第6話 勝敗の行方
丸浜さんに最後に会って一カ月くらい経つ。
ある日、仕事でミスをした。インスタントコーヒーの箱を包んでいるフィルムをむく際に箱を破損してしまった。その商品は責任を持って私が買い取ることにした。
仕事を終えてその商品と他のものを買うため職場のスーパーで気晴らしを兼ねて買い物をしていたとき、ある男性に話しかけられた。
「あの、木山詩澄美さんですか?」
そのスーツでビシッと決めた男性は私に恐る恐る話しかけてきた。
「そうですけど」
「僕、ユニゾンの社員で丸浜にこれを渡すよう頼まれてきたんです」
その人は、二つ折りの小さな白いメモを私にくれた。
そこには『もうゲームオーバー。申し訳ないけど、何かあればここに連絡を。丸浜より』その文章の下には携帯の電話番号が記されている。
「丸浜とは僕もLINEを交換したことなくてさ、連絡するときは電話かスマホのメッセージアプリを使ってるから、話したいことあったら、そのメッセージアプリを使うといいよ」
「丁寧にありがとうございます」
私がそう言って頭を下げるとその男性は笑顔で会釈をして店内の奥へ消えていった。
紙に書かれた丸浜さんと名乗るその番号にアプリを使ってメッセージを送ってみた。
翌日の夜、返信が来た。
『遅くなってすみません。実は突然、転勤したんだ。本来なら君をあのスーパーから引き抜いていずれは準社員として共に働きたかった。でも、もうそれは叶わないだろう。だけど、一言だけ言わせてほしい。俺は君を一人の人間として尊敬してる。だからこそ、その君と一日でも長く働きたかったな。俺からあんなゲームを申し出て今更ゲームオーバーなんて、本当に悪かった』
頭を下げるばかりの丸浜さんのメッセージに私は何と返信したらいいのか悩んだ。その中の私を尊敬していることも照れ臭くてうまく飲み込めない。考えた末、こう返した。
『丸浜さんは悪くありません。私は丸浜さんと出会い、色んな話をして、とても楽しかったです。ゲームをこのような結末で終えるのは大変心苦しいのですが、私なんかを尊敬してくれて誘ってくださった丸浜さんに感謝してます。本当にありがとうございます。また買い物に来たら、声かけてくださいね』
『優しい言葉をありがとう。また会いに行くよ。その時はユニゾンの社員ではなくて、友達として』
その後、私たちはスマホ上で趣味の話や会社の従業員の愚痴など、とりとめのない話で盛り上がった。私はあの日以上に強く強くクッションを抱きしめながら。
「味方だよ」君の活字をなぞってる
リピートしてる目で聞くセリフ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます