第3話 久々の再会
昌也は病室でどうして親が一度も顔を見せないのかが、さっき警察官が見せてくれた戸籍抄本で理解してしまった。
「アイツら……覚えてろよ」
昌也は嘗ては両親だった者達の顔を思い浮かべながら、いつか必ず痛い目に合わせてやると誓い静かに目を閉じる。
「起きろ、おい!」
「……ん? 誰だ? あんたは?」
「俺か? 俺はお前の新しいお父様だ。分かったら、早く起きろ。
「は? あんた、何言ってんだ? 俺の
「ったく……おい、弁護士さんよぉ、ちゃんと説明したんじゃないのかよ!」
「すみません。少々手違いがありまして……」
昌也を怒鳴りつけている中年男性の後ろから仕立てのいいスーツを着た神経質そうなメガネを掛けた男が出て来てそう説明する。
「なら、今からちゃんと説明してやれ。俺は一服すっからよ」
「はい。お任せを」
「どういうことだ?」
「失礼。私はこういう者です」
「弁護士?」
「ええ」
昌也に名刺を渡し弁護士と名乗った男は昌也に対し、今がどういう状況かを説明する。
「……と、言う訳で伊集院様の取り計らいで、あなた方四人は木村様の元に養子縁組されました。お分かり頂けましたか?」
「分からねえよ!」
「まあ、分かってもらえなくても私からの説明は以上です。今後、元の家族にご迷惑を掛けることがないようにとの元ご両親からの伝言です」
「どういう意味だよ!」
「それは「二度と帰って来るなってことだろ。お前、頭悪いのか?」……まあ、そういう意味です。では、私はこれで」
「おう、世話になったな。旦那によろしくな」
「はい。では後ほど」
「おう!」
「……」
昌也は弁護士からの説明を受け、二人のやり取りも見ていたが、まだ真実として受け止めることが出来ずにいた。だが、そんな昌也の頭を木村が叩き退院の準備を急がせる。
「痛ぇな!」
「いいから、早くしろ。昼前に出るように言われているんだからよ」
「俺はどこに行くんだ? 学校はどうなる?」
「はん! 学校だと、笑わせるな。ほとんで、行ってないんだろ。それにもう退学手続きも済んでいるからな」
「退学?」
「そうだ。お前はもう退学したんだよ」
「待てよ! なんで、そうなるんだよ!」
「はん! 女相手にしかイキれないヤツが何言ってんだ。それより、手を動かせ!」
「行かねえ!」
「あぁ?」
「聞こえなかったのかよ! 俺は行かねぇって言ったんだ!」
「そうかい。じゃあ、しょうがねえなぁ」
『ドスッ』
「うぐっ……な、何すんだ……」
「何って躾だろ、躾。言うこと聞かない息子を躾けるのは父親の役目だろうが。まだ反抗するなら「分かった!」……そうやって最初っから、素直に言うこと聞けば痛い目に合わずにすむだろ。ホント、頭悪いな」
「……」
昌也は腹を殴られたことで、木村に対し逆らう気力を無くしてしまい黙って退院準備を進め、病室から連れ出される。
「どこに行くんだよ」
『ボカッ』
「どこに行くんですかだろ。俺はお前のお父様だぞ。言葉遣いには気を付けるんだな」
「分かっ……分かりました。それでどこに行くんですか」
「教えねえ」
駐車場へと向かう道で木村にどこに行くのかと問い掛ければ、木村に頭を殴られた昌也だが、逆らうことはせずに殴られた頭を摩りながら、もう一度聞いてみるが木村からは教えないと返された。
病院の地下にある駐車場に昌也達が下りると一台の
「遅いぞ、オヤジ!」
「悪い。このガキがもたつくもんでな。ほら、お前からも謝れ」
「なんで俺が……痛っ!」
「お前、いつまでもそう強がっていると……死ぬぞ」
「な、なんのことだよ!」
「ま、いずれ分かる。今は、そう尖らずに大人しくしておけ。いいな、これは俺からの有り難い忠告だ。ちゃんと頭に叩き込んでおけ。お前がそうやって尖っていられたのは学校や家族の中だけだと早く気付くんだな」
「うっせぇ! あ痛っ! さっきから、なんだよ!」
「お前、うぜぇ……」
「はぁ?」
「いいから、さっさと乗れ!」
「くっ……」
昌也が悪態を付く度に木村から頭を小突かれ、イラついていた昌也に対し木村は大人しくしていろと言う。だが、今まで自分の好きなように突っ張り、虚勢を張って生きてきた昌也に取っては屈辱でしかない。
それでも木村の言う通りに今は大人しくしていた方がいいとは頭で思っていても今までの習慣もあり、なかなか大人しくすることが出来ずにいると、今度は車内にいた若い男が昌也を小突く。
木村をオヤジと呼ぶのだから、多分木村の家族なり、近しい者だろうと昌也は思いながら車内に乗り込むと、そこには健太と隆の二人が既に座っていた。
「お前達……」
「「昌也!」」
「おいおい、感動の再会は分かるが、ちゃんと座れや」
「あ、ああ……」
昌也達は最後部のシートに三人並べて座らせられると、それぞれに近況を報告し合うが、その内容は多少の差異はあるものの皆、似たようなものだった。そして、三人の姓が『木村』になったことも同じだった。
「なあ、昌也。これってどういうことなんだ?」
「なんで俺達は『木村』になったんだ?」
「俺に聞くなよ! って言いたいところだけど、一つだけハッキリしているのは親が絡んでいるってことだけだ」
「なんで親が?」
「そうだよ!」
「だから、落ち着いて考えれば分かるだろ。俺達はまだ高二の十六歳だ。いわゆる未成年なんだから、何かするにも保護者の親の許可が必要だろ。そんな俺達が養子に出されたことから分かるだろ」
「「……」」
昌也がそんな風に二人に説明していると、前の座席から『パチパチ』と拍手されたので、昌也達が前を見ると木村が笑いながら「ご明察!」と手を叩いていた。
「なあ、あんたは何か知っているのか?」
「あぁ?」
「……木村さん「違うなぁ」……じゃあ、なんて呼べばいいんだよ!」
「簡単だろ? 俺はお前達のなんだ?」
「ぷっはははっ! オヤジ、また仕込み甲斐のあるヤツを拾ったな」
「だろ? ほれ、言ってみろ。俺はお前達のなんだ? 『お父さん』が言いにくいのなら『パパ』や『ダディ』でもいいし、コイツみたいに『オヤジ』でもいいぞ。ほら、言ってみろ!」
木村はそのでっぷりとした腹を器用にへこませながら振り返り、後ろの昌也達に対し、自分を好きなように呼べと言うが、昌也達はまだ何も言えずにいる。
「なんだよ。まあ、いいや。言っとくが、さっきみたいに『あんた』や『木村さん』って呼んでも何も答えないからな」
「オヤジ、俺はなんて呼ばせるんだ?」
「そりゃ、お前は兄貴だろ」
「えぇ~俺だって『お兄ちゃん』って呼ばれたいのに!」
「なら、そう呼ばせりゃいいだろ。まあ、どう呼ぶかはコイツら次第だろうけどね」
「そりゃ、そうだな。おい! お前ら、俺のことは『お兄ちゃん』って呼べよ! いいな!」
「「「……」」」
「なんだよ。今度はだんまりかよ。ちっ」
車は山道を抜けると一般道へと合流し、いつの間にか高速道路上を走っていた。
「な……」
昌也はどこに行こうとしているのかを木村に尋ねようとしたが、木村のことを『お父さん』とは呼べないでいたので、口籠もってしまう。その内に「着けば分かるか」と考え、心地よい車の振動のせいなのか、久しぶりに健太や隆と会えた安心感からなのか、いつの間にスゥスゥと寝息を立てていた。
「寝たみたいだな」
「くくく、こうやってゆっくり寝られるのも今の内なんだろ。ったくオヤジは折角出来た息子をどこに連れて行こうとしているのかねえ」
「そう言うなよ。お前達を食べさせていくのもキツいんだぞ。それよりもアイツはどうだ?」
「おう! アイツな。アイツは、凄ぇよ! 今朝も俺が出るって言ってんのにずっと、咥えていたんだぜ。ありゃ、生粋のスキモノだな」
「ほう、そうか。なら、俺も後で「ダメだ!」……なんでだよ。俺が連れて来たんだぞ」
「それでも、オヤジが手を出せば、すぐに壊れるからダ~メ! しばらくは俺達で楽しむからよ」
「まあ、いいけどよ。絶対に壊すなよ」
「分かってるって。下手すりゃ、こっちが壊されそうだけどな」
「お前達三人でもそうなのか。そりゃ、楽しみだな」
「おうさ。今頃は二人で相手しているだろうから、俺も早く帰って手伝ってあげないとな」
「……やっぱり、俺も」
「だから、ダメだって!」
「ケチ!」
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