琥珀と陽花 第4話

 一緒にお菓子を食べたところで仲良くなった陽花と狐でした。


「君は……」


 呼びかけようとしたところで、なんとなく違和感を感じました。


「なんか、君って言うのも変な感じだね」


 陽花としてはもう友達のつもりです。

 そんな、友達の事を君と呼ぶのは違和感がありました。


「何か名前……」


 当然、野生のモンスターに名前なんてありません。

 そうなると、陽花が考えるしかないのですが……


「う~ん……」


 いい感じの名前を腕を組んで考え始めます。


「……きゅぅ?」


 悩み始めた陽花を不思議そうに見つめる狐。

 そんな狐を見つめ返して、


「綺麗な瞳……あ……狐珀っていうのはどう?」


 陽花には、狐の綺麗な黄色の瞳が宝石のように見えました。

 それは、以前テレビで見た琥珀という宝石にそっくりでした。

 だから、それをちょっともじって狐珀という名前を思いついたのです。

 ちなみに、漢字はわかっていません。


「陽花の名前は陽花、あなたは狐珀ね」


「きゅぅ~」


 狐珀と名付けられた狐はまるで喜んでいるように鳴きました。

 無事に受け入れてもらったことを嬉しく思い、陽花は優しく撫でるのでした。



 さて、そんなこんなで陽花は狐珀と仲良くなりました。

 そんなわけですが、陽花の事情は何も解決していないのです。


「ねぇ、狐珀? あなたはどこから来たの?」


「きゅ?」


 話しかけたものの、当然答えはありません。

 しかし、陽花は話を続けます。


「あのね、陽花は迷子なの……どこに帰ればいいかわからないの」


 狐珀と仲良くなったことで、少しは気が紛れましたが、その事実を思い出して不安に襲われてしまったのです。。


「どうしよう……陽花……ずっとこのままなのかな?」


 そう思うと、涙が溢れてきてしまいます。


「きゅぅ~」


 そんな陽花を慰めるように、狐珀がすり寄ってきます。


「慰めてくれるの? ありがとう」


 お互いの気持ちは確かに伝わりました。

 そして、伝わったのは気持ちだけではなかったのです。


「……狐珀?」


 狐珀が急に立ち上がり、どこかへ歩いていきます。


「大丈夫なの? まだ怪我が治りきっていないよね」


 急いで陽花は狐珀の後を追います。


「きゅぅ~」


 狐珀は一瞬振り返って陽花を呼ぶように鳴きます。


「……ひょっとしてついてこい言ってるの?」


 陽花は狐珀が自分をどこかへ案内しようとしているのだと気がつきました。

 そう、狐珀は人の言葉こそ喋ることはできないけれど、陽花の状況をなんとなく察することできていたのです。

 そうして、琥珀は陽花に恩返しをしようと出口へ案内しようとしていたのです。


 狐は昔人間たちを観察していて、その人間たちがどこから出てくるかを知っていました。

 つまり、そこから先が人間の世界だということがわかっていたのです。


「ありがとう、狐珀」


 そこまで案内すれば、この少女を帰すことができると思ったのです。

 それは、正解でした。

 このまま行けば陽花はダンジョンから出ることができたのです。


 しかし、そう簡単にはいきませんでした。


ドタドタドタ


 歩いている陽花と琥珀の耳に何か音が聞こえてきました。

 何かが走っているような音でした。

 そして、それは、だんだんとこちらに近づいてきます。


「きゅ!? きゅきゅ!」


「な、なに!?」


 琥珀が急に慌て、陽花もその様子につられて慌てます。

 そして、岩陰に隠れようとした時でした、


「ぐるるぅううう!」


 モンスターの雄叫びが聞こえました。

 そちらを見ると、先程琥珀と戦っていたタヌキのようなモンスターがこちらに向かって走ってきているところでした。


「ぐるるぅううう!」


「ぐぅううう!」


「ぐるる!」


 しかも、今度は一体だけではありません。

 合わせて3体もタヌキモンスターがこちらに向かっていたのです。


 3匹のモンスターに二人はあっという間に囲まれてしまいました。


「ぐるる!」


「ひっ……」


 尻尾が少し焼けたタヌキモンスターが陽花に向かって威嚇をします。

 それは、先程琥珀が追い払ったタヌキモンスターに間違いありませんでした。

 そのタヌキモンスターは陽花のことも明確に敵だと認識していたのです。


 思わず、下がってしまう陽花。


「きゅっ!」


 それを守るように琥珀が陽花とタヌキモンスターの間に入ります。

 しかし、先程までいじめてきた相手です。

 琥珀だって、怖くないわけはありません。


「ぐるる!」


「きゅっ!」


 それでも、勇気を振り絞って琥珀はタヌキモンスターと向き合います。


「きゅっ!」


「ぐうる!」


 琥珀は炎を操り、タヌキモンスターはお腹を叩いて音で攻撃をします。

 どちらも、ダメージとしては大きくありません。

 このダンジョンのルート外では狐もタヌキも同じくらいに弱いモンスターなのです。

 それしか技が使えません。


 技としての優秀さだけであれば、琥珀の炎の方が上でした。

 タヌキモンスターに当たれば、毛を燃やしてダメージを与えることができるのです。


 しかし、タヌキモンスターは3体。

 次第に琥珀にはダメージが溜まってきて、フラフラとしてきました。

 元々身体も完全に治りきっていなかったのです。

 そして、ついには琥珀は倒れてしまいました。


「琥珀!」


 そんな琥珀を見て、陽花は慌てて駆け寄ります。


「ぐるるぅ!」


 タヌキモンスターは勝ち誇ったように鳴きます。

 大ピンチでした。


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