第38話 社畜と、騎士の変なスイッチ

 翌日。



 結論から言えば、自宅からダンジョンまでの道のりであの魔法少女に遭遇することはなかった。


 『隠密』を使ったからかそもそも待ち伏せなどをしていなかったのかは分からないが、結構覚悟を決めていたので少し拍子抜けだ。


 まあ、戦闘しないに越したことはないんだけどさ。


 今はまだ。



 ちなみに『隠密』の効果はてきめんだった。



 発動している間は、堂々と道を歩いているのにまったく通行人に認識されないのだ。


 あまりに効果が強力なので、一度だけ思い切って対面からやってきたオッサン(結構イカツめ)の肩と自分の肩を軽く触れさせてみたが、それでもオッサンは反応することすらなかった。


 少なくとも一般人レベルでは、完全に存在を隠蔽できるようだ。



 魔物に関してはさすがに一般人と同じレベルとまではいかなかったものの、死霊術師のいるフロアに入っても散らばっているスケルトンに触れない限りは襲いかかってくることはなかったので、戦いたくないときは有効利用しようと思う。



 そして……



「はあ……昨日ぶり!」


「…………!」



 俺は朝もやに包まれた遺跡の広場で、グッと伸びをした。


 それを真似してか、クロも足を踏ん張ってぐぐ~っと伸びをする。可愛い。



 なんだろう、異世界がこんなにもホッとする場所になるなんて昨日までは思ってもみなかった。


 まあ、明日は仕事なので今日も今日とて日帰りなんだが。


 世知辛い。



 余談だが、転移魔法陣のある場所には即席の囲いが施されていた。


 間違いなくロルナさんたちの仕業だ。


 まあ、ここまでお参りとか巡礼に来られる方が誤って遺跡内部に転移してしまうと危険だからな。



「それにしても、まだ暗いな」



 現実世界を昼過ぎに出たせいか、日はまだ登っていない。


 空を見上げると、森の奥の空がちょっと明るくなったかな……という程度だ。



 けっこう時差があるので、こっちはおおよそ朝の四時半くらいだろうか。


 もうちょっと早いかもしれない。



 準備運動を兼ねてクロと一緒に遺跡の魔物を一体残らず殲滅したから、結構身体も暖まっている。


 マナもだいぶ稼げたはずだ。



「ええと……」



 念のため自分のステータスを確認。



 《廣井アラタ 魔眼レベル:10》


 《体力:350/350》


 《魔力:565/570》


 《スキル一覧:『ステータス認識』『弱点看破:レベル5』『鑑定:レベル6』『身体能力強化:レベル3』『異言語理解:レベル1』『明晰夢:レベル5』『魔眼色解除』 『魔眼光:レベル3』『威圧:レベル1』『模倣:レベル1』『隠密:レベル3』『ロイク・ソプ魔導言語(基礎)』》


 《従魔:魔狼クロ → スキルセット(1)『弱点看破』》


 《現存マナ総量……56,280マナ》





 ちなみに魔眼とスキルについては、『隠密』をレベル1から3まで上げた以外は、まだ手を付けていない。



 で、現在取得可能なスキルはというと……


 俺はステータスの『取得可能スキル一覧』を表示させる。



 『アンデッド召喚(スケルトン)』

 『ドラゴンブレス(火焔)』

 『ロイク・ソプ魔導言語(初級)』

 『魔物支配』

 『気配探知』

 『見切り』

 『煽り耐性』

 『遮音結界』



 結構取得できるのが増えた。


 上の三つ以外は昨日魔王軍の魔物や魔法少女との戦闘時に『模倣』が発動し取得したもののようだ。


 うーむ、今更ながら『模倣』のチートさが際立つな。



 今のところ、取得しようと思っているのは『気配探知』『見切り』あたりだろうか。


 ちなみに『遮音結界』は必要マナが100,000だったのでしばらくは無理っぽい。



 あとは、ロルナさんやフィーダさん、あるいは他の人にでも……稽古を付けてもらうことができれば、剣術系のスキルが手に入るかも……という目論見だ。


 それを勘案したうえで、取得すべきスキルや魔眼のレベルアップを検討したい。



「よし、行くか」


「…………」



 クロもこちらを見て軽く尻尾を振り、「頑張るのだぞ主」と言っているように思える。

 

 とりあえず二人のために追加の手土産も持参したので、あとは当たって砕けろの精神だ。




 ◇




「いいだろう。我々としても、ヒロイ殿が自身を鍛えたいというのならば協力しよう」



 例によって砦内部の一室に通されて。


 最初は昨日の今日の訪問でビックリしていたロルナさんだったが、事情を説明(詳細はかなりぼやかしながらだが)すると、なんかあっさり応諾された。


 ちなみにフィーダさんは普通に砦内でお仕事中のため、同席していない。



「分かる。分かるぞ。貴殿には絶対に乗り越えたい、倒したい敵がいるのだろう。そうだ。それこそが騎士の道というものだ」



 テーブルの向こう側で熱っぽくそんなことを言いながら、うんうんと深く頷くロルナさん。


 いや、突然の申し出にも関わらず俺への協力を快諾してくれるのは嬉しいんだけどさ。




 ……なんかこの人、変なスイッチ入ってないですかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る