社畜おっさん(35)だけど、『魔眼』が覚醒してしまった件~俺だけ視える扉の先にあるダンジョンでレベルを上げまくったら、異世界でも現実世界でも最強になりました~
第138話 魔法少女 vs『傀儡師』③ 【side】
第138話 魔法少女 vs『傀儡師』③ 【side】
『問答無用で殴りつけてくるとか、一体何を考えているんだ君は……!?』
案の定、怪人『傀儡師』は生きていた。
ミラクルマキナが殴り飛ばしたあと、『傀儡師』は十軒ほどの家屋を突き破り、『遮音結界』ぎりぎりの場所にあるマンションの壁面に衝突し、まるでクレーターのような衝突痕を残してそこで止まっていた。
今回の作戦に際して、『ガベル』はかなりの強化を施してもらっている。
具体的には、インパクトと同時に相手の体内に魔法的な衝撃波を浸透させる術式の付与。
その効果が発揮されたのか、攻撃をまともに喰らった『傀儡師』の左半身のほとんどが消失し、顔は大きく陥没していた。
それでも彼はマンションの壁に背を預けながら、文句を言うだけの余裕があるらしい。
驚くべき生命力であるが、それこそが彼が怪人である証でもあった。
「私を覚えているかしら? 怪人」
ミラクルマキナは『傀儡師』の前に降り立つと、数歩前に出て言った。
もちろん油断なく武器を構え、相手がどのような行動に出てきても対処できるように相応の間合いを取ってた上で、だ。
『……ゴメン。君のことは……知らないな』
怪人は彼女をじっと見つめたあと、気まずそうな様子で首を横に振った。
『……もしかして部屋の
「…………ッッ!!」
「マキナちゃん!」
「……分かってる」
おそらく死んだ両親のことなど、記憶の片隅にも残っていないのだろう。
『傀儡師』の倫理観の欠片すらない言葉を耳にすると、どす黒い衝動に支配されそうになる。
だが、まだだ。
ここまで相手を引きずり出したのは、三人の力を合わせて確実に仕留めるためだ。
感情のまま行動して仕損じるわけにはいかない。
『ねぇ、取引……しない?』
三人の魔法少女を前にして、『傀儡師』はなおも飄々とした態度で言葉を続ける。
『今回はこちらの負けってことでいいから、見逃してくれないかな? 見てよ、この有様。左半身が消えちゃったし、右半身もボロボロだ。僕の見立てだと……最低でも半月は療養が必要だと思う』
言って、『傀儡師』がずたずたになった右腕を振り上げ、ゆらゆらと振って見せた。
とはいえ……この状況でも油断はできない。
一連の訓練では、戦闘実技だけでなく様々な怪人や妖魔の特性を教えられている。
中には、首だけになってもなお魔法少女の隙をつき、喉を食い破った怪人もいたそうだ。
そいつは手足と胴体、それに頭が別々の妖魔が融合して一体の怪人を構成する特殊な個体だったが……『傀儡師』も同じようなことができるかもしれない。
そんなミラクルマキナたちの様子を察したのか、『傀儡師』が苦笑しながら続けた。
『実はまだ、この街では誰も喰ってないんだ。だから……もう力が出ない。勝てっこないよ』
『僕は融和主義者なんだ。なるべく食人は控えてきたし、善良な人たちを襲ったり研究対象にしたりなんかしていない。あそこにあるのは、僕が裏通りを歩いてたら金銭を強奪しようとしてきた輩とか、反社会的組織に属していた個体ばかりなんだ。……僕は街を護る良い怪人になりたかったんだよ』
『そんな善良な怪人を、君たちはよってたかってぐちゃぐちゃに蹂躙するのかい? それはないよ……僕だって、君たちと同じで悲しいときは悲しいし、怖いときは怖いし、辛いときは辛いんだ。『心』があるんだよ。だから、命だけは助けて欲しい。この通りだ』
「…………」
「…………」
ばかばかしい。
あまりに茶番だ。
『もちろん君たちの立場だってわかってる。僕らみたいな連中をこの街から叩きださないと、怒られるんだろ? 僕としては甚だ不本意だけど』
『だから、さ』
『君たちがこの『結界』を解除してくれたら、僕はすぐにここから去ることを約束するよ。二度とこの街には……いや、この地方には近づかない』
『本当だ。この命に誓うよ』
『……だけどもまあ、どうしてもって言うならお土産を持たせてあげてもいい。僕はね、意外と顔が広いんだ。だから他の怪人の居場所だって――』
「そろそろ時間稼ぎは済んだかしら?」
ペラペラまくしたてる『傀儡師』を遮って、ミラクルマキナは言った。
そろそろ限界だった。
これ以上怪人の妄言を聞いていると吐きそうになる。
それに相手は殊勝な態度を見せているが、視線は目まぐるしくあたりを見回している。
怪人はまだ勝利をあきらめていない。
アジトからかなり遠くまで飛ばしたつもりだったが、まだ切れる
それが何かを見極めるために、こちらも時間を稼ぐ必要があった。
とはいえ、もう十分だろう。
『三人とも聞いてくれ。巧妙に隠蔽されていたせいで少々手間取ったが、随伴する
インカムから、作戦を統括する郷田氏の野太い声が流れてくる。
稼いだ時間で見極めるのはミラクルマキナでも他の二人でもない。
彼こそが、『傀儡師』の
……なぜこの役を、廣井さんが担当しなかったのだろう。
心の中でミラクルマキナがため息を吐いた、そのときだった。
『はあ……』
『傀儡師』が困ったようなため息を吐き、ガリガリと頭を掻き……それからニヤリと嘲るような笑みを浮かべた。
『一応チャンスをあげたつもりだったんだけどなぁ。ま、いいか。君たちは次の研究材料として大事に使ってやるよ。死んでなければ、だけど』
『来るぞ!』
「……!」
インカムから怒鳴り声が聞こえたのと同時に、ミラクルマキナたち三人は素早く飛び上がった。
そのままマンションのバルコニーを伝い、屋上まで一気に駆け上る。
――次の瞬間。
『ボオオオオォォォォーーーーッッッッ!!!』
身体がビリビリと震えるほどの轟音とともに、アスファルトを突き破り地中から巨大な何かが姿を現した。
「なっ……何あれ!? ……キモッ!」
マンションの屋上の縁で、隣に立ったゴシックセイラがその光景を見下ろしながら、青い顔で呟いている。
最初は、木の幹とか根のようなモノだと思った。
だが、緑色の蔦に覆われた体表にはところどころぬめぬめとした粘膜状の皮膚が見え隠れしている。
あまりに巨大すぎて元になった生物は分からないが、ミミズとかヒルのように見える。
いずれにしても、地上に露出している部分だけでも、五、六メートル近くはある巨体だ。
あのまま地面に立ったままならば、あのクリーチャーに足元から丸呑みにされていただろう。
それが何十体も出現し、マンションの駐車場を埋め尽くさんばかりに蠢いている。
そればかりではない。
郷田氏の言葉通り、マンションの植え込みの中からぞろぞろと人型の妖魔が現れたのだ。
どの個体も緑色の蔦に侵食されているが動きに淀みはなく、それぞれ鉄パイプやバットなどの武器を持っていた。
その数、見えるだけでも数十人。
寄生型妖魔だ。
しかも、おそらく戦闘に特化した特殊個体。
『チッ……他に監視者がいたか。だけど問題ないね。戦いは数だ。それに今は『質』もある、いや、『質量』……かな?』
『傀儡師』が一瞬険しい顔で毒づくが、すぐに表情を切り替え哄笑を響き渡らせた。
『クハッ、クハハハッ! まさかあの家だけが、僕の
そこ声に呼応するように、巨大生物たちが群れをなし、マンションに身体を打ち付け始めた。
そのたびに、ぐらぐらと足元が揺らぐ。
確かに『傀儡師』が言うとおり、倒壊するのは時間の問題だった。
※思ったより長くなったのでsideは四話構成になりました。
あと一話だけ続くんじゃ……(ゴメン!
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