第3話 処断
わたしは公爵家に戻った。
戻ってきた日は、その後、一晩中泣き続けた。
父前当主は、今日の舞踏会に出席する為、隠居先の領地にある屋敷から、病気の体ではあるものの無理をしてやってきていた。
そのまま王都にあるこの屋敷に泊まっていて、わたしの部屋を訪れ、慰めの言葉を言おうとしたのだけれど、
「一人にしてください」
と言って断った。
その後、二日間は、婚約破棄の場面を思い出しては、涙を流すことが多かった。
婚約破棄から数日後、マクシノール殿下は公爵家に使者を送り、
「あなたとの婚約は破棄した。しかし、公爵家当主としての地位はそのまま認める。ただし、これから一年の内に、公爵家の内政の立て直しに着手することが条件だ。税率を下げて領民の負担を軽減すると同時に、財政を黒字化する方策を立て、国王陛下の承認を得る。そして、その方策を実行し始めるのだ。すぐに内政を立て直せと言っているわけではない。時間がある程度かかるのは承知している。しかし。このままでは、公爵家領内に反乱が発生することになる。そうすると、王国全体の問題になってしまう。この一年で、方策を立て、実行し始めること。これが、われわれの求める条件だ。もしそれができない場合は、王国の秩序を守る為、国王陛下が公爵家の内政に介入することになる」
と言ってきた。
わたしは憤懣やる方ない。
内政を立て直す?
立て直しの方策が立てられなければ。そして、実行できなければ、内政に介入する?
何をおしゃっているのだろう?
わがコルヴィシャルデ公爵家に対して、歴代の国王陛下は、内政に介入することをつつしんできた。
それだけこの王国の中での地位は高いのだ。
それを今の国王陛下が行ったら、従来のしきたりを破ることになる。
そんなことはできるわけがない。
だいたいなぜ内政を立て直す必要があるのだ。
公爵家の財政悪化はわたしも認識しているが。それはもっと税を重くすることによって、補っていけばいいことだ。
領民のことなどなぜ思いやる必要がある?
領民のことを思いやる余裕があるのだったら、悲しみにくれているわたしを婚約者に戻してほしい。
わたしがどれだけつらい思いをしているのか、マクシノール殿下にはわかっていないのかもしれない。
ああ、マクシノール殿下……。
すぐにでもマクシノール殿下の婚約者に戻りたい。
戻れないのなら、コルヴィシャルデ公爵家で好き勝手にさせてほしい。
わたしはマクシノール殿下の婚約者で、コルヴィシャルデ公爵家の支配者なのだ!
この怒りが、わたしに気力を与えていく。
婚約破棄された鬱憤をはらすべく、今まで以上の贅沢をするようになった。
しかし、そうなると、財政の赤字は膨らんでいく。
それを補うために、さらなる重税を課すことにした。
どうせ領民に反乱などすることはできまい。
もし反乱が発生したら、鎮圧すればいいだけの話。
そう思っていたのだけど……。
公爵家の中でもわたしに反対する勢力があることに、わたしは気がついていなかった。
わたしの前では、皆、従順だったからだ。
しかし、領民による反乱が発生すると、公爵家内の反対勢力が呼応した。
頼みの公爵家の兵は、ほとんどが反対勢力の方についてしまう。
そして、あっという間に、公爵家と公爵家領は反対勢力により制圧されてしまった。
わたしは、公爵家内の屋敷に幽閉された。
公爵家における反対勢力の人々は、わたしを修道院に送ることで、この事態を収めようと思っていたようだ。
しかし、領民側の反対勢力はそれでは納得しようとしなかった。
それ以上のことを求めていた。
それ以上のこととは、わたしの処断。
さすがに公爵家反対勢力の方ではそれを断ったのだが、領民反対勢力の方は譲らない。
後継者選びも難航していた。
そこで、全体の処理を国王陛下にゆだねることで、反対勢力の意見は一致した。
国王陛下はマクシノール殿下とも相談し、処分が決まった。
後継者はコルヴィシャルデ公爵家の一族の男子に決まった。
わたしは国王陛下の指示に従わず、反乱を招いてしまったことで、処断されることになった。
わたしはただ贅沢をしたかっただけ。
それなのに、婚約は破棄され、このようなみじめな状態になる。
どうしてこのわたしが、このような酷い仕打ちを受けなければならないの……。
わたしは処分を聞かされた後、泣いた。
泣くしかなかった。
そしてその数日後、わたしは処断され、短い生涯を閉じた。
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