第15話 圧倒的
「ハアッ!」
始まりの合図とともに、コウはダリアに向かって走り始めた。
「……フンッ」
ダリアは金棒をクルクルと回しながら、コウが辿り着くのを待った。
完全に舐めてるな。
その方が好都合だがなっ!
ダリアの力を体験しておきたいこともあり、コウは剣を大きく振りかぶった。
「わっかりやすい大振りだな〜」
ダリアは表情も変えず、コウを静観している。
「ハァアッ!」
コウは脳天目掛けて斬りつけた。
「おっと……。いきなり頭かよ」
攻撃が当たるギリギリのところで、金棒で剣を受け止めた。
びくりともしない。
突っ立ったまま受け止めるかよっ。
「そらよっ……と」
ダリアはコウの剣を軽く弾いてみせた。
「クッ……」
「フッ」
2、3歩程後ろに弾かれたコウに、ダリアは手招きする。
「チッ!」
ダリアの挑発に乗ったコウは、何度も何度も斬りかかった。
クソッ!
レベルは15だが、【アテナの加護】もあるんだぞ!
こんなにも差があるのかよっ。
コウの連撃は全て弾かれる。
しかし反撃がなく、ダリアは完全にコウを舐め切った動きをしている。
「――いいぞいいぞー!」
「――頑張れー!」
観客もその様子を見て、感染というより応援のような形になってきた。
「フゥ……そろそろいいか……なっ」
ダリアは剣を受け止めたと思うと、コウの体ごと弾き飛ばした。
ブワッと体が浮いたコウは、地面に着いたときに倒れないように踏ん張る。
「グッ……!」
しかし勢いは殺せず、地面には長く踏ん張った跡が残った。
これでコウとダリアの距離は大きく開いてしまった。
「ぼちぼちこっちも行かせてもらうぜ」
ダリアは一歩前に踏み出した。
◇ ◇ ◇
「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
アロナは家を飛び出し、決闘場に向かって走っていた。
コウの奴〜!
昨日はボイルベアを倒したとか言ってたから、ゆっくり休んだ後に会いに行こうと思ってたに……。
「今日は決闘なんてー!」
心配するこっちの身にもなってよー!
アロナは叫びながら決闘場に走っていった。
「おおっと」
「あっ、ごめんなさいー!」
全力疾走だったので、誰かに肩をぶつけてしまったようだ。
アロナは足を止めずに謝罪をした。
「……決闘か」
肩をぶつけられた者は、走っていくアロナの後ろ姿を見て、透き通った声を出した。
◇ ◇ ◇
「オラよっ!」
「グッ……」
コウは防戦一方だった。
反撃もできずに、壁際まで追い詰められている。
軽く振り回す癖に、一発一発が重いっ。
「さっきまでの威勢はどうした?」
攻撃の手を止め、様子を伺ってくる。
「ハァッ、ハァッ……」
対人戦をしてみて分かった。
強い奴は、ほよんどの【パッシブスキル】はカンストに近いレベルまで上がっている。
欠けてるところなんてない。
「まだまだっ……!」
コウは反撃を始める。
「元気はいいなぁ!」
ダリアはコウの攻撃を、真正面から受け止める。
「正直、期待し過ぎたかな……」
攻撃を受け止めたとき、ダリアがコウの耳元でそう言った。
「なっ……」
またも剣が弾かれ、今度は壁に体がぶつけられてしまった。
「がはっ……」
打ち付けられたコウは、なんとか倒れないよう壁に手を置く。
『おいおい〜。出し惜しみしてる暇ないだろうが』
コウの背後にシュンと現れたアテナが、呆れ気味に言ってきた。
【
勝負は一瞬。
作戦は決まった。
「スゥ……ハァ……」
何か作戦を思いついたコウは、深呼吸をした。
「……空気が変わった?」
ダリアは様子が違うコウを不思議に思った。
「【形態変化・モード:
コウの甲冑と剣が、光りながら形を変えていく。
「あ? 一体何だ?」
ダリアは光るコウを注視した。
「――条件は揃った」
光が治まったコウは、ダリアが注視しているのを見て、そう呟いた。
「――ハァ〜間に合った〜」
コウが【形態変化】を発動したとき、アロナは観客席に辿り着いた。
「……って何あの光!」
光り輝くコウを見て、アロナはコウがバルーンスライムと戦ったときのことを思い出した。
「まさか……【呪いの甲冑】が……」
「【呪いの甲冑】?」
「うひゃあっ!? 貴方はさっきぶつかっちゃった……」
ひょこっと顔を出してきたのは、先程アロナがぶつかってしまった人だった。
顔は男か女か見分けがつかない中性的で、美しい顔に青いショートヘア。
稀に見る美青年だ。
首から下は白銀の鎧を纏っている辺り、冒険者か騎士だろう。
「アハハッ、決闘がなんとか言ってたからついてきちゃった」
とぼけたような笑顔でそう言った。
その笑顔も絵になる。
「アハハ……実は私の知り合いが出てて」
「それがあの甲冑君か……」
そう言い2人が目をやると、光が治まり、甲冑が変わったコウがいた。
「変身した!」
「あれは、【アンティークアイテム】の類だろうか……?」
2人ともコウの姿に驚いている。
もちろん観客全員が驚いており、会場がどよめいている。
「へっ、思ったより変わったな」
ダリアはまだ余裕そうだが、コウをちゃんと観察している。
「フッ……!」
コウはフワッと浮いてみせた。
「ん?」
ダリアは金棒を前に構える。
しかしフワッと浮いたコウが足を着けたのは、地面ではなく壁だった。
「まさか……!」
「ハアアッ!!」
叫び声と共に、コウの姿が消えた。
――バゴッ!
コウが消えた直後、足を着いた壁に大きなヒビが入った。
「来いっ!」
ダリアはコウがいた位置に向けて金棒を振りかぶる。
しかしコウの姿は現れない。
「?」
「――こっちだ」
「なっ……」
コウが突然現れたのは、ダリアの顔の左側だった。
「しまっ――」
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