第5話 わたしと幼馴染
わたしとグレゴノール殿下は、幼い頃から一緒に成長してきた。
キュヴィシャルデ公爵家の屋敷は王宮からそれほど遠くはない。
両家の間で幼いものどうしながら婚約が成立した後、休日になるとグレゴノール殿下のいる王宮に招待されるようになり、一緒に遊んでいた。
グレゴノール殿下から想いを伝えられたのはまだ九歳の時。
わたしとグレゴノール殿下が、王宮の庭園で遊んでいた時に、グレゴノール殿下が、
「わたしはレデシアーヌさんのことが好きだ」
と言ってきたのだ。
わたしとグレゴノール殿下は婚約したとは言っても、結婚というものがどういうものかは、よくわかってはいなかった。
ただ、「好きな人」どうしがするものだということは理解していたので、グレゴノール殿下がわたしのことを「好き」だと言ってくれたのはうれしいことだった。
既にグレゴノール殿下に好意を持っていたわたしは、
「わたしもグレゴノール殿下のことが好きです」
と少し恥ずかしさを覚えながら言った。
「ありがとう。これで俺たちは両想いだね。うれしいな」
喜ぶグレゴノール殿下。
「わたしもうれしいです」
わたしの心の中にも喜びが湧き上がってくる。
「これからずっと仲良くしていこうね」
手を握り合うわたしたち。
こうして、わたしたちは、相思相愛になった。
しかし、わたしたちは幼過ぎたのだろう。
「好き」だとは言っても、お互いを異性として意識することは少なかった。
お互いに仲の良い友達という意識が強いまま子供時代を過ごしていった。
わたしたちの仲の良さは、この王国が設立した学校に入ってからも続く。
十二歳から十八歳までの六年間ここで学ぶことになる。
身分に関係なく選抜された優秀な王室や貴族、そして平民の子弟が通っている。
クラスはこの六年の間、全部違っていた。
普通だったら、婚約しているとはいっても、それが二人を疎遠にしていく要素になりそうなところだ。
しかし、わたしたちにはそういうところはなく、仲の良さは維持できていた。
夏休みになると、わたしはグレゴノール殿下に誘われて、一緒に避暑地に行っていた。
これが、わたしたちにとって、二人だけの思い出に作ることにつながっていった。
異性としてではなく、幼馴染としての思い出ではあったものの、わたしにとっては、大切な思い出だった。
グレゴノール殿下も同じ思いだったと思う。
そして、小説好きなところは同じ。
普通、王太子殿下ともなると、幼かったとしても、距離をおかなければならないと思うだろうし、周囲はそのようにわたしに話をしただろう。
しかし、国王陛下の方針は、グレゴノール殿下とわたしの間にそういう距離を作らないことであったし、グレゴノール殿下自体がそういうことを嫌っていたので、わたしたちは、毎日軽口を叩き合って、笑い合うことのできる仲になっていた。
ケンカもしたが、それも仲が良いからこそするというところはあるし、グレゴノール殿下がそれだけわたしと打ち解けていたからだと思う。
一緒にいるだけでお互いに楽しかった。
とはいうものの、わたしもグレゴノール殿下も、お互い幼馴染としての意識が強い。
お互い婚約者どうしであるという意識は弱いまま。
なかなかそれは恋に発展はしていかなかった。
お互い、家族一員のような意識を持っていて。「あこがれ」を持つ存在ではなかったというところが大きかったのだと思う。
入学してから三年も経つと、周囲にはカップルが誕生し始めていた。
家を継ぐことが決まっている人たちは、幼い頃に婚約していることが多い。
その婚約者どうしが、形式的な関係からラブラブな関係に発展していくこともあった。
ただ、中には、親が決めた婚約に反発して、自分で恋人を作ろうとする人もいた。
それは、後でもめごとの種になっていくのだけれど……。
また、家を継ぐ人以外は、婚約者がいない人たちが多いし、家を継ぐことが決まっている人たちの中にも、婚約者がいない人がいる。
そういう人たちは、自由に相手を選べることになる。
そういう人たちの間で、友達という状態からラブラブな関係、すなわち恋人どうしの関係にまで発展していくこともあった。
思春期を迎えた友達からすると、わたしたちの進まない関係にやきもきするところがあったのだろう。
「そろそろ年頃になってきたのだから、グレゴノール殿下と、恋人どうしとして付き合う時がきていると思うんだけれど、その気はないの?」
と言われたこともあったのだけれど、そういう気にはならなかった。
わたしに思春期が訪れるのが遅れたことも影響しているようだ。
しかし、グレゴノール殿下とは、ラブラブな関係にはならなかったが、仲の良さは相変わらずだった。
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