っ張っていった。


 何が起きたかも分からずに木村が弁護士に何が起きたのかを聞けば、玲美を会わせて一時間も経つか経たない内に返却したい旨の連絡を受け今に至ると言う。


 それを聞き木村は「ぷっ」と思わず零すが自分の狙い通りだったなと楽しくなる。


「まあ、何はともあれ相手を殺さずにすんでよかったな」

「ええ、全くその通りです。では、私はこれで」

「おう、また何かあったらよろしくな」

「ええ。そうですね」


 弁護士は木村に会釈すると車に乗り込み去って行く。


「アイツらも可哀想……なんかな」


 木村は奧から聞こえてくる野獣の様な雄叫びを聞きながら、仲間に入れない寂しさを感じつつソファにどかっと座る。


「しかし、俺達のことばかり知られているのは面白くねえな。ま、その内だな。今は大人しく飼われてやるさ。だけど……ふっ」


 木村は目の前に掲げた右手をグッと握りしめる。


「いつかは俺の目の前で……それまで待ってろよ」


 ※※※これで第一章を終わります。また、何か思い付いたら掲載します。※※※

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復讐代行業 @momo_gabu

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