第10話 ある家族への依頼
「初めまして。私、こういう者です」
「どうも……で、弁護士のあんたがどうしてここに?」
「はい。私の依頼者から荒事を頼むのなら、あなた方『木村家』に頼むのがいいと紹介されましたので」
「紹介ねぇ……」
仕立てのいいスーツに身を包んだ細身でメガネを掛けている男性が胸の内ポケットから取り出した名刺入れから一枚の名刺を取り出すと、目の前の男の前に差し出す。
メタボ体型の中年男性は薄くなった頭頂部を摩りながら「紹介ねぇ」と呟く。
「電話では詳しい話は会ってからと言うことだったが、俺に何を頼むと言うんだ? 見ての通り、ここはしがない解体屋だぞ。それなのに荒事を頼みたいとはどういうことだ?」
「お話しするのは構いませんが、その場合は契約していただくことが前提となりますがよろしいですか?」
「ほう、つまりは話を聞いたら最後って訳か」
「オヤジ!」
「黙れ! まだ話の途中だ!」
「でもよぉ」
「黙れと言っている!」
「「「……」」」
今、ここにいるのは弁護士と木村と呼ばれた中年男性の他にまだ二十代前半と思われる三人の男も同席している。
最初に弁護士は席を外してもらうようにお願いしたが「どうせ後で話すんだ」と同席を認めさせられた。今は、その中年男性の息子と思われる若者三人が今にも弁護士を叩き出そうとしていたが、父親である木村に止められる。
「弁護士さん。あんた、今紹介されてきたと言ったな?」
「ええ、言いました。それが何か」
「いや、こう言っちゃなんだが俺達を紹介する連中なら、先ず俺達に一言断りがあるんだが、今回はそれがない。これはどういうことなんだ?」
「さあ? それを私に言われても分かりかねますが」
「つまり、あんたは知らないと」
「はい。ただ私の依頼者からの紹介としか言えません」
「じゃ、あんたの依頼者の素性は?」
「申し訳ありません。それはお答えすることは出来ません」
「オヤジ!」
「いいから、黙ってろ!」
木村はふぅ~と嘆息してから弁護士の名刺を手に持ち弁護士をジッと見詰める。
「な? もし、あんたがここで音信不通になったらどうなるんだ?」
「それは脅しですか?」
「脅しじゃない。単に聞いているだけだ」
「そうですか。では、お答えしましょう」
「おう、教えてくれ」
「では……」
木村に弁護士がこの場でいなくなったら、どうなるのかと聞かれた弁護士はゆっくりと話し始めた。その内容としては、もし弁護士にこの場で何かあった場合、または木村家が関わったかどうか限らずに弁護士の身に何か不都合があった場合には木村家のこれまでの所業が関係各所に通知されることになるだろうと伝えられる。
「警察に
「いえ、警察には言わないそうです」
「ん? なら……まさか!」
「ええ、あなた方の依頼者達の関係者に送るそうです」
「……まさか」
「オヤジ、こいつの脅しだろ」
「そうだぜ、そんなこと出来るハズがない」
「大体、何を報告するっていうんだ?」
「そうですね。最近のことなら……」
弁護士はブリーフケースの中から用紙を一枚取り出すと、木村の前に差し出す。木村はそれを受け取り、内容を確認するとふぅ~と嘆息してから「ウソは無さそうだな」と零す。
「オヤジ!」
「騒ぐな!」
「お分かり頂けましたか?」
「ああ、あんたの依頼者が俺達をどれだけ探っているのかは分かった。その上で聞くが、もし話を聞かずにあんたを無傷で帰した場合はどうなる?」
「それは困りますね」
「そうだろうな。でも、俺達も困るんだ。なあ、どうなる?」
「そうですね……」
弁護士は少し考えた後に「私が依頼者から言われたのは」と前置きしてから話し始める。
「もし、木村様から依頼を受けない。もしくは話も聞いてもらえないのならば別の方にお土産を持って行くようにと言われています」
「それはどういう意味だ!」
「お前は黙ってろ!」
「でもよぉ……」
木村は弁護士が言った意味を理解する。要は木村がもし依頼を断ると言うのならば、木村のこれまでしてきたコトをお土産として別の者に依頼するということを。
もし、そうなれば木村に依頼した者だけでなく、木村が依頼され処理した人物の関係者も狙ってくることを意味する。
「ちっ、どうあってもヤルしか道はねぇってか」
「いいのかよ、オヤジ!」
「いいも悪いもヤルしかないだろうが。それで、報酬はあるんだろうな? いくらなんでもタダで動けってのはナシだぜ」
「ええ。それは勿論。依頼者からは手付けも含め、十分な報酬を用意しています」
「分かった。まずは、その依頼内容ってのを聞かせてくれ」
「分かりました。では、こちらを……」
弁護士はブリーフケースの中から少年少女達の資料を取り出すと木村の前に並べる。
「なんだ。まだ
「ええ。全員が高校二年生の十六歳ですね」
「で、こいつらを
「とんでもない! そんなことはお願いしません」
「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」
「それはですね……」
弁護士は木村に対し少年少女達と養子縁組をして欲しいと話す。するとそれを聞いていた息子達が騒ぎ出す。
「あんた、正気か?」
「何を考えているんだ?」
「何故、養子にする必要があるんだ?」
「息子達が不思議に思うのも当然だ。説明はしてくれるんだろうな」
「はい。それはですね……」
弁護士が木村に対し養子縁組の必要性を説明する。
「つまり、あれか。そいつらの親達はスッパリと息子達と縁を切りたいと。だが、その為には戸籍から消す必要があるから、その捨て場所として俺との養子縁組をさせる……と」
「まあ、言葉は悪いですがその通りですね。なんせ、未成年ですから」
「だがなぁ……」
「別に木村さんが面倒見ることはありませんよ。いつも通りにボブさんにお願いすればいいのですから」
『ガタッ』
「落ちつけ!」
「「「オヤジ!」」」
「こっちのことはケツの穴の皺の数まで知られているんだ。今さら、ボブとの関係くらいでビクつくな!」
「「「……」」」
弁護士から『ボブ』の名前が出たことで息子達三人が興奮し椅子から立ち上がるが、木村がそれを今さらだと制する。
「では、話を続けますね。まあ、そんな風にボブさんが寄港するのももう少し先ですが、ボブさんが出るまでには終わらせるようにお願いしますね」
「ふん、ボブのことはまあいい。で、こいつら全部か」
「ん? それはどういうことですか?」
「この娘まで乗せるのかと聞いている」
「ああ、それはご自由にどうぞ」
「いいのか?」
「ええ、構いません。少年達だけは乗せてもらいますけど」
「ああ、それは問題ない」
「オヤジぃ~」
「なんだ? 急に」
「いや、その娘はどうするつもりなのかなぁと思って」
「欲しいのか?」
「「「……」」」
木村の言葉に息子達三人が黙って頷く。
「話はそれだけか?」
「まだありますよ」
「まだ何かあるのか?」
「最初に荒事を頼むと言いましたよ」
「あ~そういや、言ってたな。で、それはなんだ?」
「それはですね……」
弁護士が話したのは少年達の親が眠らせた少年達をある場所まで連れて来た後に、その場所から回収し一箇所に集める。そして、集めた後は全裸にして目隠しをしてから椅子に縛り着ける。その後は、少年達が目を覚ましてからいろいろと処理をしてから、とある場所に放置するということだった。
「なんだ。そんなことか」
「だな」
「ああ、色々脅すからてっきり……」
「うん。一人は捕まるのかと思った」
「依頼人からは殺さないことも条件としています。どうです? これだけのことなら、もし捕まったとしても傷害止まりじゃないですか」
「そうだな。行き過ぎた親の躾と突っぱねることも可能だろうな」
「では、ご納得頂けたと言うことで、こちらの誓約書にサインと拇印をお願いします。あ、ご子息様達もお願いしますね。それと、こちらが養子縁組に必要な書類になります。一応、目を通してサインをお願いしますね。記載が終わったら、郵送でお願いします」
「分かったよ。なんなら、直に持って行ってもいいぜ」
「お断りします」
「はぁ? オヤジが態々持って行くって言ってんのを断るのか!」
「止めろ!」
「でもよぉ」
「俺達との関わりを知られたくないんだろうよ」
「ええ、その通りです。申し訳ありません」
「いいって。でもよ、俺達に何かあれば……」
「ええ、分かっています。そのようなことが無いようにしますので」
「頼むぜ」
「……」
木村は弁護士に対し右手を差し出し握手を求めるが、弁護士はそれを無視すると椅子から立ち上がり「では」と一言だけ残して去って行く。
「いいのかよ?」
「何がだ?」
「だから、このまま舐められっぱなしでいいのかって言ってんだよ!」
「そうだぜ。オヤジらしくない」
「今からでも「止めろ!」……だってよ」
「いいから、焦るな」
「「「……」」」
弁護士の父親に対する態度に三人の息子が我慢出来ないと弁護士をどうにかしないことには気が済まないと木村に対し言葉を荒げるが、木村はそれを静かに受け流す。
「あのな、まだあっちのことは何一つ分かっていない。だが、こっちのことはケツの穴の皺の数まで知られているんだ。どういう意味か分かるだろ? それに報酬も約束してくれたし
「まあ、オヤジがいいなら」
「そうだな」
「こいつ、可愛いよな」
「だな、JKだろ。今から楽しみだな」
「「「オヤジはダメ!」」」
「なんでだよ。俺が貰ったんだぞ」
「その前に俺達の妹だし」
「兄貴として妹は守る!」
「オヤジはすぐに壊すからダメ!」
「ケチ!」
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