第15話
☆☆☆
それから放課後まで、あたしはスマホの音にビクビクしながら過ごすことになった。
明久くんからのメールは相変わらず届いていて、その度に心臓がドクンッと嫌な音を立てる。
KAという人間のSNSはまだ削除されておらず、誰かが見てしまわないだろうかと思って緊張しっぱなしだった。
どうにか放課後まで持ちこたえて、ようやく大きく息を吐き出した。
「里奈、一緒に警察に行こう」
琴葉に声をかけられて立ち上がる。
今日1日で体力を随分と消費してしまった気がする。
教室を出たところで廊下に出ていた生徒たちの視線が集まった気がした。
気のせいだろうか?
疑問に感じながら廊下を歩いてくと、後ろから「ほら、あの子だよ」という声が聞こえてきて思わず振り向いた。
咄嗟に数人の生徒たちがあたしから視線をそらすのが見えた。
その後もなにかコソコソと話をしていて時折「ありえない」とか「彼氏」という単語が聞こえてくる。
もしかしてあたしのことを噂しているんだろうか。
あのSNSのアカウントはまだ削除されていない。
トオコちゃんが気がついたくらいだから、誰かに気がつかれていてもおかしくはない。
あたしはいたたまれない気分になり、逃げるようにして廊下を走ったのだった。
☆☆☆
琴葉と一緒に警察署へ出向くと、女性の警官が対応をしてくれた。
ドライブスルー彼氏という部分だけ隠して、とにかく明久くんの異常性を伝えた。
女性警官は真剣にあたしたちの話を聞いてくれて、証拠として明久くんからのメールも見せた。
「今のところは厳重注意ということになりますが、これだけでも効果があると思います」
そう言いながら警官は明久くんのスマホ番号をメモしていく。
「電話をかけてくれるんですか?」
「はい。こちらから相手に電話をかけて注意を行います。たいていの場合はここでストーカー行為は収まります」
ストーカー行為という言葉にあたしと琴葉は目を見交わせた。
いつの間にかそう呼ばれる行為にまで発展していたのだと気がついた。
「SNSに投稿されている写真についても問題がある行為です。これも、早急に削除するようにこちらからも申請しておきますね」
手際よく業務を行う女性警官を見ているとだんだんと気持ちが落ち着いてきた。
この人に任せておけばすべて順調に進んでいくかもしれない。
☆☆☆
「つき合わせてごめんね」
警察署から出てきて、あたしは琴葉に言った。
琴葉は今日もデートの約束があったのにあたしに付き合ってくれたのだ。
「気にしないで。ドライブスルー彼氏を紹介したのはあたしなんだから。あたしにも責任がある」
そこまで感じる必要はないのにと思いながら、安心している自分がいた。
琴葉は自分の見方だと感じることができたからだ。
しばらくの間は警戒していないといけないだろうけれど、警察が動いているとなれば明久くんだって簡単には接触して来れないはずだ。
「本当に、今日はありがとうね」
あたしは琴葉にお礼をいい、もう二度とドライブスルー彼氏にはいかないと心に誓ったのだった。
☆☆☆
まだ彼氏はほしいと思うけれど、出会いはきっと決められたときにやってくるのだ。
無理矢理自分から奪い取りに行くものじゃない。
明久くんからのメールが来なくなって3日が経過していた。
SNSのアカウントも無事に削除されて、ようやく日常が戻ってきたと感じられる。
「琴葉は今日もデート?」
昼休憩時間に質問すると、琴葉は頬を赤らめてうなづいた。
「そっか……」
あたしは複雑な心境で呟く。
琴葉は偶然にもとてもいい人と出会うことができたみたいだ。
それを見ていてどうして自分はこううまくいかないのかと、ねたむ気持ちもわいてくる。
だけど、それを理由にしてまた失敗をしたくはなかった。
あたしはあたしのペースで好きになれる相手を探していこう。
そして放課後、校門を出たところで後ろから声をかけられた。
「トオコちゃん」
すっかり顔なじみになったトオコちゃんが駆け寄ってくる。
「里奈先輩、今帰りですか?」
「うん。トオコちゃんも?」
「はいっ! あの、途中まで一緒に帰りませんか?」
おずおずと誘ってくるトオコちゃんにあたしは笑顔でうなづいた。
付き合うことはできないけれど、トオコちゃんは悪い子ではないとわかっている。
一緒にいて苦しいとも思わない。
「そういえばうちの近所に新しくケーキ屋さんができたんですよ」
「あ、もしかしてフルーツ南のこと? トオコちゃんの家ってあそこの近くなんだ?」
「そうなんです! もうすっごい人気で、全然入れないんですけどねぇ」
トオコちゃんは苦笑いを浮かべて言う。
確か、開店当初から爆発的な人気が出て県外からのお客さんも多いと聞いたことがある。
「いいなぁ。あたしもフルーツ南のケーキを食べてみたい」
店名の通りすごくフルーツにこだわっているようで、値段もそこそこ高いと言う。
それでも毎日行列ができるくらいの人気店なのだ。
「あの、それじゃ今日一緒に食べに行きませんか?」
突然の誘いにあたしは驚いてトオコちゃんを見つめた。
トオコちゃんはほんのりと頬を赤く染めている。
「あ、でも、デートとかそういうんじゃなくて、その、友達としてというか」
しどろもどろになって説明するトオコちゃんに、思わず笑ってしまった。
「もちろんいいよ。でも、行列ができるくらいのお店だから、今から行っても売り切れてるんじゃないかなって思っただけ」
「それなら大丈夫です! 実は今日、ケーキを予約してるんです」
「え、そうなの?」
「はい! お母さんの誕生日で何種類か予約しておいたので、里奈先輩が食べたって大丈夫ですから」
「でも、それは申し訳ないよ。お母さんの誕生日なんでしょう?」
「大丈夫ですって! 3人家族なのに10個も注文しちゃったんですから」
そう言ってペロッと下を出すトオコちゃん。
どれも食べたくて沢山注文してしまったようだ。
そんなに沢山あるなら1個くらい大丈夫なのかな。
「わかった。じゃあお言葉に甘えようかな」
あたしの言葉にトオコちゃんは心底嬉しそうに微笑んだのだった。
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