III 4人

私は部屋に閉じこもり、鏡の事を考え始めた。例の発掘した鏡だ。

 窓辺に立つ私の瞳は、雨粒に映る街の灯りを優しく受け止めていた。夜の静けさが部屋に広がり、時折聞こえる雨音が心地よいリズムを奏でていた。私は深く深呼吸をし、新たな旅路に向けて一歩を踏み出そうとしていた。

 明日は研究所に行って鏡の調査をする日だ。そろそろ時計が12時に回るので布団に入った。

翌日、朝早く起きていつもの工程を繰り返す。今日は昨日とは違って研究専用の服に着替える。顔を洗ってからそのまままっすぐ廊下を渡ってキッチンへ行く。

 「おはよう」

 今日は珍しく舞の方が先に起きていた。

 「おはよう、朝ご飯できてる?」

 「ううん」

 キッチンに向かってスマートオーブンの前に立つ。

 「何か希望ある?」

 「なんでもいいよ」

 そういう返事が一番困るんだよなぁ。なんでもいいと言われたのでキッチンのスマートオーブンにコーヒーとお味噌汁に簡単なサラダを2つづつ頼んだ。デジタル数字で「3分」が現れては1秒ずつ減っていく。

 毎回この時間がくたびれる。

 オーブンのタイマーが鳴り、テーブルの底からお皿が出てくる。シンプルな朝食の香りが広がり、コーヒーカップから立ち上る温かい蒸気がその空間を包み込んでいた。明るい真っ白な朝日がカーテンをと売り越して下手に入り、コーヒーの湯気を一層濃くしていた。


 「ごちそうさま」

 少し急いで朝食を終えて手を合わせると、玄関に行き靴を履く。カレンダーのページを一枚切り取った。


 例の死体と鏡を隅々まで検査し遺物の分析をするのが今日の私たちの仕事だ。この仕事は発掘された遺物や遺構を分析し、それらがどの時代に属し、どのように使用されていたかを調査することだ。分析は科学的手法や新しいテクノロジーを使って捜索することもある。

 それから30分がたち、考古学施設が見えてきた。

 建物は物騒で鼠色のコンクリートのみでできている。窓は少なく、中では照明だけが部屋を照らしていた。その巨大な建物とは少し離れた研究所で今日は働く。駐車場に車を止めて降りたら、行きの途中、達也と偶然研究所までの道で出会い、一緒に歩いた。

 研究所の玄関には杉田が立っていた。

 「おっ、早いじゃないか達也」

 杉原が珍しく微笑んだ。達也が研究所に入って私も後をついた。杉原もドアの中に入った。

 研究所は都市の喧騒とは一線を画した、静謐せいひつな場所にたたずんでいた。高いフェンスに囲まれ、セキュリティゲートをくぐると、そこは異次元のような空間が広がっている。外部との接触が制限され、研究者たちが安心して仕事に取り組むことができる環境が整備されている。広大な敷地に点在する近未来的な建物は、一見すると科学の力強さを物語っているかのようだった。

 研究所のメインエントランスをくぐると、白い壁と大量の機械が迎えてくれる。ガラス張りの窓からは外の何もない砂の空き地が見渡せる。廊下を進むと、各研究室や実験室が広がり、高度な機器や複雑な装置が設置され、私たちは実験の進捗や新たな発見にをしていた。その中でも、私たちがが専念せんねんする研究室には、例の遺体と隣に鏡が瞬間分解コンクリートに浸った大きな容器が置かれていた。研究所は静寂ながらも危険な場所であり、そこで生み出される期待感と興奮が、未来への扉を開く鍵を握っているように感じられた。

 今日はたった4人だけで作業を進める。俺と達也と杉原に小田だけだ。研究室という大きな部屋に4人だけだと、少し人足りないというか、気まずかった。

 「小田、お前は死体を隅々まで点検しろ。そして琉生は鏡を点検だ。達也、お前はちょっと来い」

 最後の「達也。お前はちょっと来い」だけが小声だった。

 私は机にあった手袋を手にめて鏡がある机に向かった。瞬間分解コンクリートの蓋を閉めて、容器をホースとつなげる。そして、ホースにつながった機械の「オン」と書かれたボタンを押して「ウィィィィィィィィィン」と大きな音が鳴る。機会がホースを通してバケツの中の空気を抜いているのだ。真空にし終わったら、仲の鼠色の液体、瞬間分解コンクリートが粉々に砕けてやがて白い粉になった。ふたを開けて慎重に鏡を取り出す。

 その鏡の反射面には、微細な模様がきらめき、まるで太陽の光を受けて光るような輝きが広がっていた。鏡の枠は繊細で、芸術的なデザインが施されており、まるで他の次元からやってきたかのような神秘的な雰囲気をかもし出していた。誰もがその鏡を見る度に、過去と未来が交わる瞬間を感じるような錯覚に襲われた。

 「杉原さん《リーダー》、鏡を取り出しました」

 「調査機に入れてくれ」

 「わかりました」

 調査期とはいつの時代や何でできているかを徹底測定してくれる機会の事だ。そこに鏡を置いた。大きな機械のドアが閉まり中で緑色のライトが鏡の輪郭を読み取っている。隣にあるデジタルパネルには「スキャン中」の文字が書かれていた。それから少し経った後、そのパネルにくるくると回る鏡の3D写真と情報が移りこまれていた。

 20~30年前  材料: ガラス鏡、反射膜(アルミニウム)、シルバーバック鏡、銅、鉄、金…

 つまり、25年ぐらい前のものだということだ。死体にもまだわずかな髪の毛が残っているのも納得できた。土の中で横たわる彼の身体。目は空っぽで、肌は青白く冷たくなっていたその死体を思い出すだけでゾッとした。私の脳内には無言の悲しみが広がっていた。鏡の材料は主にガラスと鉄と銅だった。わずかな金も混ざりこんでいることも分かった。

 次は死体の検査だ。今さっきと同じ工程を繰り返し瞬間分解コンクリートかが取り出した。調査期への移動はサンプルが大きかったので小田と達也に手を借りた。少ない肌の所々から死体の中がのぞける。あばら骨の中を覗き込んでみたが、後悔と吐き気だけがあった。

 20~30年前  材料: 水、タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミン、酸素、炭素、水素、窒素、カリウム、硫黄、ナトリウム、クロム…

くるくる回る死体の写真がなんだか可笑しくて不気味だった。

 

 不思議だな。


 改めて考えてみると不思議だな。よっぽど変な死にかたをした男性だ。鏡を握りしめて何もない空き地で横たわって死ぬとは。


 

 

 

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メロディと共に朽ちゆく時 ハタカイ @kito20001

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