第45話 VSアイーダ 1

 自分に相応しい役割だと思う。


 魔法一つも使えず、人から軽蔑され、それでも歯を食いしばって耐えてきた。

 いつか、こんな自分でもいつか、光り輝くような魔法が使えることを夢見て。

 そしていつか、すごいよと皆から尊敬の目で見つめられて。

 そんな日が来ると、思っていた。


 自分に相応しい運命だと思う。


 生きていることがつらくなることもあった。

 でも、それも明日で終止符を打てる。

 皆の命を救って。


 初めて自分が、魔法を使えない自分が、皆に必要とされている。


『複製体』に生まれ、『複製体』としてその命を終える。

 まったく道理にかなっていた。


 そして。


 こんなに悲惨な運命を背負うことになるのなら。


 ……生まれてこなければ、よかった。


 そう、自分は『複製体』。

 人間では、ない。


 歴史の中の、人間のために存在する、小さな、一駒。


 早く、『鍵の呪文』を唱えたかった。

 唱えて、この体から、この呪われた宿命から、自分を解き放ちたくなった。



 神様。


 僕は、あなたを、恨みません。


 でも、神様。


 僕が死んで、そしてもし、生まれ変わることができたなら。




 今度は人間に、ちゃんとした人間に、してください。





 ――デュオ・ネーブルファインでは、なくて。




☆   ☆   ☆





「おはよう!」


 突然後ろから元気な声をかけられて、マリーとコートが振り返った先には、昨夜起きたことなど全く知らないような表情をしたデュオが立っていた。


 デュオのその態度に応じて、コートもいつもと変わらぬ挨拶をする。マリーも、気にも留めないような素振りで口を開いた。


「じゃ、いきましょうか。今日はいよいよ私たちにとっての決戦だからね!」


「よっしゃっ!」


 デュオが威勢良く頷く。だが、その目は、昨晩泣きはらしたのだろう、少し腫れていた。




 『定めの子』、デュオ・ネーブルファイン。


 王国の中心部にあるディース神殿、その最深部に封印された邪神を、己の命と引き換えに封印する宿命を背負う子供。

 それが、彼であった。


 封印の決壊は迫っている。今日の試合が終わり次第、デュオは、バルムス・バルトーア卿と共に神殿の祭壇に行く予定になっていた。そこで、『鍵の呪文』を唱える儀式が行われる。


 つまり、マリーとコートに会える日も、これで最後だということになる。


 だが、デュオも、マリーもコートも、まったくそのことを口には出さなかった。


 ……口に出しても、仕方のないことなのだから。


 今はただ、たとえ最後でも、試合に勝たなくてはならないのだ。首を長くして待った、準決勝戦なのだから。この試合で、すべてが決まるのだから。

 余計な私情を挟む暇などない。


 準決勝戦の相手は、前回の闘技大会優勝者と準優勝者がいるチーム『アイーダ』だった。マリーが前回の試合で辛酸をなめさせられた相手が、セイン・デルウィング。その姉で、黄龍騎士団員でもある前回の優勝者が、セリア・デルウィング。今大会最も注目されている相手であった。


 今ではもう慣れてしまった神殿内の熱気も、今日ばかりはいつもよりまして迫力があるように感じられる。その中を通っていると、「今日がお別れの日」だということも忘れてしまいそうな、そんな錯覚にデュオは陥った。


 大会は今日で終わる。準決勝と決勝がすんでしまえば、デュオは『最後の仕事』に行かねばならない。ファラを封印するという重大な使命を、遂行しなければならない。たとえそのことが、デュオの命を失わせるものであったとしても。マリーとコートとの別れを意味するものであったとしても。

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