第26話「私、エッチな女の子かも」
気がついたらもう日はかなり傾いていた。エアコンで肌の表面は冷やされているのに、身体の芯は熱いままだ。
「女の子って、良かったでしょ?でも、まだこんなものじゃないから。凜ちゃんはまだ入口に立っただけだよ」
自分の中の淫らな部分を知って、少しだけ怖くなった。まだ手術を終えてそんなに時間が経っていなかったので今日は表面を愛撫されただけだ。それだけで、切なさで胸が苦しくなって吐息が漏れる。声が漏れる。そして、もっとして欲しくなる。入れて欲しくなる。これが、怖かった。
「なんか、まだドキドキしてる」
ユミ姉ちゃんに抱かれながら、ボクは自分が男の子に抱かれるのを想像してしまった。大きく、硬くなったアレ。ついこの前までボクにもついていたアレが入ってくる。そして動き始める。脈打つ。
「私にアレがあったらなあ。もっと凜ちゃんを優しく虐めてあげるのに」
「ユミ姉ちゃんって女の子が好きなんだよね?男の子になりたいとは思わなかったの?」
「それはないかな。私は女だけど、女しか好きになれないっていう。まあ変態だよね」
変態といえば、ボクはもっと変態だ。男の子だったのに、大好きな彼女のために女の子になって、今度は男に抱かれる妄想をしている。自分の性がわからなくなる時がある。
「変態でも、好き」
どうかんがえたって、ボクはもう普通にはなれない。だから、ずっとユミ姉ちゃんと一緒にいるしかないんだ。ボクを受け入れてくれるのは彼女しかいないから。
「でもね、私が男の子で、凜ちゃんが最初から女の子だったらどうなってたんだろうって考えたことはあるよ」
「考えて、どうしたの?」
「秘密。エッチな妄想をちょっとだけしたかな」
ユミ姉ちゃんはボクをからかうように笑った。
「そろそろ温泉入らないと晩ご飯の時間になっちゃうよ」
時計の針を見ると、もうすぐ六時だ。
「もうこんな時間か!凜ちゃんがかわいすぎて時間がすぎるのがあっという間だよ」
全部脱ぎっぱなしのまま、ボク達は部屋に備え付けられている露天風呂に向かった。
温泉で汗を流すと、部屋に用意されていた浴衣を着る。水色とピンクの2色が用意されていて、ボクもユミ姉ちゃんもピンクを選んだ。
「浴衣って、エッチだよね。案外身体のラインがはっきり出ちゃうし、はだけちゃったりしたらもうたまんない」
「ユミ姉ちゃんエロ親父みたいになってる」
二人で笑った。確かに浴衣ってちょっと色っぽいと思う。ユミ姉ちゃんの浴衣姿はすごく色っぽい。鏡に映った自分はそれに比べるとあまり色気がなくてがっかりしてしまう。
「また私と比べてるな」
「だって、羨ましいんだもん。もっと……」
「もっと、エロい身体になりたいって?」
エロい身体。そうだ。ボクはかわいくありたい、キレイになりたいと考えていたけど、女の子としてそれを突き詰めるとエロさになるのかもしれない。性的で、男を欲情させる身体。男を誘惑して抱かれるための身体。
「そんなことないけど。かわいくなりたい」
「もう十分かわいいよ。それに焦らなくても凜ちゃんはすぐにエロい身体になるから。思春期の女の子の身体は急成長するんだよ。本当、末恐ろしいくらいだよ」
ボクの身体はもっと成長する。この一年くらいで、女の子としての成長は怖いくらいに実感したけど、これはまだ入口だ。少女から大人の女になっていく課程をこれから経験していくことになる。
「末恐ろしいって何よ」
「だってさ、この前までアレがついてたのにこんなに女の子として成長しちゃったんだよ?取っちゃたんだから成長がもっと早くなるって言うし。もう来年には私よりエロい女になっちゃってるよ。負けちゃうなあ。恐ろしいなあ」
ユミ姉ちゃんはおどける。
「もう、何て会話してんの。人に聞かれたら大変だよ」
「誰も聞いてないからいいじゃん。男の子がいないときの女子の会話なんて結構エグいもんだよ。凜ちゃんも中学生になったらわかるよ」
「エグいって……ちょっと怖くなってきた」
「大丈夫だよ。凜ちゃんもその中に溶け込むことができるから。それが当たり前になるんだから」
そうだ。何もかもが当たり前になって、ボクは今の生活に溶け込んでいる。怖いのは最初だけで、今は女の子のまま外に出ることなんて当たり前になった。トイレだって女子トイレに入る。違和感なんてすぐになくなってしまう。
これはみんなそうなのか、ボクの特性なのかはわからない。ボクは流されやすいというより、どんな環境にも適応してしまうのかもしれない。
「なんか、お腹減ってきちゃったな。晩ご飯どんなのかな?」
「性欲を満たしたら今度は食欲ですか。凜ちゃんは欲求に素直だね」
「また変なこと言う!今日のユミ姉ちゃん、ちょっとエッチすぎるよ」
「いいじゃん。ずっと我慢してたんだから。今日はこのご飯食べた後もすぐには寝かせないからね。また汗かいたらすぐに温泉に入れるしいいでしょ?」
やっと、身体の芯の火照りが落ち着いてきたのに、またドキドキしてしまう。ボクもユミ姉ちゃんと同じなのかもしれない。
「私、エッチな女の子かも」
「それが健全なんだと思うよ」
「とにかく、まずはご飯たべないと。お腹なっちゃうよ」
ちょうどそのタイミングで夕食の時間になり、仲居さんが豪華な食事を運んできた。
なんだかんだで、充実した凄く楽しい旅行だ、と思っていた。
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