第35話 外でのモンスター
「馬鹿な! モンスターが街に出現しているだと!?」
それは通常ではありえないことであった。
「モンスターがダンジョンから出ても、すぐに消えてしまうはずじゃ……?」
ダンジョンが発生してすぐの頃、その危険性を調査するために、ダンジョンでモンスターを捕まえてそれを街に持ち込んだことがあった。
しかし、モンスターは個体差はあったものの、1分も経たないうちに消えてしまったのだ。
そんなわけで、モンスターはダンジョンから出てこない、というのが一般的な考えだ。
「儂のように短時間であれば自由に過ごせる者もおるが……」
ちなみに、狐珀はダンジョンの外に出ても30分は耐えられる。
それは、狐珀の強さの証でもあり、しかし、その狐珀でさえも30分は耐えられないのだ。
「ということは、まさか狐珀ちゃん並の強さを持つモンスターってこと!?」
そうなると、事は深刻だ。
「いや……映像を見ている限り、こやつらにそこまでの強さは感じられんが……」
しかし、狐珀はニュース映像を見て否定をした。
「というか、このモンスター? どこかで見たことあるような……」
映像に映っているモンスターは、確かに形こそモンスターのような形をしているが、真っ黒でドロドロしている。
とてもではないが、まともなモンスターではない。
「まさか……そんな……」
その映像を見て、雫月は驚いていた。
「そうよね……こんな事初めてだわ」
光蓮はそれを、自分と同じように初めての現象に驚いているのだと考えた。
しかし、
「いえ、確かにモンスターが出たのは驚きましたが、それ以上に……私はこのモンスターを見たことがあります」
「えっ?」
震えながら言う雫月。
「これは、先日、狐珀さんに頼まれて、討伐しに行ったモンスターが生み出したやつにそっくりです」
「さっき話してた、モンスターが生み出したモンスターってこと!?」
「ええ、同じかはわかりませんが、そっくりです」
というか、見た目は完全に同じだ。
「なるほど、確かに言われてみればあの時見たモンスターもこんなドロドロしておったか」
狐珀もそれに同意した。
「えっ? つまり……どういうこと?」
「うむ、見たところ、あの時見たモンスターで間違いないじゃろう」
「……どこかにあれと同じモンスターがいるかもしれませんね」
それ以外に考えられない。
元々あんなモンスターが独自に存在しているのではなく、前と同じ用に親から生み出されたのだと考えるのが妥当だ。
「ルナちゃんたちでさえ、なんとか倒したモンスターが街中にいるってこと!?」
「それはまずいね!」
そんなことであれば、このダンジョン島が始まって以来の危機になることは間違いない。
なにせ、
「ダンジョン以外じゃ、ウェアもできないからモンスターに対抗なんてできないわ」
そう、ソウルストーンのウェアはダンジョン内でしかできない。
正確には、ウェアしても、1分も満たずに解除されてしまうのだ。
そして、モンスターはどれだけ弱いモンスターでも、ウェアしていない状態でなければ倒せない。
「これは……本当にまずい状態だね……」
全員の額から冷や汗が出てくる。
このままでは、ダンジョン島は滅びる。
そんな未来が見えてくる。
「……いったいどうすれば……」
「ふむ……」
絶望の状況、狐珀が何やら考えていることに光蓮が気がついた。
「狐珀ちゃん、何か対処法でもあるの?」
「うむ、ダンジョンの外ではソウルストーンをウェアできないとのことじゃが……おそらく、お主らなら可能じゃろう」
「えっ? どういうこと?」
「正確には、コウレンと雫月じゃな」
狐珀は、光蓮と雫月を指した。
「……まさかシンクロかい?」
誠陽は、狐珀の言葉を聞いて、思わずそう言った。
「うむ、まぁ、断言はできぬがの、少なくとも他の者たちよりは長い時間活動できると思うのじゃ」
「どうしてそんなことがわかるんだい?」
「それは……じゃな……」
当然、なぜ狐珀がそんなことがわかるのか、という疑問が出てくる。
しかし、その疑問に対して、狐珀は言葉を濁した。
「……ま、まぁ、そんなことよりも急ぎであろう? モノは試しということでやってみるといい」
狐珀の態度には疑問が残ったが、光蓮は言われるがままに、ウェアをして簡易ダンジョンから出てみると。
「確かに……解ける様子がないですね」
「シンクロできない子だと無理だから、シンクロが必須ってことかしら?」
狐珀の言う通りなことがわかった。
一度ウェアと解いて、簡易ダンジョンの中へと戻る。
「なるほどね……そうなると、シンクロできる人間でなんとか対処するしかないってことか」
「でも、シンクロできる人なんてそんなにいないんじゃ……」
「講習をやっていたけど、まだ一人できるようになったくらいね……」
以前の件があって以来、冒険者協会でシンクロの研究・講習を行っているが、やっと新たに一人できるようになったくらいだ。
「学校の方では、まだ結果が出ていないです」
「まぁ、今は、できる人間でやれることをやるしかないだろうね。僕は、冒険者協会に行って、対策会議に参加するよ」
「私とルナちゃんは、街のモンスターの対処ね」
「はい。頑張ります……あ、鳥楽音さんにも連絡を取らないと」
「私は、アカデミーを避難所として開放できないか理事会にかけあってみる。アカデミーなら備蓄もあるし最悪何日かは持つだろう」
それぞれがやることを決めて動き出した。
それを、狐珀と陽花は黙って見送った。
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