第3話

次の日は休日で、目を覚ましたときは11時を過ぎていた。



リビングへ降りて行っても両親の姿はなく、冷蔵庫を開けると朝ごはんの目玉焼きがラップにかけられて入っていた。



あたしはそれを取り出し、インスタントのお味噌汁を作って朝食を食べることにした。



テレビをつけていても、今の時間はあまり面白いことはやっていない。



どのテレビ番組もひっきりなしに通信販売の商品を宣伝している。



ラジオ代わりにそれを聞きながらご飯を食べ終えると、すでに12時前だ。



このままダラダラと休日を満喫してもいいのだけれど、それじゃなんだか寂しい気がする。



しばらく迷ったけれど、あたしは琴葉に連絡してみることにした。



《里奈:やっほー、今なにしてる?》



《琴葉:おはよう! デート中だよ》



返ってきた文面にあたしは口に含んでいたお茶を噴出してしまいそうになった。



デート?



琴葉はまだあたしを騙し続けているつもりなんだろうか。



少しムッとして唇を引き結んだ。



《里奈:冗談はいいから、暇なら遊びに行こうよ》



《琴葉:冗談なんかじゃないよ。彼氏ができたことは説明したでしょう?》



《里奈:それ自体が冗談だったんでしょう?》



《琴葉:なに言ってるの? ごめん、これから映画だから、またね!》



無常にも終わらされたメッセージのやりとりにあたしは画面を見つめてポカンと口をあけてしまった。



ためしに琴葉に電話をしてみたけれど、それも出てもらえなくなっている。



本当に彼氏と映画に行っているんだろうか?



驚きと同時に不信感が浮かんできて、あたしは勢いよく立ち上がっていた。



この小さな町の中に映画館はひとつしかない。



あたしはすぐに自室へ戻り、着替えを始めたのだった。


☆☆☆


友達を疑って尾行する日が来るなんて思ってもいなかった。



あたしは映画館が近い商店街まで一人でやってきていた。



一応普段はかぶらない帽子を目深にかぶり、顔がバレないようにしている。



ネットで確認してみたら映画が終わるのは2時過ぎ。



今の時間は1時40分くらいだ。



商店街のお店を冷やかして歩きながら映画が終わる時間まで待ち、あたしは映画館へと向かった。



大きな映画館とは違い、上映される映画は1日に1種類だけだ。



今日の映画は恋愛ものだったようで、出てくるのはカップルが多い。



あたしは目をこらして映画館から出てくるカップルたちを確認した。



その時、見慣れた琴葉の姿を見つめて思わず「あっ」と声に出していた。



慌てて手で口を塞ぐ。



琴葉の隣には背の高い男の人が歩いていて、2人は仲よさそうに手をつないでいるのだ。



その光景は誰がどう見てもカップルそのものだった。



あたしは唖然として立ち尽くしてしまった。



琴葉に彼氏ができたことは本当だったんだ。



隠れることすら忘れて2人の姿を見つめていると、琴葉がこちらに気がついた。



咄嗟に逃げようかと思ったが、もう遅い。



あたしは笑顔で駆け寄ってきた琴葉に手を握られていた。



「里奈! 偶然だね、どうしたの?」



無邪気に質問しくる琴葉にあたしは慌てて「買い物を頼まれたの」と、嘘をついた。



そして琴葉の隣にいる男性へ視線を向ける。



背が高くて整った顔立ちをしている。



髪の毛はサラサラで、思わず触ってみたくなる。



カッコイイ男性がタイプの琴葉が選びそうな相手だった。



「あ、こっちは晃くん。友達の里奈」



紹介されて、あたしは顔だけでお辞儀をした。



つい、晃くんと呼ばれた彼の顔をマジマジと見つめてしまう。



晃くんはさわやかな笑顔を浮かべて「はじめまして」と言った。



その声は低く、思ったよりも大人びている。



「晃君は星丘高校なの」



「そ、そうなんだ」



星丘高校といえば隣町の高校で、偏差値が高いことで有名だった。



かっこよくて頭もいいなんて、まるで漫画の中のキャラクターみたい。



あたしはまたボーっとして晃君を見つめた。



晃くんに妙なところは見られないし、ちゃんとした生きている人間で、ロボットでもなんでもない。



「あ、あの……」



肝心な質問を忘れていたと思い、あたしは晃くんに声をかけた。



「なに?」



晃くんの笑みにクラクラしてくる。



だめだめ。



あたしがちゃんと見極めてあげないといけないんだから!



「あの、2人は本当に付き合ってるんですか?」



「ちょっとなに言ってるの里奈」



琴葉が慌ててあたしと晃くんの間に割ってはいる。



「だって……」



だって、ドライブスルー彼氏なんて怪しいもので出会った2人だもん。



友達として心配するのは当然のことだった。



「もちろん。付き合ってるよ」



晃くんが迷いのない声で言った。



まるで琴葉をかばっているような様子だ。



「そ、そうなんだ……?」



それでも疑いの目を向けるあたしに、晃くんは笑顔を崩さない。



「琴葉の友達はとてもいい子だね。琴葉のことを本当に心配してるんだ」



「そ、そんなっ」



そんな風に褒められるなんて思っていなかったから、つい焦ってしまった。



琴葉がスッと身を寄せてきたかと思うと「だから言ったでしょう?」と自信満々に伝えてきた。



「う、うん……」



まだしっかりと納得できたわけじゃないけれど、晃くん自身は悪い人じゃなさそうだ。



琴葉も幸せそうだし。



それならそれでいいのだけれど、なんだか胸の奥はモヤモヤとした気分になってくる。



「じゃあ、あたしは買い物があるから」



そんなモヤモヤとした気持ちを悟られないよう、あたしは慌てて2人から離れたのだった。

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