第6話 魔物救助

《『大食漢』の能力によってアーマービートルの取り込みに成功しました》


《『大食漢』の能力によってアーマービートルのスキルを取得中……》


《成功しました。以下のスキルを取得しました》


『身体硬化』『毒ノ息吹』『毒牙』


 さてさて一方俺はと言うと、ジャングラーモモンガを倒した後、すぐに新たなる魔物と遭遇した。百足の様な魔物で、身体には鎧の様な装甲を身に付けている魔物だった。俺の毒攻撃は硬い装甲を溶かし、悪食で食した。

 中々手強い魔物もレベルと経験が積まれ、戦えるようになっている。

 自分の成長をさらに感じて冒険が楽しくなってきた。

 最早、俺の気持ちはゲーム気分である。

 これ程まで心に余裕が出来てきた俺だが、やはり少し気掛かりな事がある。


(この森広すぎじゃね?)


 あれから数時間歩みを進めているが、出口のような場所はどこにも見当たらない。ずっと森の中が続いている。

 そんなに俺の足って遅いか? でも、『高速移動』のスキルも使って歩くようになったし……そこまで広大な森なのだろうか?


 取りあえず、一杯走って疲れた(疲労感は無いんだけどね)から少し休憩でもしようかな。

 周囲を見渡すと座るのに丁度良い岩を見つけたのでそこに腰かける。まぁ腰かけるって言っても本当に腰かけるわけじゃなくて、岩の上に乗っかっている感じだけど。


 それにしても周囲を見回せば、相変わらず木々ばかりで面白くないな。そろそろ新しい景色とかあわよくば友好的な何かに出会ってみたいものだ。

 そんな思いをはせながら休憩をしていると俺の後方から何やら騒がしい音が聞こえてくる。それは、まるで何者かが争い合っているように木々が激しく揺れている。


 一体何事だ?


 俺は岩から跳ね飛んで降り、後ろの方へと向かった。

 向かった先では複数体の魔物が何かを取り囲んでいるように見えた。

 俺は木の陰に隠れて様子を見る。そこにはジャングラーモモンガに囲まれた傷だらけの小さな爬虫類の子供が居た。


 複数体で寄って集って……もしかして弱い者いじめか?


 俺が陰で見ている間にもジャングラーモモンガたちの攻撃は続いている。

 小さな爬虫類の様な魔物は辛うじて立っているが目が虚ろになっていた。このままではあの魔物の子供は死んでしまうだろう。

 ここで見過ごすことはできるが、あの痛めつけられている光景を見ているとなぜか胸が痛くなる。あの魔物が可哀そうに思えて来た。

 もし、俺がここで見過ごせばあの魔物はジャングラーモモンガの餌食になるだろう。

 この光景、どこか既視感がある。

 そうか、俺が外に出て最初にスライムに襲われた時だ。あの時は運良く俺の力で対処できたが、思い返すと大人数で寄って集って1人を攻撃してくるあの光景は恐ろしいもので、何よりも怖かった。

 身体は魔物になった俺だが、中身は立派な人間だ。あの魔物の気持ちになって考えれることは俺にはできる。ここで助けなきゃ、俺の人間としての良心が許せねぇ!


 爬虫類の子供は到頭身体をふらつかせ倒れる。そこへ一体のジャングラーモモンガの鋭い爪が振り下ろされる。


(そうはさせねぇ!!)


 攻撃を仕掛けていたジャングラーモモンガに対して俺は不意打ちの『猛毒溶解液ポイズンフォッグ』をお見舞いしてやった。

 俺の攻撃が1体のジャングラーモモンガに直撃し、身体がドロドロに溶けた。

 残りの2体が俺の攻撃に気が付き、俺の方を向いた。しかし、俺はすぐに『高速移動』で2体のジャングラーモモンガの背後に回る。


(喰らえ!!)


 先ほど手に入れた『毒ノ息吹』を使ってみる。

 2体のジャングラーモモンガに向かって紫色の霧が俺の身体から散布されるとジャングラーモモンガ達は悶え苦しみ初め、泡を吹いて倒れた。そして、3体の死体は霧のように消えた。


(よっしゃあ!! 今回は上手く倒せたぞ!!)


 スキルが増えて戦いが有利になっているのを実感する。ふ……これが成長ってやつか。って言ってる場合じゃなかった。

 俺は倒れた子供の魔物に近づく。白色の鱗に覆われ、背中に小さな羽を生やした爬虫類。近くで見るとまるで竜の子供の様な見た目をしている。


(おーーい! 大丈夫か!?)


 俺が声をかけるように身体を揺する。しかし、目を覚ますことは無い。

 まずい、どうしようか!? そうだ!! ここは『無限収納』で!


 俺は子供の魔物に覆いかぶさり、『悪食』で身体を吸収する。

 そして、『大食漢』で取り込むのではなく、『無限収納』へと転送する。


《『悪食』によって物質を取り込みました。『無限収納』へと転送します》


《物質の一部が『大食漢』にて取り込みました》


《解析鑑定が成功しました。結果を以下に記載します》


 NAME:白銀竜ホワイトドラゴンの幼体

 種族:竜種

 level:1

 HP:1/21

 MP:10/10

 称号:なし

 魔法:『回復魔法:低級』

 スキル:『飛行』『火ノ息』『言語:竜語』

 耐性:火炎耐性


《『大食漢』の能力によって白銀竜の幼体のスキルを取得中……》


《成功しました。以下のスキルを取得しました》


『回復魔法』『火ノ息』『火炎耐性』『言語:竜語』


 おいおい!? 俺は食ったわけじゃねぇぞ!? でも、無限収納の中に入っているのなら大丈夫だ。

 てか、『回復魔法』持ってんじゃねぇか!! 自分が倒れてちゃ回復できないよな……よし! 少し待ってろよ!


 俺はすぐにこの場を去った。そしてこの森をかけ走り、安全な場所が無いかを探した。すると、木々が無い大きく開けた場所に出た。そこには古く使われることが無くなったキャンプがあった。かなり汚れが凄く、長い間使われている形跡がない。至る所ボロボロだがここで休めないことは無い。


(よし、ここにしよう。無限収納起動!)


《『無限収納』内から何を取り出しますか?》


(小さい竜の子供を取り出してくれ!)


《承諾しました》


 無限収納は俺に応えるように動き出すと俺の身体から竜の子供を吐き出した。

 竜の子供は気絶したままだ。よし、急いで回復魔法を……ってどうやって魔法は発動するんだ!?


《魔法を選んでください》


 俺の疑問に答えるように頭の中に声が聞こえる。


(え!? 選択式!? 回復魔法一択だろ!!)


《承知しました。対象を選択してください》


(この目の前の白い子供の竜だ)


《対象を確認……魔法の詠唱を開始します》


 すると、白銀竜の幼体の身体の下に緑色の光が生み出される。

 その光は徐々に円となり、紋章が浮かび上がって魔方陣となった。


《発動:『治癒ヒール』》


 魔法陣から輝かしい緑色の光が白銀竜の幼体の身体を包むと、身体の傷が一気に癒えていく。


(とりあえず一命は取り留めたか……良かった)


 そう安心したとき、白銀竜の幼体は目を覚まし俺の方を見た。

 目を丸くして驚いた表情をしている。そりゃそうだ、近くにバブルスライムが居たらそりゃ驚くよ。

 俺を見た後、自身の身体の様子を確認している。さっきまで死にかけていたのが嘘みたいに元通りだ。

 さて、問題はこの後だ。助けたのは良いが、俺の外見はバブルスライム。

 気持ち悪いにもほどがある見た目の俺に対して敵対心を向けないで欲しい。できれば、そのまま立ち去って欲しいのだが……

 そう思っていた俺だったが、白銀竜の幼体は俺の方へと向かってくる。

 そして、大きく口を開いた。


(やばい!? 噛みつかれる!?)


 俺は攻撃を覚悟した。しかし、その口から触れられたのは鋭い牙ではなく、くすぐったい程の舌舐めだった。俺の身体をまるでキャンディーを舐めるかのようにぺろぺろと舐めてくる。まるで、懐いている幼い飼い犬の様に。


「ありがとう! 僕を助けてくれて!!」


 白銀竜の幼体は笑顔で俺に声をかけてきた。

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