第38話 出陣

 全員が自分のやることに出発した中、簡易ダンジョンに残ったのは二人だけ。


「……はぁ、クッキーおいしいね~」


「……うむ、今日もお茶がうまいのじゃ」


 陽花と琥珀である。

 陽花はモンスターとの戦いには慣れているが、シンクロはできないのでモンスターを倒すことができない。

 琥珀はダンジョンの外に出ても、あまり長く活動ができない。

 それぞれ、単独では何もすることができないのだ。


「あ、雫月ちゃんが女の子助けたみたいだね」


「うむ、なかなかの手際じゃの」


 スマホに映し出された雫月の配信を見つつコメントをする。


「あ、ニュースの方にママが映った!」


「うむ、コウレンも頑張っておるな」


 同時に、ニュース速報も見ている。

 そちらでは、光蓮がモンスターと戦っている様子やアカデミーに避難してきた人々と保護する鳥楽音やリオナの姿が映っている。


「流石にパパは映らないかぁ」


「仕方あるまい。セイヨウのモンスターは先日怪我をしていたのでな」


 誠陽は現在、冒険者協会で対策会議に参加している。

 以下に、緊急事態とはいえ、ニュースでその様子が流れることはない。


「みんな頑張ってるねぇ」


「うむ……」


 のんきにお茶とお菓子を食べながら、他人事のようにする二人。


「……」


「……」


 こうして、見ると二人が怠け者のように思えるだろう。

 しかし、実際は違う。


「……うん、大体わかったかな?」


「む? 流石じゃの」


 陽花は色々な生放送見て情報を集めていたのだ。


「それで、どこからモンスターは出現しているのじゃ?」


「多分だけど、島の東側の方かな? 西側の方はほとんどがモンスターがいないし、アカデミーがある中央へも、東側から来てる人が多いみたい」


 現在、島に出現しているモンスターは、以前、雫月たちが遭遇したものと同じだ。

 そうなると、当然、それを生み出している親モンスターがいるはずだ。

 その位置を探っていたのだ。


「それで、どうするのじゃ?」


 ざっくりと位置は掴めた。

 後はそれを倒しに行く必要があるのだが、


「先輩はちょっと忙しそうだよね。ママも……」


「うむ、どちらにせよ、街中に出ているモンスターもどうにかせねばならぬからの」


 放送を見ている限りでは、雫月は忙しそうにモンスターを倒して、逃げ遅れた人たちを助けて回っている。

 光蓮も同様だ。

 そうなると、誰が親モンスターを倒すのか。


「……行こうか」


「……うむ、行くか」


 そうして、二人は立ち上がった。


 ウェアの力を持たない陽花、外で活動できない琥珀。

 そんな単独では何もできない二人だったが、二人が揃えばできることはある。


 陽花は琥珀を抱きしめる。


「それじゃあ、琥珀。


「うむ、返すぞ」


 その瞬間、琥珀の身体が光の粒子へと変わる。

 そして、それは陽花の身体の中へと入っていく、それに合わせて陽花の身体も光り始めた。

 ある種、神秘的とも思える光景だった。


 琥珀の身体が完全に消え去り、そこには陽花だけが残された。

 しかし、その陽花も元の姿をしていなかったのだ。


「ふぅ……久しぶりにこの状態になったね」


 陽花は、頭に生えている狐耳と尻尾を触りながら感想を言う。

 そう、陽花の頭には、琥珀と同じような狐耳と尻尾が生えていたのだ。


「琥珀はどう? 聞こえる?」


「(うむ、聞こえるぞ)」


 陽花が話しかけると、琥珀の声が聞こえてくる。

 しかし、それは音で伝わっているものではない。

 陽花に直接話しかけられているものだ。


 琥珀は今、陽花の中にいるのだ。


 いわば、ソウルストーンも使わずに、シンクロを行っているという状況。

 それは、二人の間に強い絆があるからこそできるものだ。


「いつか、先輩も同じことができるようになるのかな?」


「(どうじゃろうな? まぁ、そうなると色々と大変じゃがの)」


 陽花は、自分の身体を見つめながら言う。

 二人がこの状態になるまでは、色々とあったのだが、それはまた別の機会に話すことにしよう。


 ともかく、二人はシンクロをすることができた。

 それはすなわち、


「さて、それじゃあ、行こうか」


「(うむ、儂らでこの街を救うのじゃ!)」


 二人が、外にいるモンスターを倒せるということに他ならない。

 そして、陽花と琥珀は屋敷から外へと向かった。



「うわ~、こんなに人がいないのは初めて見たよ」


 外に出た陽花は、外の様子に驚いた。

 いつもだったら、街中は歩き回る人で溢れているのだが、今は違う。


「(うむ、人の気配はほとんどないな)」


 みんな避難しているのか、家の中に引きこもっているのかはわからないが、完全に人の気配はない。


「……なんかいるね」


 人の気配はなかった、しかし人以外の生き物の気配はあったのだ。


「(うむ、くるぞ!)」


 琥珀の声が聞こえたのと、陽花が跳躍したのは同時だった。

 その一瞬の後、陽花のいた場所に、触手が突き刺さっていた。


 その根本を見ると、ドロドロ姿のウネウネとしたモンスターがそこにいた。


「あれは、タコ系のモンスターかな?」


「いや、イカ系かもしれぬぞ?」


 どちらかわからないが、まぁ、それはどうでもいいことでもあった。

 着地した陽花は、突き刺さった触手にナイフで一閃。

 それによって、触手は切断された。


「~~~!?」


 いきなり触手を切られたことで、モンスターは声にならない悲鳴をあげる。

 それはすぐさま断末魔となった。


「終わりっと」


 触手を切った陽花は反転して、跳躍。モンスターに向かってナイフを投げた。

 ナイフはモンスターの頭部から下までを貫通した。


 ダメージを負ったモンスターは、そのまま黒い霧となって消えていった。


「やっぱり、弱いね~」


「(うむ、相手にもならんな)」


 倒したモンスターには目もくれず二人は歩き出した。

 向かう先は、親モンスターがいるところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る