第4話 浮気
わたしはレデシアーヌ。
キュヴィシャルデ公爵家令嬢として生まれ、ボダンシャルフィス王国王太子グレゴノール殿下と結婚をしてからまもなく一年になる。
グレゴノール殿下はわたしの幼馴染だ。
夫婦仲は、新婚直後ほどのラブラブさはないが、円満だ。
ただ、結婚後半年を過ぎた頃から、二人だけの世界に入る回数が減ってきた。
ここ一か月ほどはご無沙汰の状態。
グレゴノール殿下は、国王陛下の推進する、
「王国改革プロジェクト」
のリーダーに就任しているのだけれど、平日だけでなく休日になっても仕事での疲れが抜けないと言って、わたしを誘ってこない。
公務だけでなく、このプロジェクトも抱えているのだから、その激務ぶりは理解できる。
わたしもグレゴノール殿下に配慮して誘わないようにしている。
でもこのままでいいとは思わない、
わたしとしては、グレゴノール殿下との子供がほしい。
生まれてくる子供は、お世継ぎということになるので、周囲からも期待されている。
それには二人だけの世界に入っていく必要があるのだけれど、そういうムードにはなってこないまま。
そんなある日の夜のこと。
わたしは夫婦の寝室でグレゴノール殿下がくるのを待っていた。
今日もグレゴノール殿下は、仕事で一日中王宮にいた。
わたしも王宮で、王太子妃としての公務を単体あるいはグレゴノール殿下と一緒こなしていたのだけれど、グレゴノール殿下はそれに加えて、今日もプロジェクトに関する仕事をしていた。
グレゴノール殿下が、ここに帰ってきたのは夜も遅くなってきた頃だった。
最近、夕食については、一緒にとる機会がほとんどない。
寂しい気持ちになることも多い。
グレゴノール殿下は、今日一日すべての仕事が終わった後、食事をする。
そして、入浴し、わたしが今いる夫婦の寝室に向かうというのが日課だ。
二人だけの世界に入ることが少なくなってしまったとはいうものの、いつ求められてもいいように、きちんと準備はしておく。
今日は、わたしを求めていただけるといいなあ……。
期待はどうしてもしてしまう。
そして、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「わたしだ。帰ったよ」
グレゴノール殿下だ!
わたしは期待を高めていきながら、グレゴノール殿下が入ってくるのを待つ。
しかし……。
部屋に入ってきたのは、グレゴノール殿下と、知らない女性だった。
グレゴノール殿下はドアを閉めると同時に。
「オレルドよ、好きだ」
と言って、その女性を抱きしめる。
その女性も、甘い声で、
「グレゴノール殿下、好きです」
と言ってうっとりした表情をしている。
これはいったいどういうことなんだろう?
ただの知り合いが部屋に来るわけはない。
愛の言葉をグレゴノール殿下にささやくはずがない。
声を聞くだけでも、二人の仲は、相当深いことが理解できる。
となれば浮気?
いや、そんなことはない。
わたしとグレゴノール殿下は、お互いの家どうしが幼い頃に結婚を取り決めた間柄。
政略結婚という位置付けではある。
しかし、幼馴染から恋人どうしになり、結婚まで進んだ間柄でもあるのだ。
浮気なんていうことはありえない。
わたしはそう思っていたのだけれど……。
二人は唇と唇を重ね合わせようとしている。
「これは、いったいどういうことなの……」
混乱するわたし。
わたしはグレゴノール殿下の妃。
結婚して、仲睦まじくしてきたはずなのに……。
二人は、わたしがそばにいることなど関係ないように、唇と唇を近づけていく。
「グレゴノール殿下、今すぐその女と離れて!」
とわたしは叫んだ。
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