1話 主人公コウタと パーティーと
「ディック様、パーティーだって! 一緒にどう?」
届けられた手紙。
そこには『パーティーメンバーが冒険する異世界物語を読みたい』と書かれていた。
オレは嬉しくて大興奮! 誰がくれたのか分からないけれど、するよ! 冒険! オレの漆黒の瞳がきららと輝いた。
オレは3歳だから、まだ冒険者登録はできない。でも、ディック様のパーティーに入れて貰えば、カッコよくて、普通の人では体験できないような冒険ができるはず。
「あぁ? パーティだって? いいぞ、どんとこいだ!」
ご機嫌のディック様。よかった、断られなくて。でも一人じゃパーティーって言えないから、あの人にも声をかけなきゃ!
「はぁ、冒険ですか? ディック様には仕事をしていただきたいのですが、仕方ないですね。私も昔はディック様と同じパーティでしたから、ご一緒しますよ」
ニッコリ笑った執事さん。やったぁ、執事さんの魔法が見られるね! 嬉しいな。
「でしたら、あの人も呼びますか? 短い時間でしたが、パーティを組んでおりましたから……。出かけるのは明日でも構いませんよね?」
そう言って執務室にこもって手紙を書いた執事さん。出発は明日なんだね。わくわくするなぁ。
ディック様は3代目の辺境伯。ホフムング王国の一番西の端っこのエンデアベルトの領主になる前は冒険者をしていたんだよ。元Aランク! 凄いよね。 どこに冒険に行くのか楽しみだ。
「ああん? なんで親父なんだ? パーティっつたら俺の方が現役だぞ?」
不機嫌に尋ねるアイファ兄さん。兄さんがリーダーを担う『砦の有志』はBランクのパーティだ。“ 有志” だからね、志を同じに希望をすれば、入れてくれるよ。
でも今回は駄目だよ。だって手紙には異世界物語が読みたいってあったんだもの。それって主人公に宛ててでしょう? (それに兄さん達じゃ自世界冒険譚になっちゃうしね)
この物語の主人公はオレとディック様だもの。オレ達の冒険譚でないと宣伝にならないよ。
「くすくす、宣伝って言っちゃってる地点で、サイドストーリーだよ。たくさんの人に読んでもらいたいけど、公開してない本編のネタバレだけはしないようにね」
ふふふと笑うクライス兄さん。オレは伸ばしたモフちゃんズからそっと手を引っ込めた。危なかったよ。ねっ?! うわぁ、オレも作者もやらかしそうだ。気をつけなくっちゃ。
「ふむ。せっかくのパーティーだからな。ドラケンキー山脈まで行くか? あそこのコーベダドラゴンは美味いぞ」
今、ドラゴンって言った? ドラゴン?!本当に? 嬉しいな。オレ、ドラゴンなんて見たことないよ!
「また無茶なことを。コウタ様がいらっしゃるのです。まだお小さくて旅慣れていないのですよ」
ぴゅうと冷風を送りながら執事さんが制した。ちぇっ。残念。オレはあからさまに唇を尖らせたよ。ドラケンキー山脈は国の北西部にあって、隣町ランドから3日ほどの距離だ。さほど遠いとは思えないけれど、標高が高くて高山病の危険もある。うん、それはちょっとだけ不安だ。はい、我慢します。
「コウタ様、ドラゴンではありませんがワイバーンでしたらいかがでしょう? プロスペルの森は薬草や果物や木の実が豊かですし、そこから続くレッサルピーク山の頂にはワイバーンが住んでいますよ」
「ワ、ワイバーン?! それって、空飛ぶドラゴン?」
キラキラと金の魔力が渦を巻いてオレを輝かせると、フェンリルの亜種グランがペロリと魔力を舐めにきた。
「わぁ、コウタ! 落ち着いて! また魔力漏れだよ」
慌てたクライス兄さんに抱き上げられ、危なかったと胸を撫で下ろす。コトコトポトリと宙から落ちる積み木達のことは見なかったことにしよう……。
ワイバーンなんてただのトカゲだと文句をつける外野を置いておいて、オレはリュックサックに荷物を入れる。
水筒ーーーー水は魔法で出せる。要らない。
剣ーーーー木剣は折れるだけ。要らない。
お布団ーーーー入らない。
食事ーーーーりんごにみかん、蜂蜜の小瓶。硬いパンに、ドライフルーツ。
うーん、あとはタオルにお着替えくらいしか思いつかない。
あれ? これって普通のお泊まり会の荷物だ。冒険に行くなら、もっとこう……かっこいい持ち物が必要じゃない?
そうだ!
オレは『砦』の斥候、ニコルの部屋にトテトテと走っていった。
キイーーーー
離れにあるニコルの部屋。
光が入らないように木窓が半分閉められている。壁に吊るされた幾つもの小さな袋。無造作に瓶に詰められた乾いた薬草。石のような木の実のような不思議な塊。床の木箱には、ロープや鎖。大きな腕輪みたいな物が二つ繋がっていたり、鎖がついていたり。
くぐもった薄暗い部屋はちょっと不気味だ。
「おーい、ちびっ子! 何してるのかなぁ?」
飛び上がってそっと振り向くと仁王立ちをしたオレンジの狼。いつものお日様みたいな明るい笑顔が、鋭い眼光に低く冷たい声色。光を受けたオレンジの髪がゆらゆらと揺れていて、オレはピクリとも動けなくなった。
「えっと……、冒険に行く支度って何がいるか知りたくて」
しどろもどろに話すオレを値踏みするように見つめるニコル。オレの心臓はバクバクと音を立て、でも、その音がキュンキュンと締め付けられて止められそうだ。
「あっ、そう。じゃあこれ、毒草ね。結構強いから、瓶ごと投げて割れたらすぐに距離を取りなよ。ブルなら数頭まとめてお陀仏だ。 はい、こっちは爆発系。この瓶が細かく尖って爆ぜるから、シールドは必須ね。ソラに言っときな。 これは麻痺針。痛みが強く出るタイプだから吐かせる時に使うといいよ。こっちは揮発性の毒。証拠が残りにくいやつで……」
次々と並べられる物騒な道具。近くを通り掛かったキールさんに目隠しされて連れ出されたオレ。よくわかんないけど、きっと命拾いだ。あぁ、よかった。
「コウタは俺と同じ魔法使い系だろう? 魔道具不要だし、魔力だって相当だ。持ち物っていったら布団、くらいじゃないか? コウタはどこでも寝ちまうから」
ムキー! オレ、真剣なんだよ! 真剣に冒険の準備をしてるの。布団は入らなかったんだもん。
地団駄を踏んで精一杯に怒って見せたのに、布団をリュックに詰めてみたことがバレて盛大に笑われた。
もう、これ、ちっとも冒険譚じゃないよ。詐欺だって企画者様に叱られるから! オレの準備の話はいいからサッサと冒険の話にして!
ヒュウーー。
頬を抜ける雪風が痛い。
オレ達は隣町ランドのギルドで依頼を受けている。名もなき受付の美人さんがニッコリ笑って依頼書を手渡してくれた。
「はい、承りました。貴族様の遠足の護衛ですね。パーティ名は『キュートなモフちゃんズと沈黙の砦』でよろしいですか?」
黒いフードを被ったいかにも不審者の男が二人。もう一人のメンバーはネタバレ確定のため、今回は涙を飲むと連絡があった。だから、メイドのメリルさんが代わりに行くのだけれど・・・。護衛って何? オレ、パーティの一員になれないの? ついでに保護者として領主婦人のサーシャ様までついてきたけれど。こういうのって・・・。俺の脳裏に残念な四字熟語が浮かんだ。(ちなみに異世界言語は作者によて日本語に翻訳されている)
「家族旅行」
そう言いかけて残念な心に蓋をした。オレは決意新たにキッと空を見上げる。
大丈夫、パーティーの冒険の話なんだもん。もし駄目だったら企画者様、この話取り下げていいから。作者はともかく、オレは良い子だよ。ずるは駄目だって知ってるよ!
オレはサーシャ様の腕に抱かれてガラガラと馬車に揺られた。
ーーーー 揺られた? 揺られた? あれ? これって、これって、冒険じゃない!
「駄目だよ、みんな! 馬車で行ったら旅行になっちゃう」
うとうとと半分閉じかけた瞼に気合をいれて、馬車の窓を下げてソラを呼ぶ。瑠璃色の神鳥のソラは小さな掌サイズの鳥だ。快晴の空を舞う相棒はグンと高度を下げてきた。
『なあに? コウタ。 どうしたの?』
「あのね、ソラ、このままじゃパーティーが冒険するお話にならないの。協力して!」
『うふふ、任せて! ジロウ、行くわよ』
グワワと白い光を纏った神鳥は、高い陽の光に瑠璃の羽根を虹色に艶めかせて大きな猛禽となった。バササと伸びやかに広げられた羽根の間にオレと執事さんをヒュンと跳ね乗せ、グングン高度を上げていく。
「まて、よせ!」
犬のふりをしていた真っ黒なフェンリルは、領主の男を咥えると、やはり白い光を放出してひゅるる風を唸らせたかと思うと、馬ほどに身体を大きくしてディック様を背にのせた。
「コウタ様ーー」
「コウちゃーーーーん」
置き去りにしたメリルさんとサーシャ様には悪いけど、オレとソラとジロウと不審な二人組の男たちは、荒れ果てた荒野の道をプロスペルの森に向かう。
ああ、もう3000文字を超えてしまったよ。1話として作者がまとめ上げる文字数の限界がきている。オレは悔しくて悔しくて。次話こそ絶対に冒険をするのだと強く誓ってフワフワのソラの羽根に顔を埋めるのだった。
企画者様、読者様、
敏腕の執事は周囲を凍てつかせた気配を隠すことなく、そう祈るのだった。
次話に続く。
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