第36話 拡散希望

 陽花の家を出た雫月は早速、シンクロをしてみる。


「……確かにできますね」


 琥珀が言っていた通り、解ける感じはなく、ウェアが維持されている。


「これが、ルナちゃんのシンクロね! 生だわ!」


「いや、光蓮……コウレンさんもシンクロしてくださいよ」


 生で雫月のシンクロを見た光蓮が何故か写真を撮ってきたが、それどころではない。


「そうね、それじゃあ、私はホシイヌにするわね」


 そう言うと、光蓮も再びシンクロをする。

 光蓮の頭に、雫月のものとは色違いの犬耳が生えた。


「……どう? 似合ってる?」


「え、ええ」


 友人の母親に可愛いというのはなんだけど、一児の母親とも思えないくらいの若さなので、ほとんど違和感がない。

 陽花の姉というのがいて、もしもシンクロしたらこんな感じなのかと思えるくらいだ。


「ルナちゃんは、レーダーコンドルなのね、おそろいじゃなくて残念だわ」


「あ、はい。私は空から敵を探そうと思いまして」


 最初はホシイヌにして駆け回るつもりだったのだが、飛べることの利便性を活かすことにしたのだ。


 とりあえず、シンクロの確認はできたので、街をモンスターから守るために出発しようとしたのだが。


「おい、雫月。お前、一応放送をつけておけ」


 リオナが雫月に声をかけた。


「はい? なんでですか?」


 この状況で放送? 意味がわからない。

 下手をすれば荒れてしまう可能性もあるのだが……


「お前、自分の知名度を忘れてるな? お前が助けに回ってることが伝われば、助けを求める人間がいるかもしれないだろ?」


「なるほど……」


 言われれば納得せざるを得ないが……


「あ、ライブするの? 私も映っていい?」


「いいですけど……なんで光蓮さんはわくわくしてるんですか……」


「だって、いつも見てた放送に参加できるのよ? わくわくしない?」


 もう完全に有名人の配信に出る一般人のノリだ。

 もっとも、世間的な知名度としては、段違いで光蓮の方が上であるが……


 断る理由もないので、参加してもらうことにした。


「それじゃあ、始めますね」


 見守れている中、なんとなく緊張をしながら放送を開始する。


「どうも、ルナルナチャンネルです。ちょっと特別な事情があって、放送します」


『ルナちゃん!? なんかダンジョン島やばいことになってるけど大丈夫なん!?』

『こんな時に放送まじ!?』

『ルナちゃんも避難しないとじゃ……』

『あれ!? ルナちゃんシンクロしてる?』

『ひょっとしてダンジョン?』


 ウェアしていることに気がついた視聴者は雫月がダンジョンにいるものだと考えたが。


「いえ、見ての通り、街中です」


 カメラで周りを映して、ダンジョンの外であることを証明する。


『まじすか!?』

『えっ? ダンジョンの外でなんでウェアできてるの!?』

『ちょ、待って!? 今後ろに凄い人いなかった?!』

『後ろにいるのトラネちゃん……じゃない!?』


 カメラを回した時に、光蓮が映り込んだのだ。


「そうですね、あんまり時間はないのですが……皆さん、ご存知、冒険者のコウレンさんとセイヨウさんです」


「どうもー、コウレンよ!」


 ノリノリで手をふる光蓮。

 対して、誠陽は少し笑顔がぎこちない。


『まじか!? ガチのトップ冒険者じゃん』

『コウレンさん! かわいい!』

『セイヨウさん、笑顔がwww』

『知り合いだってことは知ってたけど、まさか放送に出てくるとは』


 子供でも知ってるくらいの冒険者の登場に盛り上がる放送。

 しかし、そんなことをしている場合ではないのだ。


「おい、し、ルナ」


 リオナからせっつかれてそれを思い出して、本題に入る。


「とりあえず、手短に言いますと、現在ダンジョン島では街中にモンスターが出現するという緊急事態が起こっております」


 当然、視聴者たちも、ニュースで見ていてそれを知っている。


「本来、ダンジョンの外ではウェアをできないので、本当にまずいのですが……どうやら、シンクロをすると通常よりも長くウェアを続けられるみたいです」


『本当に!?』

『確かにずっとウェアできてるもんね!』

『シンクロってそんなこともできるの!?』


「はい、それで、シンクロできる私たちでモンスターの対処をしようと思ってます」


「放送を開始したのは、この情報を広めてもらって、助けを求める人がいたらすぐに駆けつけられるようにするためよ」


「そんなわけで、できれば情報を広めてもらうように拡散をお願いします」


『OK! 任せろ!』

『これは全力拡散!』

『ルナちゃん助けてくれるの!』

『ありがてぇ! 助かる!』

『今、家の中に避難してるんだけど、大丈夫かな?』


「家の中におられる方は、外に出るほうが危険なのでやめてください。もしも、外にいる方いましたら、アカデミーに行っていただければ鳥楽音さんが保護してくれるはずです」


『なるほど! 了解』

『そういう情報ほんと助かる』

『すみません! 今モンスターから隠れています! 今は、3丁目のコンビニの裏に隠れてます!』


 早速、拡散の効果があったのか、助けを求めるコメントが入った。

 こんな時に嘘をつく理由もないだろう。


「今、向かいます」


「ルナちゃん、お願いね。私達は一旦冒険者協会へ向かうわ。そっちで助けを求めてる人がいたら連絡をちょうだい」


 街中では飛べる雫月のが当然移動が速い。

 何かあったらお互いに連絡を取り合うことにして、雫月は一人空に飛び上がった。


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