第13話

最初からわかっていたことだった。



隆さんとあたしとではあまりに不釣合いだと。



いくら自分が相手を求めても、相手から求められるような人間にならなければ成立なんてしないということ。



全部わかった気になっていただけだった。



あたしはベッドに突っ伏して少しだけ泣いてしまった。



告白もしていないのに振られた気分だ。



制服のままベッドに突っ伏していうと、クシャッと紙が丸々ような音が聞こえてきて、自分のスカートに手を伸ばした。



突っ込んで確認して見ると、トオコちゃんからの手紙が出てきた。



今日の一件で女の子から告白されたことなんてすっかり忘れてしまっていた。



一瞬その手紙を読まずに捨ててしまおうかと思ったが、思い直して便箋を引っ張りだしてみた。



そこには女子らしい、丸っこい文字でトオコちゃんの気持ちが書かれていた。



《里奈先輩へ。



突然こんな手紙を出してごめんなさい。



実はずっと前から里奈先輩のことを見ていました。



すごくかっこよくて、可愛くて素敵な人だなと思っています。



気持ち悪いと思われるかもしれませんが、気持ちだけ伝えたいと思って手紙を書きました》



その文面に自然と涙が浮かんできていた。



トオコちゃんは振られるとわかっていてこの手紙を書いたんだ。



それはとても勇気のある行動だった。



それなのにあたしは、あんな邪険に扱ってしまった。



約束があるから。



相手は隆さんだから。



あたしはぐずぐずと涙を流しながらトオコちゃんからの手紙を大切に机にしまったのだった。


☆☆☆


随分泣いてしまった翌日。



洗面所で自分の顔を確認すると、少しだけ目元が赤くなっていた。



しかし泣きつかれたおかげで睡眠は十分に取れたから、昨日より今日のほうがマシな顔をしているように見える。



もし、隆さんとのデートが今日だったら……。



つい、そんな風に考えてしまって左右に首を振って考えをかき消した。



隆さんとの関係はもう終わったんだ。



なにも期待しちゃいけない。



自分自身にそう言い聞かせて、家を出る。



登校中にスカートの中でスマホが震えた気がして、あたしは邪魔にならない場所に身をよけて確認をした。



それを見た瞬間「えっ」と、小さく呟いていた。



それは明久くんからのショートメールだったのだ。



電話番号の交換もしているから、こちらのメーラーを使って送ってきたのだ。



途端に背筋に嫌な汗が流れていくのを感じた。



メッセージを確認しなきゃと思いながらも怖くてできない。



あたしは一度目を閉じて、ゴクリと唾を飲み込んだ。



一体どんなことが書かれているんだろう。



心臓が早鐘を打ち始めて、嫌な予感で胸中が支配されていく。



あたしは大きく息を吸い込み、そして両目を開いてメールを確認した。



《明久:どうしてブロックするの?》



たったそれだけの文面。



なのに、あたしの全身に鳥肌が立っていた。



えもいわれぬ気持ち悪さが突き上げてきて、めまいがした。



あたしは返事をせず、足早に学校へ向かったのだった。


☆☆☆


「里奈、昨日はどうだった?」



教室に入ると同時に、挨拶もなしに琴葉が質問してくる。



聞かれてあたしは心がずっしりと重たくなるのを感じた。



琴葉にはちゃんと説明しなきゃいけないとわかっていたけれど、振られたことを伝えるのはさすがに勇気がいる。



あたしは暗い表情を浮かべて左右に首を振って見せた。



それだけで琴葉は何があったのか理解し「そっか……」と、小さく呟いただけだった。



「でもまぁ、そんなにすぐに運命の相手と出会うわけないよね」



琴葉は気を取り直すように言った。



「うん。そうだね」



そんなことわかってる。



だけど琴葉はたった数時間で彼氏を作ってしまったじゃないか。



そんな意地悪な気持ちがわいてきて、あたしは口を引き結んだ。



このままじゃ琴葉に八つ当たりをしてしまいそうだったからだ。



自分の席について黙々と教科書を移動していると、ドアの前に見知った顔があることに気がついた。



昨日あたしに告白してきた、トオコちゃんだ。



あたしは驚いて目を丸くし思わず席を立っていた。



トオコちゃんもあたしに気がついて軽く会釈をしてくる。



どう考えてもあたしに用があるみたいだ。



「どうしたの?」



廊下に出て質問をすると、トオコちゃんは気のようとは打って変わってひどく真剣な顔をしていた。



「ちょっと話があるんです」



「昨日のことだったら、申し訳ないんだけど――」



「そうじゃありません」



あたしの言葉を途中でさえぎると、トオコちゃんはあたしの手首を掴んで歩き出した。



ひと気の少ない場所まで来て立ち止まると、不安そうな表情をこちらへ向けた。



一体なんの話だろう?



昨日のことじゃないみたいだけれど、それ以外になんの用事があるんだろう?



なんとなく嫌な予感がしてあたしは意味もなく周囲を見回した。



「先輩がドライブスルー彼氏に言っているって聞きました。やめた方がいいですよ」



トオコちゃんは声を潜め、けれどとても真剣な表情で言った。

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