琥珀と陽花 第2話

 意気揚々とダンジョンの中へ入っていく由香里ちゃんと、おっかなびっくりついていく陽花。

 本来であれば、扉を監視カメラから24時間監視している人がいるのですが、その時はたまたま、監視カメラの前に人がいなかったのです。

 決して監視員がサボったわけではありません。


 元々二人組での監視のうち、一人が体調不良で休み。

 もう一人は一人で監視をすることになりました。

 つまりワンオペ。ブラック企業の極みですね。


 まぁ、これまでのさして問題が起こったことがない上、そもそも、ゴミ捨て場から入ってくる子供がいるなんてことを想定なんてしていませんから、職務怠慢で責めるというもの過剰でしょう。

 二人が部屋に入ってきたのは、監視員が生理現象で席を外しているところだったのです。


 ともかく。

 二人にとって、運がいいやら悪いやら、二人はダンジョンへの扉をくぐり抜けることができてしまいました。


 そうして、ダンジョンの中に入った、女の子、陽花と由香里ちゃんでしたが。


「あれ? 由香里ちゃん? どこに行ったの……?」


 30分もしないうちに、二人ははぐれてしまいました。

 というのも、由香里ちゃんがはしゃぎすぎて、モンスターに見つかってしまったのです。

 その結果、二人は一生懸命逃げて、気がつけば別々の場所にいました。


「どこ……?」


 陽花は泣きそうになりながらも、必死に周りを見回します。

 しかし、無我夢中で走ったことで自分がどこから来たのか、どこに行けばいいのか、全くわかりません。


「どうしよう……」


 知らない場所で迷子になった陽花は適当に歩き始めました。

 こういう時は、できる限り動かないほうが良いのですが、陽花はそれを知りませんでした。


 そうして、陽花は、適当に歩き続けます。

 ダンジョン嫌いの女の子。

 そんな陽花はエリア内に比較的安全なルート内とそうではないルート外があることすら知りません。

 結果、陽花はルート外に向かってしまいました。



「ここ……どこ……?」


 陽花は、どこにいるのかもわからない場所で、泣きそうになりながらも必死に周りを見回します。

 先程からモンスターに見つからないように隠れて移動しているので、くたくたになっています。


ゴトッ


「ひっ!?」


 また、近くで音がしました。

 すぐに、岩陰に逃げ込みます。

 頭と身を屈めて、息を殺して、なんとか気が付かないでくれと願いながら震えます。


「……ぐすっ」


 半べそどころか完全に大泣きしています。

 そもそも陽花は由香里ちゃんと違って内向的な女の子なのです。

 冒険なんてしたこともないですし、本来であればしたくもありません。


「ぐるる!」


 今だって、すぐ近くからモンスターのうめき声が聞こえ……


「きゅぅん」


 ……


「……?」


 何かモンスターのうめき声にしてはおかしな声が聞こえてきました。

 それはまるで、犬が悲鳴をあげたような声でした。

 不思議に思って、おそるおそる岩壁から顔を出してみると……


「ぐぐぅ!」


「……キュ」


 そこにいたのは、2体のモンスターでした。

 一体は、タヌキのような見た目をしたモンスター。お腹が太鼓のように膨らんでいます。

 そしてもう一匹が、それよりももっと小型の狐のようなモンスター。尻尾が2本生えていますがそれ以外は普通の狐です。


 状況は、タヌキのモンスターが狐のモンスターを岩壁に追い詰めているところでした。


「ぐるる!」


 タヌキが自分のお腹を叩きます。

 その音に狐はびくっと震えます。

 陽花にはわかりませんでしたが、実はお腹を叩くことによって、衝撃がうまれ、それで狐を攻撃していたのです。


 それでも、


「ひょっとして喧嘩……いや、いじめ……?」


 明らかに、狐の方が弱いものいじめをされている状況に思えました。


「……きゅぅ」


 追い詰められている狐が弱々しく鳴いています。

 その状況がなんとなく、自分と被りました。

 どうしよう、助けなきゃ。

 でも、相手はモンスターだし、そもそも、自分はそんなことしている場合じゃなくて……


「ぐるる! ぐっ!」


 その間にも、狐はさらに追い詰められていきます。


「やっぱり、ほっとくのは嫌だな……」


 見てしまった以上、このまま黙って狐モンスターがやられるのは嫌でした。

 そもそも、狐モンスターがやられたら今度はタヌキはこちらに来るかもしれないのです。


「うん。ちょっと手助けして、そのあと逃げよう」


 そう決心した陽花は、近くにあった小石を掴みます。

 タイミングを測って……


「ぐるる!」


「今っ!」


 岩壁から飛び出して、タヌキモンスターに向かって小石を投げつけました。

 当然ですが、小石の攻撃なんかモンスターには効果がありません。

 それでも、突然飛び出してきた陽花にタヌキモンスターは驚き、その動きが止まります。

 陽花としては、その隙に逃げるつもりだったのですが、そこで予想外の事が起きました。


「コンッ!!」


 狐モンスターが、一鳴きすると、炎の弾を作り出し、それをタヌキモンスターに向かって放ちました。

 それは、タヌキモンスターの尻尾にあたり、燃え上がります。


「ぐる!? ぐぐぅ!?」


 突然尻尾が燃え始めたタヌキモンスターは混乱し、どこかに走って行ってしまいました。

 そして、その場には陽花と狐モンスターだけが残されました。


「……」


 陽花は狐モンスターが炎の攻撃を放ったことに驚き、その場に立ち尽くしてしまいました。

 そういえば、この狐も普通の狐じゃなくて、モンスターなんだよね。

 そんな当たり前のことを思い出して怖くなりました。


 狐モンスターの顔が陽花の方を向きます。

 びくっとして、すぐに逃げようとした陽花でしたが……


「きゅぅ……」


「えっ?」


 狐モンスターはそのまま倒れ込んでしまいました。



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