第14話
あたしはトオコちゃんの顔をマジマジと見つめた。
どうしてそんなことを知っているんだろう。
心臓が嫌な音を立て始める。
「ああいうのは、どんな人がいるかわからないし。それに先輩にはちゃんとした出会いがあると思います」
もうトオコちゃんの言葉が聞こえてきていなかった。
一体誰がバラしたんだろう。
あたしはドライブスルー彼氏のことを誰にも言っていない。
知っているのはただ1人、琴葉だけ……。
あたしはハッと息を飲んで教室へかけ戻った。
後ろからトオコちゃんの声が聞こえてきたけれど、振り返ることもなかった。
そのまま教室へ入り、真っ直ぐ琴葉の元へ向かう。
1時間目の授業の準備をしていた琴葉が顔を上げ、そして驚いたように目を見開いてあたしを見た。
「どうしたの里奈?」
その言葉が言い終わる前に口を開く。
「あたしがドライブスルー彼氏を使っていることを誰かに話したでしょ」
極力声量を抑えて琴葉に詰め寄る。
琴葉はあたしの言葉に更に驚いた表情で、口をポカンとあけている。
「なに? どういうこと?」
「とぼけないでよ。1年生の子が、あたしがドライブスルー彼氏を使ってるって知ってたんだから」
言うと、琴葉は強く左右に首を振った。
「あたし誰にも言ってない。自分でも使ってるんだから、言うわけないじゃん」
「本当に?」
「誓うよ」
琴葉は真剣な表情で、嘘をついているようには思えない。
それに、琴葉が言うとおりドライブスルー彼氏を使っているのは琴葉も同じだ。
そこで彼氏まで作っているからドライブスルー彼氏の存在を知られてまずいのは琴葉の方だ。
そう考えると少しだけ落ち着いてきた。
琴葉が犯人ではない。
だとすれば、誰がバラしたんだろう?
ふと頭に浮かんできたのは明久くんの顔だった。
ハッと息を飲んでスマホを確認する。
ショートメールを確認すると、案の定明久くんからのメッセージが5件ほど追加で来ていた。
そのどれもが、メッセージをブロックしたことを攻める内容になっている。
スーッと血の気が引いていくのを感じて、立っていられなくて琴葉の机に両手をついた。
まさか明久くんがバラしているんだろうか?
可能性は十分にある。
でも、学校が違うのにどうやって?
その疑問も考えなくてもわかった。
今はネット時代だ。
ネットを使えない環境にある人のほうが少ないかもしれない。
あたしの噂を流すことなんてたやすいだろう。
それを偶然トオコちゃんが見つけたんだ……。
あたしは下唇をかみ締めた。
犯人は明久くんで間違いない。
だけどこれはまだ、ただの憶測だ。
証拠を掴まなきゃ……。
☆☆☆
昼休憩時間になると、あたしと琴葉は中庭に出てきていた。
今日はあまり日がさしていないから回りにあたしたち以外の生徒はいない。
大切な話をするのにちょうどよかった。
「ドライブスルー彼氏のこと、誰に聞いたの?」
あたしはベンチに座っているトオコちゃんへ向けて聞いた。
トオコちゃんは目の前に立っているあたしと琴葉を交互に見つめてから、スマホを取り出した。
「ここに書かれていました」
そう言って見せてくれたのは知らない名前のSNSだった。
KAというハンドルネームの人物が、街に流れる噂話を面白おかしく書いているらしい。
しかし、少し読んだだけでも乙女高校の噂が中心に書かれていることがすぐにわかった。
「なにこのSNS……」
1年B組の○○は援助交際をしている。
2年A組の××は担任教師と交際している。
そんな噂話ばかりで顔をしかめる。
「1年くらい前から活動しているアカウントみたいで、特に女の子の噂を書くのが好きみたいですね」
トオコちゃんはそう言い、画面をスクロールして見せた。
「ここです」
《2年B組の松原里奈はドライブスルー彼氏で男を物色している!》
そんな文面と共に、あたしがドライブスルー彼氏の前に立っている写真が添付されているのだ。
あたしは体がカッと熱くなるのを感じた。
いつの間に誰がこんな写真を……!
空を見上げているから、隆さんとであったときのもので間違いなさそうだ。
明久くんとの時は初めての利用だったから、空を見上げる余裕なんて持っていなかったから。
「たぶん明久って人で間違いなさそうだね」
琴葉の言葉にあたしは首をかしげた。
あたしもそうだと思っていたけれど、確たる証拠はない。
「どうしてそう思ったの?」
「このハンドルネーム。KAって明久って読めなくもないでしょ。それに、1年も前から乙女高校の生徒に目をつけていたんだとすれば、里奈がドライブスルー彼氏で明久くんを選んだときにすぐに食いついてきた理由にもなる。それに今里奈につきまとっているのだって、乙女高校の生徒を手放したくないからかも」
仮にそうだとして、どうして明久くんはそんなに乙女高校の生徒に執着しているんだろう。
この辺にある女子高は乙女高校だけだから、悪目立ちをしてしまうことはわかっている。
でも、まだなにか理由はありそうな気がした。
「とにかく、この書き込みは削除要請を出しておきましょう。それに、心当たりがあるなら警察に連絡してもいいかもしれないですよ」
トオコちゃんはそう言いながら手早くSNSの管理会社に削除要請を申請した。
これでちゃんと消えてくれればいいけれど。
「警察って、こんな程度で動いてくれるの?」
あたしは不安になって誰とにもなく質問をした。
警察はなにか事件が起こってからでないと動いてくれないというイメージがある。
「少しくらいはなにかしてくれるかもしれない。放課後、一緒に行ってみる?」
琴葉に言われて、あたしは大きくうなづいたのだった。
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