第14話 決闘
なんて答えるべきだ?
シンプルに戦いたかったっていうのはダメな気がするし……。
「どうした? 答えられないのか?」
「いや、その……」
『何迷ってんだよ〜』
黙ってろお前は!
コウが返事に困っていたそのとき――。
「おいおいライネさんよー!」
扉の外からドカドカとした足音と声が聞こえてきた。
「む?」
足音が部屋の前で止まると、勢いよく扉が開いた。
「要は不正をしていないかの確認だろう? だったら俺と戦えばいいだろうがっ」
……デカッ!
毛皮を背負っているような服を着た大男が部屋に入ってきた。
頭にはバンダナを着けている。
「ダリア、一体何をしに――」
「俺も気になってたんだよ。妙な甲冑の冒険者が出てきたって聞いてよ」
どうやらこの男、ダリアと言うらしい。
武器は棍棒だろうか。
「よし甲冑野郎。俺と勝負だ」
ダリアはコウを指さした。
「勝負?」
「決闘だよ決闘」
指の関節をゴキゴキを鳴らし、気合十分のダリア。
「待てダリア。勝手に話を進めるな」
ライネが立ち上がって間に入る。
「いいだろ別に。その方が手っ取り早いだろ」
「確かにそうだが、怪我が治ったとはいえ、まだコウは本調子じゃない。それに君とでは差がありすぎる」
言われて気づいたが、怪我が治っている。
甲冑の傷も一緒に直ってる……。
「まあ腕試しだと思って気楽にやってもらえばいいだろ」
なんだか好戦的な人が来た。
態度も悪いし、相当偉いか強い冒険者か?
「そうは言っても……」
「――俺はやってもいいですよ」
「なっ……」
「ハッハァ! そうこなくっちゃ」
ダリアは上機嫌になった。
「待てコウ。言ってはなんだが、今の君では歯が立たないぞ」
「……ライネさんは俺の不正を疑っているんでしょう? だったら決闘という形が一番分かりやすいと思います」
「それはそうだが……」
「じゃあ決まりだ。明日の昼に、ギルドの裏にある決闘場に来い」
「分かった」
「よし。じゃあ帰る。じゃあな」
「お、おいっ!」
止めようとしたライネを無視して、ダリアは部屋を出ていった。
「……はぁ。良かったのか? ダリアと決闘なんて」
「まぁ……決闘って、一体一で戦うんだろ?」
「それはそうなんだが、ダリアは最近A級になった冒険者だぞ?」
……え?
「……え?」
「だから止めろと……」
「レベルはどのくらいですか?」
「詳しくは分からないが、基準で言うと、A級は60レベル以上だ」
45レベルも差があるじゃねぇか!
「ちなみに決闘で死ぬことはないですよね?」
「そこは安心してくれ。死なないようにはなっている」
良かった。
いきなり来た大男にアッサリ殺させるのはごめんだしな。
「ふぅ。俺は決闘で勝つしかないんですか?」
決闘で証明しろということは、やはり勝つしか……。
「流石に無理だろう」
「……ですよね」
「だから、君の疑いを晴らす条件は――」
ライネはコウに、条件を伝えた。
「――本当にそれだけでいいのですか?」
「ああ。D級冒険者がA級冒険者と戦うんだ。これでも十分すぎる条件だ」
「……分かりました。クリアしてみせます」
「頑張ってくれ。あっ、これを渡していなかったな」
ライネはそう言うと、小袋を取り出した。
「それは?」
「今回の報酬だ。依頼の紙通りだ。受け取ってくれ」
「わざわざありがとうございます」
コウは受け取ると、袋の中を確認する。
袋の中には銀貨が5枚あった。
「では私はそろそろ行くよ。明日までここでゆっくり休んでもいいし、出ていっても構わない」
「何から何までありがとうございます」
部屋を出ていくライネに、コウはベッドから立ち上がって礼を言った。
「そう言えば、さっき聞いた冒険者になった理由は、また今度聞くとするよ」
口調が落ち着くと、ライネはそう言って部屋を出ていった。
「……はぁ」
ライネが部屋から離れたことを確認したコウは、再びベッドに身を投げた。
想定外のことが起き過ぎてる。
だが、上手くいけば……。
◇ ◇ ◇
――リーゼンの町・決闘場
「さて、甲冑野郎はまだかな」
太陽が真上に昇る頃、決闘場の入口でダリアが腕を組みながら待っていた。
何かが入った長細い袋を背負っている。
「――待たせたな」
コウは準備万端で、決闘場にやってきた。
「ハッ、遅れて登場とはな」
「悪いな」
ダリアはコウが来たのを確認し、決闘場の中に入っていった。
コウもダリアの後について行った。
◇ ◇ ◇
2人は薄暗いトンネルを進む。
「この場所はな、真ん中にデケェ決闘場がある。そしてその周りには4つの
ダリアがこの決闘場の説明をする。
「もちろん席もあるから見に来る奴らもいる。しょうもねぇ試合するなよ」
「もちろんだ」
ダリアの脅しに屈せずことなく、コウは返事をした。
「へっ、いい返事なこった。あとな、死の危険を感じた瞬間、審判が止めに入る。その直後、【防護スキル】が発動して、身を護ってくれる」
昨日リーダーが言っていたことはこのことか。
「分かった」
「よし。そろそろ着くぞ」
ダリアがそう言うと、右手に受付のようなものが見えてきた。
「受付?」
「ああ。先に予約してればすぐ通れるぜ。あそこの横の扉が控え室に繋がっている」
ダリアはそう言うと、受付で話を始めた。
コウは離れた位置で待っていた。
機嫌を悪くしてない辺り、多分予約してたんだろう。
「おい! 行くぞ!」
手続きが済んだのか、ダリアが呼んできた。
「……よし」
コウは覚悟を決め、ダリアの元に向かった。
◇ ◇ ◇
――リーゼンの町・決闘場控え室
控え室は質素なデザインで、椅子と机、そしてベッドが置いてあった。
係が呼びに来るまではこの部屋で待機する。
「ふぅ……」
コウは椅子に腰をかけた。
俺は条件をクリアできるだろうか。
ダリアが背負っていた袋を見る限り、武器は長物であることは間違いない。
やはり読み通り棍棒の類だろうか。
「絶対力負けするよなぁ」
あの巨体から繰り出される攻撃は、まともな喰らったら終わりだ。
【モード:
今の俺じゃ長時間は使えないし。
体力消費凄いし。
「あークソッ! 下向きに考えちまうな〜」
対策を悩みに悩んでいると、ドアをノックされた。
「コウさん。お時間です」
ガチャっと開けたドアからは、名簿を持った係の人が入ってきた。
「わ、分かった」
結局まとまらなかった。
コウは係の人についていき、部屋を出た。
またしても薄暗いトンネルを歩く。
すると、前方から光が溢れているのに気づいた。
「では私はこれで。健闘を祈ります」
係の人は立ち止まり、コウを見送った。
「……」
視界が光で霞む中、歩き続けると、トンネルから抜け出した。
「おっ! 出てきたぞー!」
トンネルを抜けた先は、円形の決闘場が広がっていた。
決闘を見に来た人も数多く、コウが出てくると、ワッと歓声が上がった。
◇ ◇ ◇
――第1決闘場
「これが……」
コウは思ったより沸いている歓声に、思わず驚いてしまう。
「おいおい。そんな調子で戦えるのかぁ?」
対角上のトンネルから、ダリアが出てきた。
「うおおおおおおっ!」
観客は、コウが出てきたより盛り上がった。
それもそのはず、A級冒険者の決闘はほとんど見ることがないからだ。
コウはその中、出てきたダリアをじっくり観察していた。
右手に持つあの武器は……。
棍棒ではなく金棒か。
それにしては形が四角いというか、上から見るとひし形になっているのか?
想像している金棒とは違い、コウはその武器の危険性を考える。
「まあそう警戒すんなって。あくまでお前の力を試す決闘だぜ?」
「両者! 中央に!」
審判が別のトンネルから現れ、中心に小走りで寄ってくる。
2人も審判の元に向かった。
「では今から【防護スキル】を付与します」
そう言うと、両手をそれぞれの胸にかざした。
両者の体が青色に光る。
「おお……」
光は一瞬にして消えた。
「私が危険と判断したとき、【防護スキル】が発動します。気絶した場合、降参を告げた場合か、【防護スキル】が発動した瞬間決闘は終了です。質問はありますか?」
「なし」
「同じく」
ダリアとコウが質問はないと言った。
「では両者握手を」
審判に言われたとおり、2人は握手をした。
「……」
「フッ、面白いもん見せてくれよ」
「では両者元の位置へ」
2人は握手を終えると、背を向けて元居た位置に帰っていく。
「準備はよろしいですね! では両者構え!」
コウは剣を引き抜き、両手で握りしめた。
ダリアは金棒を肩でトントンとして、余裕な態度を取っている。
「これより! ダリア対コウの決闘を始める!」
会場が一瞬静まる。
「――始め!」
「うおおおおおおおおっ!!!」
解錠が揺れるほどの感性とともに、2人の決闘は始まった。
【決闘】
・物事を決める際にする場合が多い。他にも、シンプルな力比べなどにも使われることもある。
・決闘場では、年に数回大会が行われることもあり、その時は観客席から観客が溢れるほど盛り上がるとされる。
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