第9話

☆☆☆


あたしはいろいろな男の子とデートなんてしない。



そう思いながらも、授業中に浮かんでくるのはドライブスルー彼氏の小屋だった。



パネルをしっかりと吟味して明久くんを選んだのだけれど、もちろん彼よりもカッコイイ人はいた。



大人で、お金を持っていそうな人もいた。



その中であたしは一番優しそうだからと思って明久くんを選んだんだ。



それは確かに、1人目としては正解だったと思う。



明久くんは実際に優しくて真面目な人だった。



でもそれは1人目だから満足できたことなのかもしれない。



これから何度か明久くんとデートを重ねて、男性に慣れた頃にはどうなっているのだろう?



明久くんの真面目っぷりに退屈しているかもしれない。



趣味の読書の話にも飽きているかもしれない。



それならもう少し刺激的で、女の子の扱いに慣れている人がいい。



かっこよくて、ずっと一緒にいても飽きなかったり、お金を沢山持っていて遊びに連れて行ってくれる人がいい。



そう考え始めるともう止まらなくなっていた。



あのパネルの中でもっともっといい人はいるはずだ。



早く行かないと、他の女性にとられてしまうかもしれない。



もう1度だけ。



もう1度だけなら、行ってもいいかもしれない……。


☆☆☆


自分の考えがどんどんドライブスルー彼氏へ移動しているうちに、あっという間に昼休憩になっていた。



あたしはいつも教室で琴葉と一緒にお弁当を食べている。



今日もあたしは椅子とお弁当箱を持って琴葉の机まで移動した。



「里奈の好きなタイプってどんな人?」



お弁当の蓋を開けたところでそう聞かれてあたしは動きを止めた。



突然聞かれたらなかなか出てこないもので、あたしは動きを止めたまま考え込んでしまった。



「そこまで考えるってことは、明久くんって人ではないってことでいい?」



琴葉はウインナーを口に運んでそう言った。



そういわれればそういうことになるのかもしれない。



「顔だけで言えば、アイドルの真崎君が好きだけど」



あたし5人組のアイドルグループを思い出しながら答えた。



最近人気急上昇中の、アイドルで平均年齢が17歳だ。



あたしたちと同じ年齢の子達がテレビに出ている姿は、とても輝いて見える。



「真崎君かっこいいよね。さすがにそこまでかっこいい人はいないと思うけど、今度行って見たらどう?」



「えぇ~、どうしようかな」



曖昧にごまかしながらもすでにドライブスルー彼氏へ行く決心はできていた。



相手は彼氏になる人なのだ。



やっぱり妥協はしたくない。



そう思ったときだった、まるであたしの考えを見透かしたかのようにスマホがなった。



明久くんからのメッセージだ。



少し気まずい雰囲気になりながらも、あたしはそれを確認した。



《明久:今なにしてるの?》



たったそれだけのメッセージだけど、嬉しくないと言えば嘘になる。



相手が明久くんでも、こうして異性からの連絡をもらえるのはやっぱり嬉しい。



今までの休憩時間はありえないことだったし。



「どうしたの里奈、顔が赤くなってるけど」



「え? き、教室が暑いのかも」



あたしは慌ててそう答えて、手で自分の顔をあおいだ。



すぐに顔に出てしまうところも、どうにかしたほうがいいかもしれない。



ご飯を食べながら、片手で明久くんにメッセージの返事をした。



それはすぐに既読がついた。



きっと、メッセージ画面を表示させたままでいるのだろう。



《明久:今日のお弁当はなに?》



《明久:自分で作ってるのかな?》



《明久:僕はこれからお昼休憩だよ》



立て続けに送られてきたメッセージにあたしは眉を寄せた。



いくら休憩時間といっても次々と送ってくるのはどこか違う気がする。



あたしはメッセージ画面を閉じて、スマホをポケットにしまったのだった。


☆☆☆


それからもあたしと琴葉は互いの好きなタイプなどで会話が盛り上がり、休憩時間が終わる前になってようやくトイレに立った。



用を済ませて洗面台の前に立つと、ポケットの中でスマホが震えた。



琴葉と話をしているときにも鳴っていた気がするけれど、確認していなかったのだ。



スマホをとりだしたとき、画面に表示されたメッセージにギョッと目を見開いた。



全部明久くんからのメッセーじだったのだ。



《明久:どうして返事くれないの?》



《明久:既読無視はやめてほしいんだけど》



《明久:今なにしてるの?》



他にも似たような内容のメッセージが10件近く入っている。



昼休憩の時間だけでこんなにメッセージがくるなんて……ゾクリと、背筋が寒くなって体を震わせた。



明久くんは真面目だけれど、女の子慣れていないといっていた。



そのせいでこんなにメッセージを送ってくるのかもしれないけれど、ちょっと異常な雰囲気だ。



メッセージ画面を表示させた状態でしばらく立ち尽くしていたあたしだけれど、覚悟を決めて、明久くんからのメッセージをブロックしたのだった。

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