第37話 今できること

 飛び上がった雫月は、急いで伝えられた場所へと向かう。


「飛ぶのには慣れてきたつもりでしたが、街中で飛ぶのはなんだか違う感覚になりますね」


 家を飛び越え、ビルの間を駆け抜けていく。

 伝えられた場所まではすぐだった。


「あっ!」


 目的地について、下を見ると震えている女の子の姿があった。

 そして、その近くには黒いドロドロモンスターが迫っている。

 女の子はまだ気がついていない。

 気が付かれないうちに助ければ……そう思ったのだが。


「あっ!」


 女の子が立ち上がり、こちらに向かって手を振った。


「ここです!」


 どうやら、放送を見ていて雫月が来たことに気がついたらしい。


『見つけた! けど……』

『あかん!』

『モンスターが近くにいるのに気がついてない!』


 配信上でもモンスターが映った。

 しかし、ラグがあるのか、女の子はまだこちらに手を振ったままだ。


 ドロドロモンスターも気がついて、走って女の子に寄っていく。

 ちょうど女の子が向いている方向とは逆で見えない位置になっている。


 こうなれば、先にモンスターを倒した方が速い。


「……っ!」


 雫月は空中で方向転換をして、モンスターの方へと向かう。


「このっ!」


 急降下からの飛び蹴りがモンスターに突き刺さった!


「~~~!?」


 飛び蹴りはドロドロモンスターを貫き、そのまま光となって消えた。


「……ふぅ」


 なんとか女の子を助けることができた。


「大丈夫?」


「えっ? あ、はい! ルナさん! ありがとうございます!」


 女の子は呆然としていたが、助けられたことがわかったのか、近寄ってお礼を言う。


「お家はどこ? 近く?」


「あ、はい。ここから歩いて5分くらいです」


「どうする? 一人で行ける?」


「えっと……ちょっと、不安ですが、大丈夫です」


 本当は女の子を送っていきたいところではあるのだ、他にも助けを求める声が届いている。


「とりあえず、あなたが行く方向のモンスターは排除するから、急いで家に帰ってね」


「わかりました」


 敵を排除しつつ移動することにした。

 女の子の家の場所を聞いて、そこまでのいるモンスターを倒していくことにした。


『良かったぁ助けられて』

『生でルナちゃんに助けられるの、不謹慎だけどちょっとうらやましい』

『直滑降からのキックな、刺さったしどんだけ強いんだか気になる』

『それにしても、あのモンスター実はあんまり強くなかったりするのかな?』

『ルナちゃんが強い説はあるけど、あんまり頭は良くなさそうだったね』


「あのモンスターは速さはそれなりにありますけど、攻撃はそこまで強くない印象ですね」


『なるほどね』

『うん? ルナちゃんはあのモンスター知ってるの?』

『なんか、ドロドロしてて全然見たことないモンスターだとは思ってたんだけど』

『姿は知ってるモンスターに近かったから、その派生モンスターなんだとは思ってたけど』


「あー、それは……」


 つい口を滑らせてしまった。

 流石に、あの研究所の事を放送で話すのはまずい。


「まぁ、ちょっと事情がありまして……」


 誤魔化しにならない誤魔化しをするしかない。


『なんか事情がありそうなことはわかったけど……』

『またなんか裏でやらかした?』

『気になるんだが?』


「ともかく、あのモンスターはそこまで強くありませんが、ウェアしていない状態で戦うのは絶対にやめてくださいね!」


 ウェアしているから弱く感じるのであって、ウェアなしで一般人は戦えないのは変わらない。

 結局戦えるのは一部の人間だけなのだ。


 そうして、モンスターを排除しつつ、人助けに空を飛び回る雫月だった。



 一方鳥楽音の方でも、雫月から連絡を受けて、すぐさま救助活動に参加を始めた。


「回復しますよ!」


「おおっ! ありがたい!」


 今もモンスターに襲われていた人を助けて、その人の怪我を治しているところだ。


「さぁ、アカデミーまではもう少しなんだよ」


「わかったよ、お嬢さんどうもありがとう」


 鳥楽音はアカデミーの周りを地道にモンスターを倒して回っている。

 こうして、アカデミーへ避難に来た人を助けているわけだ。


「人数が足りないんだよ……」


 助けて回っているが、雫月ほど機動力のない鳥楽音では後手に周ることもある。


「でも、雫月ちゃんも頑張ってるんだから、僕も頑張るんだよ」


 しかし、今も配信をしつつ飛び回っている雫月の姿を見て気合を入れ直した。



「了解したわ、すぐに向かうわ」


 雫月と別れた光蓮は、雫月からの連絡を受けた。

 配信は見ているが、お互いにどちらが助けに行くか決めなければ時間のロスになるのだ。


「それじゃあ、私はそろそろ行くわね」


「うん、僕はこのあたりで大丈夫」


 連絡を受けるまで、光蓮は誠陽と共にいた。

 ドロドロモンスターを倒しつつ、冒険者協会へ向かっていたのだ。


「そう? 大丈夫?」


「うん、まぁ、僕も冒険者だからね、戦えなくても逃げるくらいはできるさ」


 誠陽は現在事情があってシンクロができない状態だ。

 そのため、今回の件の戦力にはならない


「僕は冒険者協会と今の状況を話してみるよ」


「そうね、お願い」


 それでも、なんとか自分のやれることを探っているという状態だ。


 全員が全員、自分のやれることを精一杯して、この危機を乗り越えようとしている。



「さて、それじゃあ、行こうか」


「(うむ、儂らでこの街を救うのじゃ!)」


 そして、最後に一人の女の子と一匹のモンスターが立ち上がった。

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