第39話 最強

「ここかな?」


「(うむ、この建物からモンスターの気配を感じる)」


 モンスターを倒しつつ、島の東へ向かい1つのビルへとたどり着いた。


「ほいっと」


 そのビルからは時折、モンスターが数匹まとめて出てきている。

 それをさっくりと倒しきる。


「それじゃあ、中に行こうか」


「(うむ、さほど多くはないが、巨大な気配が一つだけ感じるのじゃ)」


 ビルの中へ入ると、


「うわぁ……」


「(流石にむごいのう)」


 そこには、モンスターにやられたと思われる人間が多数転がっていた。

 中には外へと逃げる瞬間にやられたのだろう、外に向かって手を伸ばしたまま倒れた人もいる。


「流石に生きている人はいなそうかなぁ?」


「(どうじゃろうな? あのモンスターはあまり賢くなさそうじゃったから、隠れていれば可能性はあるやもじゃが……)」


 ビルの中を徘徊するモンスターを倒しつつ、探索していく。

 15階建てのビルを階段で登っていき、10階に差し掛かったところで。


ずずっ


 何かを引きずるような音がした。


「この階?」


「(そうじゃの)」


 音のする方へ向かうと、それは部屋の中から聞こえてきているようだ。


「(うむ? なるほどの)」


「どうかしたの?」


 部屋に近づいた瞬間、琥珀が何かを感じ取ったようだ。


「(どうして、モンスターがダンジョンの外に出現したのか疑問じゃったのだが、わかったぞ)」


「えっ? どうして?」


「(件の部屋……おそらく簡易ダンジョンになっておる。陽花の家と同じじゃな)」


「あっ! そうなの? 珍しいね」


 陽花は自分の家以外に簡易ダンジョンが設置されているところなど見たことがない。

 まぁ、それは当然で、簡易ダンジョンのほとんどは特定の機関によって厳重に管理されており、一般人が入ることはまずないからだ。


「(おそらくこの簡易ダンジョンにたまたま、件のモンスターがリスポーンしたのじゃろう)」


「あ、それじゃあ、雫月ちゃんが言っていたやつと同じやつなの?」


「(厳密に同じかはわからんが、同じ種類のモンスターじゃろう)」


 これは一般的には知られていない話になるが、モンスターは倒されてもまたどこかでリスポーンするのだ。

 大抵は、同じエリアの中のどこかにはなるが、今回の場合はを持った簡易ダンジョンの中にリスポーンしてしまったのだ。


 部屋の中からドロドロモンスターが出てきたが、それをさっくりと倒して扉の中を覗き込む。


「……海だね?」


「(うむ、海じゃ、おそらく水の大海を模したエリアになっていることじゃろう)」


 そう、この簡易ダンジョンは水の大海を模したエリアになっている、そのため水の大海で倒されたモンスターのリスポーン先になってしまったのだ。

 運が悪いと言ってしまえばそれまでだが、そもそもこんなところで秘密裏にダンジョンの研究をしていたからこそ起こった話ではある。

 ちなみに、陽花の家のある簡易ダンジョンは、琥珀が管理しておりダンジョンからは切り離されているため、モンスターが湧くことはない。

 結局のところ、ダンジョンコアのちゃんとした使い方を彼らは知らなかったのだ。


「それで、あれが例のモンスターかな?」


「(うむ、儂が前に見たものと同じじゃな)」


 ドロドロとした巨大な塊がウネウネと動いている。

 それは、以前雫月が倒したものよりも大きくなっている。


「(あれがエネルギー源になっているから、ダンジョンの外で生み出したモンスターが活動できておるのじゃな)」


「うん? つまり、あれを倒せば他のモンスターは消えるってこと?」


「(おそらくじゃがな)」


 言う慣れば、本体が電源に繋がれている状態で、他のモンスターに無線でエネルギーを送っているようなものだ。


「うん、大分わかりやすくなったね」


 陽花は言いながら、部屋の中へ入っていく。

 その動きにはなんの躊躇もない。


「さくっと終わらせちゃうよ」


 陽花が部屋の中へ入ってきたことには当然ドロドロモンスターも気がついた。

 威嚇をするように触手を取り出して、陽花に狙いを定めている。


「(お手並拝見と言ったところじゃな)」


「うん、任せて」


 ドロドロモンスターから触手が放たれる。

 しかし、そんな直線的な攻撃は陽花には効かない。


「おおっ! 数が多いね!」


 ドロドロモンスターも陽花から放たれる気配に気がついているのか、雫月の時よりも多くの触手を同時に操って攻撃している。

 それを、しゃがみ、ジャンプ、左右に避けながら、陽花はドロドロモンスターに近づいていく。

 完全に触手の射程エリアに入ったことで、後ろからも攻撃が飛んでくるが、さらっと避けている。


「さて、先輩は大きな岩で押しつぶしたんだっけ?」


 以前雫月が話していた戦い方を思い出す。

 そして、自分はどうやって倒すかを考える。

 当然その間も触手からの攻撃は来ているのだが、完全に無駄だった。


「そうだ、ダンジョンの中ってことは外への影響は気にしなくていいんだよね?」


「(うむ? まぁ、ある程度なら……)」


「それじゃあ、最大火力使っちゃうよ!」


 そう言うと、陽花は両手をドロドロモンスターへ向ける。


「この技を使うのは久しぶりだね!」


「(むっ! 待て! 流石にそれは……!)」


 琥珀が何かを言いかけたが、陽花の動きは止まらなかった。


「フレアブラスト!」


 唱えた瞬間、陽花の手から強烈な閃光が走った。

 それは一瞬にして、部屋の中を真っ白に染め上げる。

 当然、ドロドロモンスターもそれに巻き込まれ、一瞬にして消え去った。


 圧倒的な熱と光が急激に広がる。

 そう、それは、簡易ダンジョンの外まで……



 その日、ダンジョン島に巨大な一本の光の柱が立ったという。

 光を浴びたドロドロモンスターは一瞬にして消え去り、ダンジョン島は平和を取り戻した。


 それは伝説となり、後世に語り継がれることになる。

 もっとも……


「(これっ! 少しは手加減せぬか! 儂がとっさに上方向へ逃さなかったらとんでも無いことになっておったぞ!)」


「ごめ~ん」


 それを放った本人がやりすぎたことを怒られたなんて話は、当然知られることはないのだった。

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