第13話 本心
「バンが戻ってくるまでに色々確認するか」
コウはそう言いながらステータスを開いた。
【名前】コウ
【性別】男
【職業】冒険者
【装備】
・呪いの甲冑
・鉄の剣
・決意のペンダント
【レベル】15
【スキル】
・アテナの加護
・剣術の心得
・筋力増強
・危機察知:レベル2
・気配察知:レベル2
【持ち物】
・銅貨:80枚
レベルが5も上がってるな。
【危機察知】と【気配察知】も上がってるけど、もっと上がるものかと。
「これか?」
コウは【決意のペンダント】を見つめた。
このペンダントと【アテナの加護】で恐怖心がなくなったから、それほど危機を感じなかったと。
他に変わってるところはないかな。
よし、ステータスの確認終わり。
次に確認するのは……。
『ん? なんだ?』
アテナについてもう少し知っておきたい。
「お前は俺に"破城突き"を覚えさせたよな。他にも技を覚えさせられるのか?」
『しばらくは無理だな』
「しばらく?」
『色々あるが、ハッキリとした理由は2つ。1つ目は、まず遺跡を発掘してくれないと、完全に力が発揮できねぇってこと。この姿は思念体のようなもんだからな』
「これ掘るのか?」
コウは石畳を足踏みした。
『ああ。まあそう簡単には掘れねぇけどな……。そして2つ目。シンプルにお前が弱いから』
「技を使うための器じゃないと」
『ヒョロガリに大剣持たせるみてぇなもんだ』
「じゃあレベル上げしないとか……」
『さっきも言ったが、私は思念体みたいなもんだから、基本者には触れられないから覚えとけ』
「まあそこまで問題じゃないだろ。そもそも見られないし」
『確かにそうか』
「――そして最後に」
コウはアテナの目を見つめた。
「この【呪いの甲冑】について何か知っているか?」
『……』
アテナは顎に手を当て、何かを思い出していた。
「どうだ? 脱げないから自分の顔も分からないんだ」
『――知らん』
「……そうか」
女神にも分からないのか……。
『だが、いくつか宛はある』
「なっ……本当か!」
コウはグッと顔をアテナに近づけた。
『ああ。私が考えられるのは3つ』
アテナはコウの顔の前に、3本の指を立てた。
『まず、【アンティークアイテム】に詳しい奴を見つける』
「【アンティークアイテム】?」
『【アンティークアイテム】ってのは、古いアイテムや装備のことだ。今では解明できない技術が使われているもんとかな』
「なるほど……」
確かに、外せないけど進化する甲冑とかどうやって作るんだって話だよな。
『そして2つ目。その甲冑というより、お前自身が呪われている可能性を考え、【神聖】系のスキルを扱う者か、関係しているアイテムを探すかだな』
「【神聖】か」
『解呪すれば、その甲冑も外れるんじゃないかって思ってよ』
甲冑じゃなくて、俺自身が呪われている可能性もあるのか。
「……3つ目は?」
『この中で最も可能性の低い話だが……』
アテナは言うのを渋った。
「大丈夫だ。教えてくれ」
『……そのまま成長する。いや、本来の姿に戻るようにする』
「?」
何を言っているのか分からないコウは、首を傾げた。
『お前がさっき甲冑の形を変えたのを、"進化"と捉えず、元の姿に戻ろうとしていると考えるんだ』
「この姿は本当の姿じゃないと」
『だからこのまま成長していけば、本来の姿に戻れて甲冑も外せる……』
「確かに可能性が低いな……というか、結構暴論のような気もする」
『まあこれは一旦忘れてくれ。一応話しといただけだ』
「ああ。じゃあ俺はこれから、【アンティークアイテム】に詳しい奴と、【神聖】に関する情報を集めていくという方針で行くか」
あっ、そういえば甲冑専門店にも寄らないとか……。
『じゃあこれから頑張らないとな』
「ああ。じゃあそろそろ人が来るだろうし、またどこかで――」
『何言ってるんだ?』
「……え」
『私もついてくぞ?』
「……なんで?」
『面白そうだから』
「それ、だけ……?」
『おう!』
「ああ……もう勝手にしてくれ」
甲冑だけじゃなく、女神にも縛られるのかよぉ。
「――おーいっ! 戻って来たぞー!」
バンが息を切らして走ってきた。
「なんだなんだ? 他の人は遅れてくるのか?」
「ハァ、ああ。もう少ししたら来る。だが、俺が走ってきたのは別の用があるからだ。ギルドリーダーがお前のことを連れてくるよう言ってんだよ!」
バンが焦った様子でそう言った。
「へぇ。ギルドのお偉いさんが……」
もしかして、何かやらかした?
やっぱりランクが上のモンスターを倒すのはマズかったか。
「とにかく来てくれ! ボイルベアはギルドの職員が運んでくれるから!」
「はいはい。分かっ――」
バタッ……。
「え?」
『あちゃー、流石に気絶しちまったか』
これまでのダメージ、疲労により、コウは意識を手放してしまった。
「だ、大丈夫か! とととにかく! 担いでギルドまで行くからな! そこで診てもらうぞ!」
バンはコウをおぶり、槍を椅子代わりにして、また全速力で走っていった。
◇ ◇ ◇
「――んあっ!?」
コウがバッと目を覚ました。
「あれ? ボイルベアを倒して、どうしたんだ?」
辺りを見渡すと、どこかの建物の中にいることだけは分かった。
部屋は質素なもので、ベッドと椅子。
そして落ち着く香りのアロマが置いてあった。
「目が覚めたかな?」
部屋の扉を開け、誰かが入ってきた。
入ってきたのは、ローブを羽織った初老の男だった。
威厳溢れ、逆立った髪は、強さの表れのようだった。
この男、強い……。
「まあそう警戒しないでくれ。まずは状況の説明をしよう」
ベッドの横の椅子に腰をかけた。
「ここは冒険者ギルド・リーゼン支部の部屋の1つだ。気を失った君を、裏門の門番が運んできてくれたんだ」
バンのことか。
「そして私は、このリーゼン支部のリーダー。ライネ・シンだ。是非君と話がしたくてね」
「コウです……」
『お前コウって名前だったのか!』
コウの背後に突然アテナが現れた。
「うわっ!?」
「なんだどうした? 傷が痛むのか?」
「い、いえ。なんでギルドのお偉いさんが俺に話があるのかと」
そういえばアテナがいるんだった。
「いや、今回の件について話すことがあってね」
そう言うと、ライネは真剣な顔になった。
「まず、C級難易度のボイルベアの討伐感謝する。あの個体はかなり肥えていたからね。並の冒険者には討伐は難しかった。よく倒してくれた」
「まあ、俺も死にかけたんですけど」
『私のおかげだなっ』
実際そうなんだよなぁ。
「この功績を認めて、君をD級に昇格させよう」
「D級……」
「流石にC級には上げられないが、冒険者登録をしてこんなに早く昇級するのは前代未聞だ。このリーゼン支部ではな」
凄いことなのか?
「何か得とかあったり?」
「もちろんD級の依頼を受けられるようになる。あとパーティーを組めるようになる」
「パーティー?」
「パーティーとは、2人以上の冒険者同士で組んで、任務を行うことができるんだ」
「協力関係ということですか?」
「まあそういうところだ。人数の上限はないが、増えすぎると統率が取れないから気をつけるようにね」
「……はい」
まあしばらく組むことはないけど。
「まあそのことは置いといてだな……」
優しい口調から、再び声色が変わった。
「なぜE級の君が、C級の依頼を受けられたのか」
「それは――」
「冒険者ランクがC級のバージャッカに騙された」
「その通りで――」
「だが、冒険者になったばかりで右も左も分からない男が、C級を受けようと思うか?」
まあバージャッカが騙していることは薄々気づいてたしな。
「君がここで寝てた時点で、勝てる見込みがあったとは言わせないぞ」
実際アテナがいなければ死んでたしな。
だったらアテナに聞いてみるか?
『そんなの強ぇ奴と戦いたいからに決まってんだろうが。なぁコウ』
ダメだ絶対不正解。
「ちなみに、返答次第で冒険者をやめてもらう。慎重に答えろ」
「なっ……!」
どうする……。
俺はなんて答えるべきなんだ!
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