第12話

☆☆☆


約束場所に到着すると、すでに隆さんは来ていた。



「ごめんなさい。待ちましたか?」



「今来たところだよ」



そんな会話を交わしながら歩き出す。



隆さんとあたしの慎重さはきっとちょうどいいくらいだ。



行きかう生徒たちがチラチラとあたしたちのほうを見ている気がする。



こんなカッコイイ人の隣を歩いているあたしを、きっとみんながうらやんでいるんだろう。



そう思うと、自然と背筋が伸びた。



「この前新しくできたコーヒーショップに行ってみたいんだけど、いいかな?」



「いいですね、あたしも行きたいです!」



どこへ行くか決めてこなかったので、こうしてリードしてくれるもの嬉しい。



田舎だから、デートするにしても同じような場所ばかりになってしまうし。



隆さんが連れてきてくれたコーヒー店はとても落ち着いた雰囲気のあるお店だった。



全席仕切りがついているのでひと目を気にすることもない。



「おいしい」



ホットコーヒーを一口飲んで、安堵するように微笑む隆さん。



あたしも注文したアイスコーヒーに口をつけた。



飲みやすいように甘くしてもらっている。



「隆さんはどこの大学を受けるんですか?」



昨日の時点で受験するということは聞いていたので、あたしはそう話を切り出した。



「東京の丸内大学だよ。あまり名門とは言いがたいけれどね」



丸内大学といえば医学部で有名な大学で、あたしは目を見開いた。



「お医者さんになるんですか?」



「ゆくゆくは、そうなればいいなって思ってるけどまだわからないよ」



隆さんはそう言って照れ笑いを浮かべた。



でも、勉強ができなければ目指せないような大学であることに間違いはない。



途端にあたしは目の前にいる隆さんが遠い存在になったような気がして焦りを感じた。



受験勉強の支えくらいなら自分でもなれると思っていたが、それはとんでもない勘違いだったのかもしれない。



緊張感が増してしまい、コーヒーを飲んでもその味を楽しむことができなかった。



隆さんが何か言っているが、何を言っているのか理解するのも難しい。



あたしはただひたすら愛想笑いを浮かべるばかりだ。



「ごめん。あまり楽しくなかったよね」



コーヒー店を出て隆さんが申し訳なさそうな顔で言った。



「そ、そんなことないです! あたしがつい、ぼーっとしちゃったから……」



慌ててそう言うが、隆さんは難しそうな顔をしている。



外はすでにオレンジ色に包まれていて、そろそろ帰らないといけない時間だ。



「あの、メッセージ交換のことなんだけどさ」



歩きながらそう言われてハッと顔を上げた。



そうだ。



ここでメッセージ交換をするかどうかにかかっているんだ。



隆さんの目指している場所の高さに驚き、すっかりそんなことは忘れてしまっていた。



「あ、はい」



あたしはすぐにスマホを取り出そうとしたが、それは隆さんの言葉によってさえぎられた。



「今回はやめておこうと思うんだ」



全身がスーッと寒くなっていくのを感じた。



背の高い隆さんの顔は夕焼けの太陽に照らされて逆光になり、どんな表情をしているのかわからない。



「そう……ですか」



「ごめんね。今日は楽しかった、ありがとう」



隆さんはそう言うと、あたしに背中を向けて歩き出した。



メッセージ交換に失敗すると、もう家に送ってもらうこともできないんだとあたしはこのとき初めて知ったのだった。

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