第17話

「その女の子とあたしで晃を問い詰めたら、ようやく白状したの。あいつ、ドライブスルー彼氏をやめてなかった。それに、ドライブスルー彼女まで利用してた。昨日会った女の子は、ドライブスルー彼女で見つけた子だったみたい」



ドライブスルー彼女。



初めて聞く名前で一瞬目を見開く。



だけど考えてみれば、ドライブスルー彼氏があるのだから、その逆があっても不思議じゃなかった。



晃くんはそれも利用していたようだ。



「結局、4人と同時に付き合ってたんだって。笑っちゃうでしょ」



琴葉はそう言って小さく笑った。



そんな琴葉の体をあたしは抱きしめていた。



「おかしくなんてない」



ギュッと抱きしめたまま、あたしは言った。



琴葉は本気で恋をして、本気で晃くんと付き合っていたんだ。



騙されていたからと言って、おかしいことなんて少しもない。



晃くんは1人の人を愛することができない可愛そうな人なんだ。



あたしはそう感じた。



「もうやめようよ、ドライブスルー彼氏なんて」



あたしの腕の中で琴葉がうなづくのがわかった。



「うん……」



彼氏は無理矢理つくるものじゃない。



今回の事件であたしたちはそれがよく理解できた。



それでも琴葉はいつまでもあたしの腕の中で泣いていたのだった。





琴葉は晃くんと別れてしまったけれど、それでもすぐに元気を取り戻した。



それは表面上だけのものだったかもしれないけれど、そうやって少しずつ日常が戻ってくる。



「そういえば、SNSは消えたのかな?」



数日後、ふと思い出したように琴葉は言った。



2人でお弁当を食べていたところで、あたしは口の中にあるウインナーをゴクリと飲み下して琴葉を見た。



そうだった。



最近いろいろなことがあって、KAというハンドルネームのSNSのことをすっかり忘れていた。



あたしは気持ちが重たくなっていくのを感じた。



できればこのまま忘れていたかった。



だけど確認しないわけにはいかない。



もしもまだ投稿が消されていなければ、再度削除要請を出さないといけない。



あたしは箸を置いてスマホを取り出した。



「確認してみる」



琴葉へ向けて短くいい、SNSを表示させた。



そしてKAというハンドルネームで検索をする。



すぐに表示されたのは《アカウントは存在しません》という文字だった。



それを見てホッと胸を撫で下ろした。



KAのアカウントは削除されているみたいだ。



「なくなったんだ。よかったね」



琴葉があたしのスマホを覗き込んで明るい声で言う。



「うん」



うなづき、ふと気になって自分の名前でも検索してみることにした。



検索ボタンを押すときはさすがに緊張したけれど、結果はさっきと同じだった。



どこかであたしの名前を出されていないか気になったのだけれど、その心配はなかったようだ。



これでもう安心だ。



変な噂を流される心配もない。



スマホをしまおうと思ったが、また少し気になることがあって画面を見つめた。



あのドライブスルー彼氏についてなにか情報があるかもしれないと思ったのだ。



もう二度と行くことはないから関係ない。



でも、あれを利用している人の書き込みとかは見ることができるかもしれない。



自分は2度も使ってしまったし、あれに依存している人もいるんじゃないか?



そんな考えがよぎったのだ。



そんなことを調べてどうするつもりなのか、深い考えを持っていたわけじゃない。



ただ、あたしも琴葉もドライブスルー彼氏に傷つけられる結果になった。



簡単に手を出していいものじゃないと感じている。



これからドライブスルー彼氏を使おうと思っている誰かを助けることができるんじゃないか?



そんな気持ちだった。



それでも少し悩んでから、あたしは検索画面にドライブスルー彼氏と入力をした。



出てきたのは、都市伝説的な書き込みがほとんどだった。



そういうものがあるらしいという内容が多くて、少し安心した。



みんなドライブスルー彼氏に興味はあるものの、実際に行っている人はほとんどいないみたいだ。



そりゃそうだよね。



あたしだって最初は琴葉のことを疑っていた。



本当にそんなものがあるなんて思ってもいなかった。



適当に画面をスクロールして確認してからSNSを閉じようとしたときだった、ふとある画像が視界に入って指を止めていた。



それはドライブスルー彼氏のパネルの写真だったのだ。



誰かが実際に小屋まで行って、撮影してきたものらしい。



これは男たちの個人情報を勝手に流していることになるんじゃないかと思って気になった。



問題がある書き込みなら、KAのときと同じように削除要請を出さないといけない。



そう思って画像を拡大していく。



男たちの顔写真、年齢、身長などのプロフィールがハッキリと写っている。



これはさすがにダメだろう。



そう思ったときだった。



あたしは1人の男に釘付けになって動きを止めていた。



心臓が徐々に早鐘を打ち始めるのがわかる。



嘘。



なんで、彼がここに……?



パネルの中で微笑んでいる彼。



さわやかで優しそうな笑顔。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る