第13話 引きこもりとボイスチャット

 パシュッ、というサイレントに包まれた銃声が静かに響く――そう、ここは見知らぬ島の中心部。名前もわからぬ百人の中の、たった一人になるまで相手を殺し続けるバトルロワイアル――という設定のゲームだ。


 依里と僕は同じ部屋にいるが、だからと言って常に同じことをしているわけではない。僕が勉強している間に依里は後ろで漫画を読んでいるし、僕が掃除をしている間に依里はベッドの上で動画を見ている。何かおかしいな?


「ねぇ、ねぇ恭弥!」

「どーした」

「それ、何やってるんです?」


 あまりにも僕が熱中してゲームをしているものだから、興味を持って見に来たみたいだ。僕はヘッドセットを外して、依里に渡して軽くチュートリアル代わりに操作方法を教える。


「なんか、難しくないですか?」

「かもね。僕から見る依里のパソコンと一緒」


 ああー、と依里は納得したかのように頷く。


「勝ったらうれしい、負けたら悲しいくらいの気持ちでやればいいんじゃない?」

「なるほど! あくまでゲームにマジになっちゃいけないってことですね!」

「それは違うかもしれないけど……」


 曲解をしたまま、依里は「マッチング」と書かれたボタンを押す。

 わくわくといった気持ちが抑えられないのか、その表情にまで浮き出ている。


「えっ……わわわっ!?」

「ん? まだロビー画面だけど」

「えっ!? あの……えっ!? はっ!?」


 急におろおろし始めたと思えば――依里はヘッドセットをぶん投げた。


「なんか、人の声がします! しかも生身の……」

「ああ……ボイスチャット機能切ってなかったかも。なんか言われた?」

「いえあの……人の声がしただけなので……何を言っていたかまでは……」

「もう大丈夫だから、安心して……って」


 振り向いた瞬間にはもう依里は近くにいなかった。窓際に縮こまってカーテンにくるまれている。


「それ! 私コワイデス!」

「依里には刺激が強かったかな?」

「二度と近づけないでください!!」


 一度恐怖を覚えた依里はそれ以降このゲームに近づかなかった。


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