第16話 決着
ザシュッと、何かが切れる音が響いた。
「痛っ……」
そこには、腕に切り傷を負い、血を少量流すダリアと、空中で剣を振り抜いたコウがいた。
「おっ……」
「おおおおおっ!」
大きくないが、傷を負わせたコウに、観客は驚きに近い歓声を上げる。
地面に着地したコウは、一度距離を取った。
「フゥッ、フゥッ……!」
緩急のある動きをしたからか、コウは呼吸を乱している。
ふざけんなよ……。
俺は全力で斬った! 腕を落とすつもりだったんだ!
なのにできたのは赤い線1本だけ!?
「まさか攻撃を喰らっちまうとはな……」
ダリアはコウを睨んできた。
「硬すぎだろ……」
もうダリアの見る目が、敵を見る目になったのを確認したコウは、すぐに臨戦態勢に入った。
◇ ◇ ◇
「凄いよコウ! 一撃返したよー!」
アロナはピョンピョン跳ねて喜んでいる。
「……上手いな」
一緒にいた青髪の人は顎に手を当てそう言った。
「上手い? えーっと……」
「ああ名乗ってなかったね。僕はユウキ。よろしくね」
「ユウキね。私はアロナ。よろしくね~」
ここでお互いに自己紹介を済ませた。
「それで、上手いっていうのは?」
「えーっとね。あのコウって子、変身したでしょ?」
「うん。光に包まれて……」
「今まで弱かった相手が姿を変えたら、君はどうする?」
「それは……相手の出方を伺う?」
「その通り」
ユウキは指を立てた。
「そうしたらダリアが取る方法は、防御して相手の力を見るか、カウンターを決めるかかな」
「でも完全に意識外からの攻撃を喰らった感じだったけど……」
アロナがそう言うと、ユウキは立てた指をボロボロになった壁に差した。
「まああれだけヒビが入って凹んだ壁を見たら、力いっぱい、真っ直ぐに飛んできたと思うよね」
「それで騙せるの? 相手はA級冒険者って聞いたけど」
「だからこそだよ。圧倒的な差。異様な変身。最期の一撃とでも言いたそうなあの壁の踏ん張り。しかもダリアはコウを注視してたから視野も狭まってるね」
すべて見透かすように、ユウキは解説した。
「でもコウは、ダリアから見て左側の壁に飛んで、そこからさらに飛び込んだ感じかな」
ユウキは指で追いながらそう言った。
「じゃあコウも勝つ可能性が!」
「うーんそれは難しいかな。ダリアも目が覚めたみたいだし」
「……」
「まあ立ってるのもあれだし、どこか座ろうか」
ユウキとアロナは空いてる席に向かった。
◇ ◇ ◇
「俺もA級のプライドってもんがあるんでね。もう手は抜かねぇ」
「ハッ、待ちくたびれたぜ」
「うおおおおおっ!!」
会場のボルテージも最高潮だ。
「……」
と言っても、もう攻撃通るか分からない。
どこかで隙を見て一撃入れれるかどうか……。
さっきの斬った感触、【
「――よし」
落ち着きを取り戻したコウは、前へと飛び出した。
「オラアッ!」
ダリアはそれに合わせて金棒を振り下ろしてくる。
「フンッ!」
剣と金棒がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
ギリギリと2人の力が拮抗する。
「ヌンッ!!」
ダリアがコウの剣を弾いた。
「オオッ!」
そのまま追撃してくる。
「くっ……」
コウは金棒を避け、受け流し、ギリギリで攻撃を凌ぐ。
「そこだッ!」
ダリアは避けられない角度で金棒を降ってきた。
ここは受け止めるしかないっ。
「ハアッ!」
再び剣と金棒がぶつかり合った。
「がっ――」
しかし今回は拮抗することなく、鈍い音を立ててコウは吹き飛ばされた。
「うおおおおっ!!」
「いいの入ったぞー!」
「もうスタミナ切れかー!」
会場からは野次が飛ぶ。
「ハッ、ハッ……!」
コウは呼吸を乱しながら、なんとか立ち上がった。
さっきとは違う!
さらにパワーが増した。
だがキレはそこまでなかった……。
「ハッ、どういうことだっ」
コウは息を整えながら、ダリアを観察する。
「フンッ。悪いが、観察させる暇は与えねぇ」
ダリアがコウに向かって突っ込んできた。
思い出せ!
戦ってた中で、何かおかしい点があったことこと……何か……。
「あっ……」
ダリアが眼前に迫ったとき、コウはあることに気づいた。
「シャアッ!」
ダリアの連続攻撃が始まった。
しかし、コウは先程よりスムーズに凌ぎ始めた。
「チッ……!」
「フゥッ……」
予想通りだ。
この金棒はひし形で、一見金棒と呼ぶには雑な形に見える。
しかし、この角で攻撃した場合、それはまるで刃のような切れ味を持つ武器に変化する。
逆に面で攻撃した場合は、本来の金棒のような攻撃になる。
その2つのパターンに気を付ければ――。
「いいぞーコウ! あの猛攻を凌いでるよ!」
アロナはユウキに興奮しながらそう言った。
「うん。どうやらダリアの攻撃の仕組みに気付けたみたいだね」
ユウキは頬杖をしながらそう言った。
「仕組み?」
「今まで戦っても気付く前に倒すことが多かったけど、ダリアは大丈夫かな?」
「?」
まるで知っていたかのような口調で、ユウキはそう言った。
「――フンッ!」
2人が話している間にも、ダリアは連続攻撃を続けていた。
かなり体力が余っているようだ。
「
攻撃の仕組みが分かっても、速さと力強さは保ってくるっ。
だが、今の俺なら大丈夫だ。
角、面、角、角、面……。
コウはダリアの攻撃に上手く対応している。
「チィッ!」
次は……角ッ!
コウはダリアが降ってくる金棒目掛けて剣を振る。
「――フッ」
ダリアがほくそ笑んだと思うと、剣がぶつかる寸前で金棒の向きを少し変えた。
「ぐっ……ガハッ……!」
面での攻撃をまともに受け止めてしまったが、急に角度を変えたこともあり、よろけるだけで済んだ。
が、ダリア相手では命取りだ。
「――あばよ」
視界がハッキリしたとき、金棒が眼前に迫っていた。
ダメだ。
避けられない。
「いや、まだ――」
言い切る前に、体が勝手に動いていた。
コウは、真上から降り下ろす金棒に対し、剣で受け流しつつ、右に体を傾けた。
「ッ……!」
そのまま回転して、左手に持つ剣でダリアの左脇腹を狙う。
「ならその剣をッ……!」
ガードが間に合わないと踏んだダリアは、コンパクトな振り方で、剣を狙った。
「チッ……!」
コウはそれを見た瞬間、パッと剣を手放した。
「何ッ!?」
なんと、左腕で金棒を受け止めたのだ。
もちろん、左腕はえぐれ、血が噴き出す。
「腕の1本くらいくれてやる!」
コウは、手放した剣を、地面に落ちる寸前、右手で拾い上げた。
「喰らえ! 【
ダリアの左脇腹を目掛け、剣を突き刺した。
当たるッ!
「――【
――ガキンッ……!!!
ダリアの左脇腹を突き刺したコウの剣は、大きな金属音と共に砕け散った。
「え……」
見ると、海のように青いオーラが、左脇腹に現れていた。
【防護スキル】の類か!?
不味いこのままじゃ――
「オラアッ!」
ダリヤは、隙が出たコウの腹に、大木のような足で前蹴りをした。
「ぶっ……グハアッ……!」
口元の甲冑の隙間から、吐血のようなものが溢れた。
体が浮いたコウに、ダリアはトドメを刺そうと金棒を構える。
「ヒヤッとしたが、今度こそ終わりだ!」
金棒をとんでもない速さで振ってきた。
これを避けるのは不可避だと、誰が見ても分かった。
剣がなくても……ッ!
コウはそれに対し、刃がない剣を捨て、右手に拳を構えた。
宙に浮いているため、全く力が伝わらなそうだが……。
『おいっ! 何してるんだやめろ!』
アテナがどこかからそう叫んだ。
「【
「……ッ! 馬鹿がッ!」
ダリアの金棒と、コウの拳がぶつかった瞬間、大きく砂塵が舞う。
「うおっ、見えねぇ……」
「2人はどうなったんだ……ッ!」
観客は、目を霞めながら2人を探す。
「――おいっ! あれを見ろ!」
観客の1人が指差した先には、1人立つ誰かの影が見えた――。
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