第4話 大航海の始まり

「おい、起きろ! いつまで寝てんだ!」

「あ……」

「どこだ、ここ?」

「どこだって、いいから車から降りるんだ。ほれ」

「わ、分かったよ。降りればいいんだろ。ったくよぉ」


 昌也達は木村に起こされるとほぼ無理矢理に車から降ろされ、回りを見渡せば目の前には巨大な貨物船がいた。


「どうだ、デカいだろ」

「ああ、デカいな。それで、なんで俺達はここにいるんだ?」

「そう急かすな。ほら、あれがお前達の新しい職場であり家なんだからな」

「「「え?」」」


 木村にそう言われ、昌也達は目の前の貨物船を改めて見るが、船名はどこの国の言葉なのか分からない文字とアルファベットで書かれているが、昌也達には読めなかった。


 そんな昌也達の方に手を振りながら歩いてくる外国人の男が目に入る。


「キムラサン、オヒタシブリネ」

だ。ボブ」

「オォ! ニホンゴムズカシイネ。ソレデ、ソノコタチガオキャクサン?」

「いや、コイツらはお前の船で面倒見てくれ。これがコイツらのパスポートな」

「オウ、リアリー?」

「ああ、本当だ。金はいつも通りにな」

「オーケー、ワカリマシタ。カモン、ボーイ!」

「「「へ?」」」

「はぁ~ボサッとするな。いいから、ボブに着いていけ」

「いや、行けって言われても意味分かんねえし。なあ」

「そ、そうだよ。なんで俺達が船に乗るんだよ!」

「そうだよ! 家に帰せよ!」

「はぁ~ あのなぁ……」


 木村は嘆息してからボブの前で騒ぎ出す昌也達をジッと見る。


「家に帰せって、どこの家だ? もう、忘れたのか? お前達は、家族から捨てられたから俺が拾った。どうだ、思い出したか?」

「でも、なんで俺達が船に乗る必要があるんだよ!」

「はぁ~あのなぁ、学校も辞めてちんこもタマもないお前達をどこがまともに雇ってくれるんだ? なあ、教えてくれよ」

「それは……」


 木村に言われて昌也達はふと自分達の下半身に目をやる。そこには前まであったハズのモノが今はない。そのモノがないせいか、ふとした拍子に漏れ出してしまうこともあり、今は紙パンツを着用しているのだ。


 確かにいわゆる普通の一般企業に勤めようと思っても、今の体の状態では難しいだろう。障害者枠に当てはまるかどうかは分からないが、務めるにしても一般常識も危ういし、必要とされる学力も怪しいモノだ。


 そうなると確かに木村の言う通りに普通に務めるのが難しく感じてしまう昌也だったが、それでも船に乗るのは違うだろうと反感を持つが、木村に言われた一言でその反感すら失ってしまう。


「まあ、刃向かいたくなる気持ちも分からないではないが、お前達は強姦の犯人だと言うことを忘れてはいないか?」

「な、なんだよ。それはないって言っただろ!」

「ああ、言ったな。だが、それはお前達が大人しくしていればの話だ。もし、この船に乗らないと言うのなら、お前達の首から『私は栗田菜摘を強姦し、自殺に追い込みました』ってプラカードを首から提げて放逐するだけだ。そして、お前達の元親にも責任を取って貰うことになるだろうな」

「ふざけんな! 親は関係ないだろう!」

「悪いな。それは俺が決めることで、お前が決めることじゃない。で、どうする?」

「く……」

「昌也……」

「俺は乗る……そのオヤジの言う通り今さら家に帰ることなんて出来ないしな」

「健太、お前……」


 木村は昌也達三人をどこか微笑ましく見ていたと思っていたが、どうやら違うことを考えており、それが可笑しくて可笑しくてしょうがないって感じだった。


「クソッ! 分かったよ。乗るよ! 乗ればいいんだろ!」

「おぉ! 決めたか。じゃあ、選別だ。船に乗ってから見ろ」

「ん? なんだこれ」

「タブレットだよ。外洋に出れば暇だろうからな」

「ふ~ん、サンキュ。オッサン」

「オッサン……まあいい。お前ら仲良くするんだぞ。なんせ、これで戸籍上でもの兄弟になったんだからな」

「ん? 何言ってんだ。なあ、健太、隆」

「あ、ああ。そうだな。ホントに何言ってんだろうな」

「ホントにな」

「?」


 昌也はなんとなく歯切れが悪い二人を訝しく思うが、ボブに「ノルナラハヤク」と言われ、貨物船のタラップを上がって行く。


「オヤジよぉ、相変わらずいい性格してんな」

「そりゃどうも。でもよぉお前だってこうするの分かってて協力したんだろ? なんだよ、ありゃ。今時の男優ってのは皆ああなのか?」

「さあね、俺達は特に何もしてないさ。ただ、嬢ちゃんの気の向くままにさせてヤッただけだからな」

「まあ、いいさ。お前達のとアイツらのも足しといたから、多分驚くだろうな。あ~やっぱり、先に見せればよかったかな~もったいないことしたなぁ~」

「そう言うなよ。アイツだって、それを先に知っていたら、あんな風に仲良さそうには出来なかっただろうよ」

「それもそうか。じゃあ、俺も嬢ちゃんに「だから、それはダメだって言ったろ」……俺、頑張ったぞ?」

「それとこれとは別だから!」

「え~」


 昌也達が貨物船の甲板に上がったとほぼ同時くらいに木村達親子を乗せた商用ワゴンが港から出て行くのが見えた。


「これって外国籍だよな。言葉はどうなるんだ?」

「シンパイナイサ~ドウ、アッテル?」

「う、うん。まあまあかな。それで心配ないってどういうことなの?」

「ソノウチワカルカラ」

「そ、そうなんだ」

「ハイ、ココガキミタチノヘヤネ」

「ここ?」

「二段ベッドに……小さい机……」

「荷物はどこに?」


 昌也達が案内されたのは、小さな船室だった。その中には人一人が横になれば一杯一杯の幅しかない二段ベッドが左右に用意され、窓際に小さな机が一つあるだけの狭っ苦しい部屋だった。


「モウスグシュッコウダカラ」

「あ、ありがとう」

「「ありがとうございます」」

「イイヨイイヨ、ジャマタアトデネ」

「「「はい!」」」


 昌也達は取り敢えず、寝る場所を昌也が下のベッドを使い、健太と健は向かい側のベッドを使うことになり、一先ずは落ち着けたかなと木村から貰ったタブレットの電源を入れる。


「あの、オッサンにしては気が利いているじゃないか。暇潰しってなんだろうな?」


 昌也はベッドに浅く腰掛けてから、タブレットを触っているとそれに気付いた二人も「なになに?」と興味深げに昌也の手元を覗き込めば、そこには『ある少女の趣味』とタイトル付けされた動画ファイルがあった。


「動画? ある少女? 玲美……いや、まさかな」


 昌也はその動画ファイルをタップすると『あん!』といきなり大声が出て再生が始まる。


 そこには色白の小柄な少女が屈強な三人の若者に入れ替わり立ち替わりに性交している映像が流されていた。最初は暴行されているのかと思ったが、その少女が自ら男達の上に跨がり一生懸命に気持ちいいところを探す様に腰を動かしているのを見て、そうではないことが分かる。


 だが、昌也はある一点を見詰め驚く。そう、最初は薄暗い部屋の中で盛っていた男三人と少女一人ということがかろうじて分かる程度だったが、画面が明るくなり少女の顔がハッキリと見て取れる様になったところで昌也は驚いた。


「な、なんで玲美が……おい、ウソだろ! なんでだよ! なんで……」


 横で見ていた二人もその少女が玲美だと早い段階で気付いたのだが、驚いた様子はなかった。それは何故かと言えば、そういった様子に覚えがあったからだ。


 昌也はタブレットをベッドの上に放り投げ、船室から出ようとしたところでボブと鉢合わせる。


「オウ、ボーイ。ドコイク?」

「降りる! ゴフッ……ぼ、ボブさん?」

「ソレハノォヨ。ダメ! ワカル?」


 昌也はボブに船から降りると告げれば、間髪入れずに昌也の鳩尾にボブの右拳がめり込む。


「ソレニモウフネハハナレタヨ。ホラ、ミエルデショ」

「「「……」」」


 ボブに言われ、三人が船室の小さな円い窓から外を見れば、岸壁が遠くに離れていくのが見えた。


「「「あ……」」」

「ソユコト。ワカッタ?」

「「「……」」」


 昌也達三人はボブの言葉にゆっくりと頷く。


「ワカッタナラ、イッショニクルネ。ボスニショウカイスルカラ」


 ボブの後ろを黙って着いて歩き、やがてボブがドアの前に立ちコンコンコンとノックをすると「Captain」と言えば「Come on」と返され、ボブが昌也達に合図をすると、一緒に部屋へと入る。


「fuum……o.k. so, cute!」

「thanks」

「「「?」」」


 ボブと船長ボスの会話は分からなかったが、聞き取れたのは『cute可愛い』という単語のみだった。


 この意味は後でイヤでも分かることになるのだが、昌也達はなんとなくここでは聞いてはいけないことだと直感し黙るのだった。


 船長の部屋から出るとボブが「キニイラレタネ」と言ったことで先程の『cute』が現実味を帯びてくる。だが、ここから逃げ出すことは出来ない。後は、誰が最初にまな板に載せられるかだけの問題だった。


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