第74話 社畜と衝撃の事実
「まあそう言うでない。お主にも十分メリットのある話じゃぞ。気持ちは分からんでもないが、話くらいは聞いていってはどうじゃ」
俺の言葉に、ソティがちょっと困ったように苦笑する。
「…………」
いや、辞退して当然だろ。
ていうか一体なんだよ『魔法少女・マスコットの育成及び管理業務』って。
まあ、社長が魔法幼女だったことが判明した時点で何かしら嫌な予感がしていたが、それにしてもトンチキが過ぎるというものだ。
業務内容、現実味が全く湧かないうえ何一つ想像がつかないんだが?
だいたい魔法少女って『妖魔』とかいう敵とか魔物とかと戦ってるんだよな?
俺、そいつらと間違われたし。
そもそも戦い方なんて教えられ……いやそっちは教えられなくもないけどさ。
魔物の弱点とか分かるし。
つーかそもそも論として、マスコットはともかく魔法少女は働いていい年齢なのか?
いくつもの疑問が頭をグルグルと回る。
「…………」
……まあ、ここは少し冷静になろう。
相手は胡散臭い人物とはいえ一応は弊社の親会社の社長という立場だ。
さすがにここで怒って退室するのはあまりに大人げない。
それに向こうも今は社会人として俺に接しているわけだし、直接俺に害を及ぼしたわけではない。
あとはまあ……仮に仕事を引き受けるとなると、待遇も気になる。
一応本社勤務ということだし、今までよりは上がるとは思うが。
それを聞いてからでも、断るのは遅くない。
…………。
あまり気が進まないが……まあ、仕方ない。
「……分かりました。話だけは聞くことにします」
「うむ、それでよい」
ため息交じりの俺の言葉に、ソティがホッとした様子を見せた。
「まず、改めて。先日の件については、我々に悪意はないことだけははっきりさせておきたい。すまなんだ」
先日同様深々と頭を下げるソティ。
さすがに俺もここは大人の対応を見せておく。
「……もう気にしてないですよ。魔物たちが街を襲ったのは、別にあなた方のせいではないことくらい分かっていますので」
魔法少女と魔物たちが敵対関係にあることくらいは分かる。
そして彼女たちが人間の味方であることも。
だから、先日の一件について蒸し返すつもりはない。
あとは……俺を襲ったミラクルマキナとかいう魔法少女についてもまあ、もうどうでもいいな。
数々の戦闘経験を積んだ今なら分かる。
あの子は大して強くない。
次にケンカを売られても、軽くあしらえるだろう。
「ふむ。それを理解しておるのなら助かるのじゃ。我々の存在はまあ、言うまでもなかろう。とはいえ、気になる事もあるじゃろうて。簡単に我々の立場を説明しておこうかのう。業務内容にも関わってくるしのう」
「分かりました。しかしながら、業務の方は内容次第では辞退、それが無理ならば退職も視野に入れておりますので」
「ふむ、随分と嫌われてしまったものじゃのう。ワシはお主を気に入っておるのじゃがな……言うたであろう、『埋め合わせはする』とな。まあ、話を聞いたうえで断るというのならば、お主の判断を尊重するとしようかの」
「ありがとうございます」
さすがに銀髪幼女の姿でそんな悲しそうな顔をされると俺も心が痛むが、相手は少なくとも齢百歳を超える化け物だ。
先日も泣きまねをしながら接触を図ってきたし、ガワだけで信用することはできない。
心の内は顔に出さず、軽く頷いて見せた。
「うむ。では本題に入るとしようかの」
ソティが説明を始めた。
彼女の話を要約すると、こうだ。
まず業務内容。
これは想像の通りだ。
つまりは新人の魔法少女が一人前に『妖魔』という敵性存在を狩れるように育成すること。
で、肝心の『妖魔』とやらだが、これは俺の認識している『魔物』とほぼ同義のようだ。
そして妖魔には、現実世界の土着のものと異界(とソティは言っていた)からやってくるものがいるらしい。
先日の一件は後者だとのこと。
まあそうだろうとは思っていた。
しかし、こっち側にも土着の魔物がいたのか……
どうやらこっち側もそれなりにファンタジーみのある世界らしい。
まあ、魔法少女がいる時点で今さらだが。
ちなみに先日のクリプト戦の一部始終を見られていたらしい。
それもあって、たまたま子会社にいた俺に目を付けたとのことだった。
会社の買収については、偶然だと言っていた。
とはいえ、これまでの経緯から考えるといろいろと怪しいところがある。
ソティの能力が関係しているのだろうか? 未来予知とか。
俺に対する態度から、さすがに心までは読まれていないとは思うが。
まあ、その辺りを突っ込んで聞くと藪蛇になりそうなので黙っておいた。
それと、マスコットの管理。
こいつらは魔物の一種だがある種の知性があり、人間に友好的な種族とのこと。
種族的にはレッサーデーモンの亜種らしい。
てことはあいつら悪魔だったのかよ。
俺の中のマスコット観がガラガラと音を立てて崩れていくんだが?
まああいつらが何者でも別にいいんだけどさ。
連中の役割は、妖魔が出現したときに周囲に被害が及ばないよう結界を張ることと、魔法少女に魔力を供給すること。
あとは……彼女たちの話し相手も兼ねているとのことだった。
もっともミラクルマキナと一緒にいたリスみたいなマスコットはいろいろとイラッとする挙動だったので、本当に彼女の話し相手が務まっていたのかは怪しいところだ。
「さて、業務の細かい話は人材育成課の者たちに任せるとして……あとは待遇じゃな。諸々の手当てを載せて……大体これくらいじゃ」
そんな俺の胸中を知らないソティは淡々と説明を進めてゆく。
どこからともなくメモとペンを取り出し、それにサラサラと数字を書いてみせた。
「これは……年俸ですよね」
まさかの、現在の年収の2/3程度だった。
ただでさえ薄給だというのに、まさかの下方修正である。
つーかこれで魔法少女の面倒を見ろと?
どう考えても実戦やら何やらで命の危険すらあるというのに?
しかも諸手当を載せたあとの金額がこれだと言う。
冗談だろ。
正直、本社勤務ということで多少は期待していたところがあった。
だが、これならば逆に踏ん切りがつくというものだ。
「ソティさん、残念ですが――」
「何を言うておる」
だが彼女は俺の言葉を遮ったあと、耳を疑うような言葉を述べたのだった。
「これは……月額じゃぞ?」
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