第33話 跡地で見つけたもの

「それで、そのモンスターを無事に倒すことに成功しました」


 数日後、雫月は陽花の家で、陽花の両親である、誠陽まさはる光蓮みつはと話をしていた。


「まさか、そんなモンスターがいるとは……よく倒したものだね」


「ごめんね、本当は私達がやるべきだったのに」


 さらにその場には、リオナもいる。


「学生の身分であまり危険なことはしないで欲しいと思うが……状況的には仕方ないが……」


 危ないモンスターを倒しに行ったということで称賛だったり、心配されたりした。


「でも、どうしてわざわざ僕らを呼んだんだい?」


「何か緊急の話があるって聞いてたけど」


「それもわざわざ、私を家に呼んでまで」


 もちろん、モンスターを倒した自慢をするために呼んだのではない。

 モンスターを倒したところまではある意味では前座。


「モンスターを倒した後に、その跡地を調べたんですけど、そこでこれを見つけたんですよ」


 雫月が取り出したのは、一枚の紙。それを机に置いて全員に見せた。


「何々? モンスターの融合に関する実験レポート……!?」


「その研究所そんな事をやってやがったのか!?」


「そうなんです。その研究所は、モンスターを融合させて、新たなモンスターを作り出す実験をしていたらしいんですよ」


 雫月が見つけたのは、研究所が行っていた実験。そのレポートだった。

 そこには、モンスター同士を融合させて、新たなモンスターを生み出す実験が行われていた事が書かれていた。


「流石に、そんな研究をしていたなんて、冒険者協会からは公開されていないね」


 ダンジョンに関わる研究は、その危険性もあるため、冒険者協会によって厳しく管理されている。

 調べれば、現在行われている研究は全て確認することができる、だが、事前に雫月が調べたところでは、そんな研究は公開されていなかった。


「モンスター同士の融合なんて……そんなことが可能なのかい?」


「いや、私にはよくわからないわ……? でも、資料を読む限りだと、成功したっていう記述があるわね」


 モンスター同士を融合させるなんて聞いたことがない。

 しかし、そのレポートには、プリンとホシイヌを組み合わせて新たなモンスターを生み出すことに成功したとの記述があった。


「うむ……見たところでは、プリンはプリンでも特別変異種のようだな……融合というよりは、能力を吸収したという感じじゃな」


 狐珀がさらに付け足した。

 当初は、研究所の実験にはあまり興味を持たなかったかった狐珀だったが、この研究を知るともの凄い嫌悪感を持ったようだ。


「それって、ルナちゃん達が倒したっていうモンスターのこと?」


「ええ、私もそう思いました。多分、あのモンスターは特別なプリンで、色々なモンスターを吸収した結果あんな感じになったんじゃないかと……」


 あくまでも推測だが、当たっているような気がした。

 それだけ、あのモンスターは異形だった。


「おそらく、最終的にあのモンスターが暴走して、研究所が崩壊したんじゃないかと思っています」


「うん、まぁ、そう考えるのが妥当だろうね」


「隠れて研究していたから、表にも出されずに放置されたわけね」


「ふん、いい気味だな」


 三者三様の反応を見せる。


「それで、これを僕らはどうすればいいんだい?」


「冒険者協会に持っていったところで、きっと相手にしてもらえないわよ?」


 実際に研究所跡地まで案内すれば別だが、現状のところではこのレポートだけ持って行っても、いたずらにしか思われないだろう。

 そもそも、モンスターの融合という研究は倫理観的に問題はあるが、それだけでは犯罪にはならない。

 現状では冒険者協会の認可を得ずに、秘密裏にその研究をしていたというだけが問題なのだ。

 もっとも、認可を得ようと思ったら、確実に却下されるくらいの内容ではあるが……


 しかし、事態はもっと深刻なものなのだ。


「そのレポートの最後の欄に、あの研究所を運営していた人たちの所在が書かれています」


 雫月がページを捲るように促し、誠陽が言われるがままにページを捲り、それを読む。


「……まさか!?」


 そして書かれている名前に驚愕した。


「えっ? 何々? ……朝倉道朗? ネクスト・オリジンのギルドマスターじゃないか!?」


 光蓮が驚愕したのも無理はない。

 それは、冒険者ギルドの中でも1番を争うと言われるような強大なギルドの名前だった。


「ネクスト・オリジンだと!?」


 リオナがその名前に反応してレポートをぱっと奪い取った。

 以前、鳥楽音の元パーティメンバーが引き抜かれた、憎きギルドである。


「ネクスト・オリジン……? あのギルドの人達が、そんなことを……?」


「いや、でも彼らならやりかねないわよ」


 悪い噂の絶えないギルドではある。

 しかし、そのどれもが噂止まりで終わり、真実は闇の中に葬られている……はずだったのだが。


「この感じですと、ネクスト・オリジンは他にも何か研究してる可能性がありますよね」


「そうね、ルナちゃんの言う通りだわ」


「これは……冒険者協会に知らせないわけにはいかないね」


 すぐさま行動を取ろうとする、まともな大人である光蓮と誠陽。

 しかし、それに対して、雫月は首を振った。


「いえ、しっかりと準備をしないと、それは逆に危険ですよ」


「どういうことだい?」


 誠陽が尋ねるのと、


「……なんってこった」


 リオナが天を仰いだのはほとんど同時だった。


「リオナさん、どうかしたの?」


 尋ねる光蓮に対して、リオナはレポートを見せる。

 その一部分を指差して。


「……この部分を見てくれ」


 覗き込む、誠陽と光蓮。

 そこには、羽鳥幻三という名前、そして所属は冒険者協会:副会長と書かれていた。

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