第7話
そこそこ可愛い服は持ってるものの、デートという特別なイベントを意識して購入したことは一度もないのだから、仕方がない。
と、そこであたしは昨日の自分の服装を思い出していた。
昨日は自転車を使ったからズボンだった。
上も無地のTシャツで、しかもスッピンといういでたち。
暗闇だと言ってもそんな姿をあたしはすでに明久くんに見られているのだ。
今日頑張ってオシャレをしたって、印象はそんなに代わらないんじゃないか?
そう思うと、途端に気持ちが軽くなった。
どんな服を選んでも昨日よりはマシになるはずだ。
「よし! さっさと着替えて、出かける準備しなくちゃ!」
あたしはベッドから勢いよく起き上がったのだった。
☆☆☆
そして、約束場所のコンビニの前に到着していた。
約束時間まであと10分ほど。
到着したときからあたしの心臓は早鐘を打っていてひどくうるさい。
人生初めてのデート。
人生初めての異性との約束場所。
なにもかもが新鮮で緊張に満ちている。
そわそわと落ち着かない気分で明久くんと待っていると、ジーンズとTシャツ姿の男子が近づいてくるのが見えた。
その顔には見覚えがあって、心臓が大きく跳ねた。
彼はあたしに気がつくと頬を赤くし、駆け寄ってきた。
「ごめん、ちょっと遅くなったね」
「ううん。今来たところ」
そう答えてから、まさか自分がそんなお決まりのセリフを言うときが来るなんてと、自分自身で驚いた。
「お腹は空いてる?」
「うん」
本当は緊張で食事所ではなかったけれど、間を持たせるためにうなづいた。
「って言っても、ファミレスとかだけどいい?」
「もちろんだよ」
相手もあたしも学生だ。
高いレストランなんて期待していないし、そんな場所行った事もないからどうすればいいかわからない。
あたしたちは肩を並べて近くのファミレスへと向かった。
こうして男の子と2人で歩いているなんて、本当に夢のようだ。
まわりから見たら学生カップルに見えるだろうか?
そんな期待をしながらファミレスに入ると、沢山のお客さんでにぎわっていた。
休日の昼間だからだ。
人の目が少し気になると感じながらも、2人で席についてメニューを見る。
そのなんでもない動作ひとつひとつがすべて新鮮だった。
「昨日は聞けなかったけど、質問してもいい?」
注文を終えてから明久くんが言った。
「なに?」
「里奈ちゃんはどうしてドライブスルー彼氏を使おうと思ったの?」
声を小さくして質問する明久くんにあたしは言葉を失った。
どう答えるのが正しいだろうか?
彼氏がほしかったから、というのは当然のこととして、もっといい言い方がないだろうか。
逡巡して固まってしまったとき、明久くんが「変な質問をしてごめん」と、苦笑いを浮かべた。
「ううん。気になるのは普通だと思うし」
そう答えながらも、あたしはうつむいてしまった。
友達への反発精神もあっただなんて言えない。
「僕は、少しでも女の子と会話できればいいなって思って、ドライブスルー彼氏を使ったんだ」
「そうなんだ」
「うん。ほら、見た目の通り全然女の子と仲良くできなくてさ」
そう言って自嘲気味に笑う。
そんなことを言われたら、あたしの選んだ趣味が悪いと言われているような気分になる。
「だから、里奈ちゃんが本当に彼氏がほしくてあそこを利用したなら、もっとカッコイイ人を選ぶと思って、不思議だったんだ」
なるほど。
明久くんは自分が選ばれた理由がわからかったみたいだ。
別にあたしの趣味を非難されたわけじゃないとわかり、ホッと安堵した。
「あたしも、男の人と仲良くしたことないの。だから明久くんなら話やすそうだなと思って選んだんだよ」
あたしは素直にそう言った。
すると明久くんは納得したように笑顔になった。
「そっか。確か女子高だったよね? だからあまり男子と関わる機会がないの?」
運ばれてきたパスタに口をつけて、あたしはうなづく。
「うん。みんな恋がしたいって文句ばかり言ってる」
クラスの様子を思い出してあたしは思わず笑ってしまった。
女の子の間で恋話ができないのはなかなかのストレスで、みんな毎日1度は『彼氏がほしい』とボヤいているのだ。
「だけど女子高って楽しそうだよね。異性がいないと、気にかける必要がないこともあるでしょう?」
「それもあるね。先生も女性が多いから、着替えとか本当に気にしないもん」
「へ、へぇ……」
今の言葉に明久くんは顔を真っ赤にさせてしまった。
いけない。
あまり大胆な発言は避けたほうがいいかもしれない。
「あ、明久くんは学校ではどんな感じなの?」
慌てて話題を変える。
「僕は見ての通りだよ。地味で目立たないタイプ。図書委員をしているから、そこでの友達が多いかな」
本当に見ての通りの学生生活を送っているみたいだ。
そういうタイプだからこそ安心できると思って選んだのだけれど。
それからもあたしはちは他愛のない、そして少しぎくしゃくとした会話を弾ませて、ファミレスを出た。
なんだかんだで、もう3時間くらい経過していることに驚いてしまった。
時間の経過が気にならないということは、案外あたしと明久くんは馬があうのかもしれない。
「それじゃ、メッセージ交換なんだけど……」
あたしの家の近くまで来て、明久くんが言った。
「う、うん」
あたしはごくりと唾を飲み込む。
ここでメッセージ交換が成立すればまた明久くんと会うことができるのだ。
あたしはできればもう1度会いたいけれど、明久くんはどうだろう?
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