琥珀と陽花 第1話

 これは雫月がソウルストーンを落とすよりももっと前。

 雫月はまだアカデミーに通っていない、配信も開始していない。


 これは一人のダンジョン嫌いの女の子が、一匹のモンスターと出会い。

 絆を紡ぐまでの物語。



 とある普通の一軒家、そこには一人の女の子が両親と暮らしていました。


「え~、ママたち今日も冒険なの!?」


 女の子の両親は、ダンジョンを探索するお仕事をしていました。


「ごめんね、でももうちょっとでクリアできるはずだから!」


 若くして結婚、そして子供を授かった二人は、子供の世話をしながらも冒険を続けていました。


「今回のエリアをクリアしたら、しばらく休めるはずだから、すまんな」


 そう言って、女の子を頭を撫でる二人。


ピンポーン


「あ、島村さんが来たね」


「ええ、それじゃあ。由香里ちゃんとお留守番よろしくね。何かあったらお隣さんにお願いするのよ」


 そう言って二人は出かけていきました。


 冒険に行く理由は生活をするため、決して女の子を放置したいわけではないのです。

 しかし、そんなことは女の子にはわかりません。


「ダンジョンなんて嫌い……」


 女の子にとって、ダンジョンは両親を奪う悪いものとなっていました。


「遊びに来たよ!」


 両親とは入れ替わりに一人の女の子がやってきました。

 その子は、女の子の親友である由香里ちゃんです。

 由香里ちゃんの両親も、女の子の両親と同じくダンジョンを探索していました。

 どうやら一緒にパーティを組んで探索しているらしいです。

 そのため、両親が冒険に出かけた時は、こうして二人で留守番するというのが定番でした。


 うん? メイド? 一般人の家にメイドがいるわけないですよ。

 何かあったら、お隣に住むおじいさん、おばあさんに頼みますが、基本的には二人だけです。



「由香里ちゃん、今日は何をするの?」


 両親のいない寂しさを紛らわすため、女の子は由香里ちゃんに話しかけます。


「えっとね、今日はちょっと冒険に行こうかと思ってるの!」


「……冒険?」


「うん! 私もきっと将来は冒険者になるの! そのための練習だよ!」


 女の子と違って、由香里ちゃんはダンジョンが大好きです。

 両親にも憧れていて、将来は自分も冒険者になるのだと言っています。


「えぇ……でも……」


 むしろ冒険者なんて嫌いな女の子には行く理由はありませんでしたが……


「ほら! これ持って! 行くよ!」


「あ、待ってよ!」


 由香里ちゃんは、女の子にリュックを押し付け、その手をつかみます。

 ダンジョン嫌いの女の子を由香里ちゃんが引っ張っていきます。

 あ、ちゃんと。玄関のドアは締めましたのでご安心ください。



 そのまま、由香里ちゃんに引っ張られて、街の中心にある建物の前に来ました。


「ここからダンジョンに入れるんだって!」


 由香里ちゃんは、その建物を指差します。


「この建物の中にダンジョンの入口の扉があるらしいよ!」


 尊敬する両親が言っていたので間違いはありません。

 しかし、


「で、でも、ダンジョンに入るのはソウルウェアじゃないと駄目なんだよね?」


 女の子は、由香里ちゃんに言います。

 ダンジョンの中には危険なモンスターがいます、それに対処できるソウルウェアじゃないと入れない。

 そういうルールがあります。


「大丈夫! 私達だって、両親がソウルウェアなんだもん!」


 何の理由にもなっていないし、大丈夫じゃない気がしますが。

 まぁ、子供のすることなので。


 引き続き、由香里ちゃんは女の子を引っ張っていきます。


「あれ? どこに行くの? 入り口はそこだよね?」


 由香里ちゃんは、正面にある入口ではなく、裏へ回っていきます。


「そりゃ! 私達が将来優秀な冒険者になるとしても、今は絶対止められるでしょ?」


「……将来冒険者になるのは確定なんだ」


「でも大丈夫! この間、入れそうなところを見つけたんだ!」


 そう言って、由香里ちゃんは女の子を引っ張っていきます。

 流されるままに付いていくと、二人は裏にあるゴミ捨て場にたどり着きました。


「ほら! あれ!」


 由香里ちゃんが指差す方向には、子供一人がギリギリ通れるくらいの小さな扉です。


「ここから入れば直接ダンジョンに行ける扉の部屋に行けるんだよ!」


 実はこれは、ダンジョンから帰ってきた人が、そのダンジョンで使った物を捨てるためのゴミ捨て場です。

 すぐに捨てられるように、入り口に繋がっているのです。


「で、でも……汚いよ……」


「大丈夫! 前に通ったけど、意外と綺麗だったよ!」


 生ゴミとかを捨てるわけではないので、確かにそれほど汚くはないかもしれません。

 それでも、女の子は躊躇します。


「でも……」


「パパやママがどんなところに行っているのか気にならない?」


 由香里ちゃんは、女の子の心理を見抜いて言います。


「うん……」


 結局女の子は、流されるままに建物の中へ入りました。不法侵入です。

 扉を抜けて中へ入ると、そこは真っ白い部屋にの真ん中に扉があるだけの空間でした。


「あれが! ダンジョンに繋がってる扉だよ!」


 すぐに由香里ちゃんが駆け寄っていきます。

 そのまま、扉を開けて中へ入っていきます。


「ほら! おいで!」


「うん……」


 女の子もそれに続いてダンジョンの中へと入っていきました。



 そして……


「陽花の名前は陽花、あなたは狐珀ね」


 女の子はダンジョンの中で一匹の狐のモンスターと出会いました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る