第4話

☆☆☆


琴葉の彼氏は本物だった。



しかもかなりかっこよくて、優しい人。



自宅に戻ったあたしはなんだかスッキリとしない気分でベッドに横になった。



ドライブスルー彼氏でできた彼氏。



そんなの、本当に大丈夫なんだろうか?



友人へ対する不安。



そして、そんなもので彼氏を作るなんて琴葉の考えが理解できないという否定的な感情。



だけどなにより自分の仲で一番大きな感情は……ねたみ。



まさか自分より先に琴葉に彼氏ができるなんて思ってもいなかった。



ついこの前まで同じように女子高だから出会いなんてないよねぇと口にしていたのに。



まるで琴葉に先を越されたような気分だった。



モヤモヤとした気分を抱えたままでいたとき、琴葉からメッセージが送られてきた。



《琴葉。ドライブスルー彼氏の詳しい場所だよ》



その文章と共に地図が添付されていた。



あたしは目を見開いてソレを見つめる。



地図に書かれている赤い丸は、本当に町外れの寂しい場所だった。



確か、山道に差し掛かる前あたりじゃないだろうか?



そこには特になにもなく、時々思い出したように自販機が設置されている程度の場所だった。



《琴葉:ドライブスルー彼氏の営業時間は夜10時から朝の3時までだから》



「なにそれ。どうしてそんな夜中なの?」



返事なんてするつもりはなかったけれど、気になってつい返信してしまった。



《里奈:どうして夜中なの?》



《琴葉:さすがに利用する方も、待ってる彼氏の方も恥ずかしいからじゃないかな?》



そう言われればそうかもしれない。



もし仮に、本当にドライブスルー彼氏なんてものがあるのなら、できるだけ人には知られずに利用したいだろう。



でもそうすると、琴葉は真夜中に晃くんとデートをしたことになるのだ。



あたしは首をかしげた。



やっぱりドライブスルー彼氏なんて嘘なんだろうか。



琴葉と晃くんは実はずっと前に出会っていて、デートを重ねていたととか?



そう考えるほうがずっと自然だった。



琴葉はきっとあたしに言い出す機会がなかっただけだ。



「ドライブスルー彼氏なんて行かないし」



あたしは呟いて、スマホをベッドの上に投げ出したのだった。


☆☆☆


ドライブスルー彼氏なんて行かない。



興味もない。



そう思っていたあたしだけれど、夜の12時ごろすっかり寝静まった両親を起こさないように家を出ていた。



スマホとサイフをズボンのポケットに入れて、自転車を漕ぎ出す。



琴葉から贈られてきた地図はすでに頭の中にインプットされていた。



家から自転車を使って30分くらいの場所のはずだった。



少し行ってみるだけ。



琴葉の言っていることが本当かどうか調べるだけ。



それでもし本当にあったら、それを確認して帰るだけだ。



別にやましい気持ちなんて少しもない。



両親に内緒で出てきたのだって、こんな夜に一人で外出することがバレたら心配されるからだ。



ただそれだけ。



頭の中でグルグルと言い訳を考えながら自転車をこいでいると、目的地付近に近づいてきた。



目の前には大きな山がそびえ立っていて、これより先は県境の山道に差し掛かる。



周囲には人気どころか、建物もなく、街頭すら立っていない。



こんなさびしくてなにもない場所に、妙な小屋があるわけがない。



スマホの明かりで周囲を照らしながら自転車をこいで見ても、やはりなにも見当たらない。



やっぱり琴葉の嘘だったんだ。



そうわかるとなんだかホッとしている自分がいた。



少なくても、放課後まで出会いがないと嘆いていた琴葉に翌日には彼氏だできていた。



なんて、奇妙な出来事はなかったことになるんだから。



普通に出会ったのならそう言えばいいのに。



心の中で文句を言いながら、それでも一応自転車を降りて周囲を念入りに調べてみようとしたときだった。



山の麓に、普段は見落としてしまうようなわき道を見つけたのだ。



そこには街頭もなく、車一台がギリギリで通れるくらいの道幅しかない。



舗装もされておらず道が悪い。



少し迷ったけれど、あたしはそのわき道へ入って見ることにした。



考えてみればドライブスルー彼氏なんてものが、大通りに面した場所にあるとは思えない。



そんな堂々と設置されていたら、あたしでも目についているはずだ。



わき道へ入ると道の横に小川が流れていて、チロチロとかすかな水音が聞こえてきた。



夏になるとホタルでも飛びそうな場所だ。



小川を上流へ向けて歩いていると不意に右手に開けた場所が現れて足を止めた。



周囲が暗いせいで、パネルの光がやけに明るく見える。



パネルで浮かび上がって見えるのは、小屋というにはもう少し大きな建物だった。



プレハブ小屋のようだけれど、十分な大きさがある。



その周囲をグルッと車が回れるくらいの広が、十分にとられていた。



ドライブスルー彼氏……。



小屋の上部に赤い文字で書かれた看板があり、それはひとつのライトによってかろうじて浮かびあがっている状態だった。



あたしは呆然としてその場に立ち尽くしてしまった。



本当に見つけてしまったドライブスルー彼氏。



琴葉はここで晃くんを見つけたのだ。



ゴクリと唾を飲み込んで小屋に近づいていく。



少し恐怖と、大きな好奇心。



せめて、どんな男の人がいるのか確認してみたかった。



ここまできてなにもせずに帰るのも少し寂しいし。

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