第2話
「その、彼氏候補の人たちって、どこの誰かわかってるの?」
「ある程度のことならタッチパネルのプロフィールでわかるよ。年齢、身長、趣味くらいだけど」
「名前は?」
「それはタッチパネルには書かれてないの。1度目のデートのときに初めて自己紹介をするんだよ」
相手の名前も知らないままデートするなんて、やっぱり怖いな。
そんな風に考えてしまうあたしは、考えが古いのかな?
「ドライブスルー彼氏を使っている男の子たちはみんな彼女がほしくて利用しているから、2度3度行っても同じ男の子がいるとは限らないの。その間に彼女ができれば、もう利用しないだろうし」
なるほど。
まさに一期一会の場所と言えるようだ。
「琴葉はそのドライブスルー彼氏を昨日使ったってこと?」
聞くと琴葉は大きくうなづいた。
そのままデートという運びになり、見事相手とメッセージ交換にこぎつけたようだ。
琴葉の行動力にあたしは大きく息を吐き出した。
まさかそこまで行動的だとは思っていなかった。
ドライブスルー彼氏なんて怪しいものに行くとは、到底思ってもいなかった。
「使用料は1回500円だから、ためしに里奈も行ってみたらいいよ」
「そんなに安いの!?」
あたしは目を見開いた。
ドライブスルーといっても、出会い系は出会い系だ。
そんなに格安で利用できるなんて思っていなかった。
「うん。小屋を設置する場所代と、電気代だけで成り立ってるからね」
なるほど。
聞きたいことはまだ沢山あったけれど、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り始めてしまった。
「後でもっとよく聞かせてね」
あたしは琴葉にそう言ったのだった。
☆☆☆
「琴葉、今日も一緒に帰ろうよ」
放課後になり、琴葉に声をかけると琴葉は申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「ごめん、今日デートなんだ」
顔の前で両手を合わせ、まるで拝むようなポーズで言う琴葉。
デートという聞きなれない単語に一瞬言葉を失ってしまった。
同時に、そういえば琴葉には彼氏ができたんだったと思い出す。
「そ、そっか」
「本当にごめんね。彼、待ってるからまたね!」
琴葉は早口にそう言うと急いで教室を出て行ってしまった。
あたしは唖然としてその後姿を見つめる。
彼氏ができたって本当だったんだ。
今更ながら寂しさに似た感情がわきあがってくる。
その寂しさの中には多少の悔しさも含まれていた。
どうして琴葉だけ。
しかも、わけのわからないドライブスルー彼氏なんか使って彼氏ができるの?
そんな感情がわいてきて、慌てて左右に首を振ってかき消した。
彼氏の作り方がどうであれ、琴葉は一歩足を踏み出したんだ。
その結果彼氏ができたのだから、なにもしてない自分がとやかく言う権利はない。
「あたしも帰ろう」
ポツリと呟き、1人で教室を出たのだった。
☆☆☆
自宅に戻ったあたしはリビングのソファに寝そべり、スマホでドライブスルー彼氏について調べてみることにした。
本当にそんなものが存在しているのかどうか、心のどこかで疑ってかかっていたのだ。
その結果数件の検索がヒットした。
その中のひとつを開いてみると都市伝説のページが表示された。
黒い背景に赤い文字で、全国の都市伝説を調べられるようになっている。
怪談収集家というのだろうか。
そういう人のページに来てしまったようで、少しだけ背筋が寒くなった。
怖いものはあまり得意じゃない。
さっさとドライブスルー彼氏の項目だけ読んで終わりにしよう。
そう決めて、赤い文字に目を走らせる。
『○○町に伝わる、現代風都市伝説!』
と、大きく書かれていてその町の名前にあたしは目を見開いていた。
○○町は間違いなくあたしが暮らしているこの町の名称だったのだ。
急に興味をそそられて、あたしはソファにちゃんと座りなおしてスマホを見つめた。
『○○町にはドライブスルー彼氏がある!?
○○町は歴史のある古い町並みが残る場所で、観光地としても有名。
しかし、そんな○○町にはドライブスルーで購入できる彼氏がいるというのだ。
郊外にひっそりとたたずむ小屋へ行けば、そこで待っている男の子たちと出会うことができる。
簡単に交際相手を見つけることができるから、ドライブスルー彼氏という名前がつけられたらしい。
これは大昔、その日食べるものにも苦労していた人たちが路上で身売りをしていたことが発端でできた都市伝説だと思われる』
琴葉が言っていたこととはいくらか異なっているが、ドライブスルー彼氏というもの自体は知られているみたいだ。
あたしはゴクリと唾を飲み込んでいた。
その日食べるものにも苦労していた人たちが路上で身売りをしていたことが発端でできた都市伝説……。
その部分に釘付けになってしまった。
確かに、昔の文献などを読んでいたらそういうこともあったということがわかる。
でも、それが現代まで伝わっているとは、どうしても考えにくいことだった。
あたしはまた大きく息を吐き出してスマホを投げ出し、ソファに横になった。
結局有力な手がかりを得ることはできず、調べてわかったのは都市伝説のことだけだった。
伝説はだたの伝説だ。
事実とは大きく異なるところがあっても不思議じゃない。
琴葉の言っていたことを信用したいという思いもあるけれど、考えれば考えるほど荒唐無稽は話で、悩んでいるのもバカらしくなってきてしまった。
きっと琴葉はあたしをからかって遊んだだけなんだ。
昨日まで彼氏がほしいと嘆いていた自分が、翌朝には彼氏ができたと言っている。
そうすれば、あたしはきっと驚くだろうと考えたんだ。
そう結論付けたあたしは途端に眠気に襲われて、そのまま目を閉じたのだった。
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