琥珀と陽花 第6話

「っていう感じかな?」


 語り終えた陽花は、そう言って笑いました。


「うむ、懐かしいのぉ」


 当事者の一人である琥珀も、昔を懐かしみます。


「……」


「……」


 しかし、その話を聞いた雫月と鳥楽音は何の反応も出来ませんでした。

 それはそうでしょう、あまりにも非現実的すぎる話でした。


「……先輩? どうかしたの?」


「うむ、お主らが我々の出会いを聞かせてほしいというからこうやって話したのじゃ、何か反応はないのかの?」


 そう、本来は、雫月が、陽花と琥珀はどうやって仲良くなったのかと聞いて、陽花が話したのです。

 しかし、まさかこんな話になるとは思えず、困惑してしまっています。


「えっと……」


 それでもなんとか我に返ります。


「色々と聞きたいことはあるんですが……えっと、事実なんですよね? 作り話とかではなく?」


「うむ、当然じゃ」


「まぁ、細部でお互いこんな気持ちだったとか、そういうのは違うかもしれないけど、大体はそういう感じだったと思うよ」


 つまり、陽花と琥珀がダンジョンの中で出会い、危機を乗り越えたというのは事実ということです。


「……色々と聞きたいことはあるんですが……陽花さんはソウルウェアではなかったのでは?」


 そう、少なくとも陽花はソウルウェアではない、そう聞いていたはずなのに、過去の話ではシンクロまでしています。


「ああ、それね、少なくとも今の陽花にソウルウェアの才能はないよ」


「えっと? つまり、昔はソウルウェアだったけど、今はソウルウェアではないと?」


 才能がなくなる? そんなことがあるのでしょうか?


「うむ、それは儂から話そう」


 琥珀がそう言って、話を始めます。


「過去の陽花は間違いなくソウルウェアとしての才能があった、それもとてつもない才能があった。しかしな……儂とシンクロをした時にその才能を全て失ってしまったのじゃ」


「琥珀さんとシンクロした時に?」


「うむ、正確に言うと、その才能は全て儂が受け取ったという状態が近いかの?」


「えっ? 琥珀さんに才能が?」


「もちろん、儂がウェアをできるとかそういうことではないぞ、ただ、儂と陽花とであまりにも相性が高すぎてな、シンクロを解除した時に、それは一つとなってしまったのじゃ、そして、それは儂が受け取ったという状態になったのじゃ」


「……そんなことがあるんですか?」


「かなり特殊すぎる事例ではあるがの、安心せよ。少なくともお主らに起こることはないじゃろう、あれは陽花と儂がまだまだ未熟だったから起こったことじゃ」


「そうですか……」


 シンクロをすることで、ウェアの能力がなくなってしまうのであれば、控えるべきなのかと思ったが、そういうことでないのであればと雫月は安心しました。


「まぁ、結局のところ儂の見解であって事実とはわからぬがな、儂の能力が影響した可能性もあるしの」


 当時の事を振り返って、おそらくこうだったのだろうと推測することはできます、しかし、当然再現などできないので、検証はできないのです。

 ただ、事実として、現在の陽花にはソウルウェアとしての才能はありません。

 それだけわかっていれば十分なのです。


「なるほど……」


 雫月はそう言って、納得します。

 いえ、するしかありませんでした。

 雑談みたいな感覚で尋ねたら、こんな話になるとは思っていなかったのですから。


「……そういえば、モンスターを倒した後ってどうなったの?」


 今まで黙って話を聞いていた鳥楽音が尋ねます。


「その後?」


「うん、結局陽花ちゃんはどうやって、ダンジョンから脱出したの? 琥珀さんはどうなったの?」


 話では、モンスターを倒したところで、終わっていたため、今に至るまでどうなっていたのか気になっていたのです。


「その後は、普通にママとパパが来て、陽花を助けてくれたよ?」


「うむ、どうやら、陽花が放った光がかなり遠くまで見えたようでな? それでやってきたのじゃ」


「ちなみに、由香里ちゃんは普通に脱出してたらしいよ」


 光蓮と誠陽は、先に脱出した由香里から話を聞き、陽花を探し回っていたのです。


「そこで、話をしてな、状況を話したのじゃが、当然儂はダンジョンからは出れないじゃろ? ただ、陽花以外に封印されるのは嫌だったのでな、将来に必ず再会すると約束をして、その場で別れたのじゃ」


「そうなんだ……」


「あれ? でも、陽花さんはソウルウェアの才能がなくなったから、ダンジョンには入れなくなったんじゃ……」


 雫月はそう言って、疑問を口にします。


「そうなんだよねぇ、当時は陽花も普通にダンジョンに入れるつもりでいたから、本当に困ったよ。陽花たちが入り込んだのがかなり問題になって、ダンジョンの管理も厳しくなっちゃったし」


 それはそうだろう、子供がダンジョンに入り込んで迷子になるなど、大問題なのだから。

 ちなみに、それ以降、陽花はダンジョンとモンスターが好きになり、将来はソウルウェアになるつもりで強くなることを決意したのです。

 まぁ、強くなりすぎた気はしますが……


「それで……結局どうなったんですか?」


 陽花以外に嫌という琥珀、しかし、その陽花はダンジョンに入れない。

 再び二人が出会うことなど不可能なように思えますが。


「それはね」


 雫月の疑問に、陽花は笑って答えました。




 一人の女の子と一匹の狐モンスターの出会いから数年が経ちました。

 当時は弱いだたの狐モンスターであった、琥珀は今ではダンジョン内でも屈指の強さを誇るモンスターになっていました。

 もちろん、そうなるまでには相当な努力が必要でした。

 時に強いモンスターにやられそうになり、傷つくこともありました。

 しかし、琥珀はやり遂げたのです。

 その理由はもちろん。


「ひかり」


 そうして、人の姿をとれるようになった一匹の狐モンスターはダンジョンの外へと向かいました。

 かつて交わした約束を守るために。



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この陽花と琥珀のお話については、あくまでも閑話なので本編とは直接関係ありません。

限りなく本編と良く似た世界とでも思っていてください。


また、今話にて2章終了です。

3章の投稿については、現在執筆中でして、しばらくお時間をいただく予定です(おそらく一ヶ月程度かなと)

カクヨムコンの応募受付期間は終わりましたが、読者選考期間は2月8日まで続く予定です。

楽しんでいただけましたら幸いです。


それでは、3章にて、またお会いできればと思います。

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底辺配信者でしたがもふもふのモンスターと合体してモン娘になってダンジョンに入ったら引くほど無双して超絶バズってしまった 猫月九日 @CatFall68

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