第34話 秘密の研究所

 とあるビルの中にある研究所。

 ここは大手ギルドである、ネクスト・オリジンが運営する冒険者協会の研究所である。


 ……そう非公式の研究所なのだ。

 ここでは、冒険者協会の許可を得ずに、ダンジョンに関する研究を行っている。

 その内容は……


「うむ、それではダンジョンをB-1にしろ」


「了解しました」


 主任が指示を出し、研究員がそれに従って、クリスタルを操作する。

 すると、風景が代わり、地面は砂浜に奥には海が広がった。


「ふむ……水の大海だな」


 それをモニター越しに確認した主任は満足そうにレポートに何かを書き始めた。


「主任! モンスターが現れました!」


 レポートを書いていると、現地にいる研究者が騒ぎ始めた。

 どうやら、ダンジョンの中にモンスターが現れたらしい。


「そんなことで一々騒ぐな! 何のために冒険者を雇っていると思っている! 即座に処理させろ!」


「は、はい!」


 研究者は主任の怒鳴り声に驚きながら、部屋から出て、冒険者風の男を連れてきてモンスターを倒させた。

 それを主任は一切見ることなく、レポートを書き上げた。


「うむ、ひとまずこんなところか、しばらくはこのままにしておけ。私は休憩にはいる」


「あの……私は……?」


「お前はそこに残って監視しておけ」


 主任はそう言うと、そのまま部屋から出ていった。


「……はぁ」


 残された研究員は、思わずため息をつく。


「ははっ、おつかれさん」


「あ、はい。モンスターの処理ありがとうございます!」


 連れてきた冒険者のねぎらいに、研究員は礼を返す。


「あんたも大変だよなぁ。ここでずっと監視してるんだろ?」


「はは、そうですね、しかし、これが私の仕事ですから」


 研究員は最近ここに配属された新人だ。

 入ってから数日、ほとんど家に帰ることなく、研究所で仕事をしていた。


「しかし、部屋の中でダンジョンを再現するなんて、すげぇことしてるよなぁ」


「そうですよね、私も驚いています」


 そう、ここではビルの一室を使ってダンジョンを再現する実験をしているのだ。


「この、クリスタルがダンジョンコアってやつなんだろ?」


「正確には、簡易ダンジョンコアですね」


 その実験の肝とも言えるのが、このクリスタル、簡易ダンジョンコアだ。

 これは、陽花の家にあるのと同じクリスタルとなる。

 まぁ、陽花の家にあるのは、ちゃんと冒険者協会に報告して設置してあるものだが、ここに設置してあるのは、完全に秘密にされているものだが。


「まぁ、またモンスターが出たら呼んでくれや」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 冒険者はそう言うと、部屋から出ていった。

 そうして、一人残された研究員は、


「はぁ……とりあえず、資料でも読んでおこう」


 やることもないので、椅子に座って資料を読み始めた。

 それからはしばらくその資料を読み込み、時折、ダンジョンの中でモンスターが出たら冒険者を呼ぶことを繰り返した。


「……うん? また?」


 そして、またモンスターが出た。

 研究員は、冒険者を呼ぶために部屋を出ようとして……



 場面は代わり、再び陽花の家の簡易ダンジョンの中。


「……なるほどね、冒険者協会の中にもネクスト・オリジンに協力している人間がいるんだね」


「しかも副会長かぁ……組織全部で協力……という線もなくはなけど、流石にそれはないと信じたいわね」


「流石に一部だろ」


 少なくとも、冒険者協会の人間が、ネクスト・オリジンの研究所にいることは確かだ。


「しかし、そうなると、ルナちゃんが行った場所以外にも研究所があるかもしれないわね」


「そうだね……あそこはお金だけはあるからね」


「どうせ卑怯な手で集めたものだろうがな」


 研究所があそこだけとは考えづらい。きっと他のダンジョンの中にもあるに違いない。

 そう考えるのも当然のことだろう。


「とりあえず、今後は儂の方でも何か見つけた報告するのじゃ」


「ええ、お願いね……ダンジョンの方は狐珀ちゃんに任せるとして……問題は……」


「外の方だね」


 ダンジョンの中に研究所があるのだ、外に隠された研究所があっても何の不思議でもない。


「とりあえず、信頼できる人間に話をして、情報を集めるのが先かな」


「そうね、流石に私たちだけじゃ人数が足りないわね」


「大事になってきたな。私の方も、信頼できる人間を探しておく」


 大人たちは、それぞれの方で情報を集めることにした。

 すぐに動いて逃げられるよりも、証拠を集めて追求することにしたのだ。


「それじゃあ、今日はこんなところね。ルナちゃんもわざわざありがとうね」


「いえ、すみません。私も何か手伝えることがあればお手伝いしますので」


 そうして、今日はこの場で解散しようとした、その時だった。


「すみません! 即時ご報告したいことがございます!」


 簡易ダンジョンの中に、千晴が駆け込んできた。


「千晴さん? そんなに急いでどうしたの?」


 いつも冷静沈着なメイドである千晴が、こんなにも慌てているのは珍しい。

 千晴はその質問に答えず、机の上にタブレットを置いて見せた。


「これは……?」


「この島の生放送のニュース?」


 そこには、生放送で流れているニュースが映し出されていた。


「……緊急ニュースです。先ほどから市内に謎の生物が出現しております。お近くにおられる方はすぐに避難をしてください。専門家の話では、モンスターなのではないかという見解も出ています。くれぐれも近寄らないように……」


「えっ!?」


「そんな馬鹿な!?」


 それは、街中にモンスターが出現しているというニュースだった。

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