第31話 泡と岩

「それではそういう感じで……」


「うん、任せて」


 作戦をちょうど伝え終わったその時、廊下を塞いでいた岩壁の方から音がした。

 そちらを見てみると、先程と同じように、黒い触手が刺さって、岩壁に穴が空いていた。


「鳥楽音さん!」


「作戦開始なんだよ!」


 ドロドロプリンはすぐにでも、こっちに移ってくるだろう。

 その前に作戦を開始した。


「バブルミスト!」


 先程逃げたときと同じように、大量の泡を発生させる。

 さらに、


「もう一回バブルミスト!」


 続けて泡を発生させる。

 それを繰り返して、ドロドロプリンが完全にこちらに入ってきたときには部屋中を泡だらけにしていた。


 ドロドロプリンからすると、二人がどこにいるのかわからない状態だ。

 こうなれば泡を割っていくしかない。

 そう考えたのだろうか?


ズッ!


 ドロドロプリンが触手を振り回し、泡を攻撃していく。

 しかし、泡は触手にあたっても何故か消えずに少し動いただけだった。

 鳥楽音が出した泡は特殊な泡で、叩いてもなかなか割れなくなっている。


 泡が割れないことに気がついたドロドロプリンは、触手を振り回すのをやめて、触手を突き刺し泡を割り始めた。

 岩すら貫通するほどの触手だ。

 流石に鳥楽音の泡も、貫かれて弾ける。


「バブルミスト!」


 しかし、少しずつ割っていても、泡はすぐに補充されていく。

 反射的にその声のする方向に触手を突き刺すが、もうそこに鳥楽音はいなかった。


 一向に減らない泡。

 ドロドロプリンは業を煮やしたのか、別の手段に出た。


ズズッ


 一本の触手を自身の元へ戻し、別の触手でそれを切り落とした。

 切り落とされた触手は地面でビチビチと動き形を変えていく。

 それは、最終的にホシイヌの形になった。

 ただし、大きさは本物に比べて小さい上、色は真っ黒でドロドロと何かが垂れているようにも見える。


「まさか、モンスターを生み出したの!?」


 思わず、鳥楽音は驚いて声をあげてしまった。

 すぐさま、その声に反応して、ドロドロホシイヌが鳥楽音に向かってくる。


「まずいんだよ! バブルボム!」


 完全に位置を補足された、鳥楽音。

 流石にまずいと思い、一つの泡を発生させて、ドロドロホシイヌに飛ばした。

 さらに、


「スパーク!」


 背中の炎から、火花を飛ばし、その泡へとぶつけた。


バァン!


 泡に火花がぶつかった瞬間、泡が爆発した。

 泡の中には通常よりも沢山の空気が入っていて、それが爆発したのだ。


 実際、この攻撃はほとんど相手を驚かせるくらいの威力しかない。

 しかし、近くで爆発を受けたドロドロホシイヌは身体が弾けとび、黒いドロドロが辺りにちらばった。


「あれ……? 思ったよりも弱いんだよ?」


 思ったよりも簡単に倒せてしまったことに驚く鳥楽音。


「本物よりは大分やわらかいみたいだね……おっと!」


 思っていたよりも簡単に倒せてしまったことで、安心したが、その瞬間、触手が伸びてきた。


「危ない危ない。バブルミスト!」


 それを避けて、もう一度泡で視界を隠す。

 ドロドロホシイヌにかまっている間に、少し泡が少なくなってしまったみたいだ。

 すぐに、鳥楽音は移動した。


 そんな攻防を繰り返す。

 次第に、ドロドロプリンも学習をしたのか、自身の触手で泡を割るのをやめて、ドロドロモンスターを生み出す頻度を増やし始めた。

 さらに、


「ひょっとして倒したドロドロも回収してる!?」


 どうやら、ドロドロプリンは鳥楽音に倒されたドロドロモンスターを回収して、再び再利用しているようだ。

 それによって、段々とドロドロモンスターの数が増えていく。

 さらに、そのドロドロモンスターが、鳥楽音を狙うだけでなく、泡も割り始めた。


「流石にこれはまずそうなんだよ!」


 鳥楽音も、バブルボムでモンスターを倒したり、バブルミストで泡を増やしたりするが、ついにはドロドロモンスターの接近を許してしまった。


「わっ!」


 泡の影から飛び出してきたドロドロホシイヌの突進を受ける。

 勢いのまま、転ぶと、ドロドロホシイヌが触手を伸ばしてきて、手足を拘束されてしまった。


「まずいっ!」


 必死で手を動かそうとするが、動かすことができない。

 これでは、バブルボムでどかすこともできない。


「雫月ちゃん! 助けて!」


 流石の鳥楽音も雫月に助けを求めた。

 さて、ここまでの戦いでは鳥楽音しかドロドロモンスターと戦っていなかった。

 その間、雫月が何をしていたのかというと……


「お待たせしました! ストーンメテオ!」


 上の方から声がして、その瞬間、岩が鳥楽音を拘束しているドロドロホシイヌに突き刺さった。

 そう、雫月は上にいた。


「鳥楽音さん! 大丈夫ですか!?」


「うん、なんとか! 助かったんだよ!」


 鳥楽音が起き上がりながら、雫月に向かって言った。

 雫月は、天井に逆向きで張り付いていた。

 もちろん、人間が天井に張り付くことなどできない。

 しかし、雫月は人間の形をしていなかった。


 雫月は、ロックプリンと一体化して、モンスターの姿になっていた。

 その体で天井にある割れ目を掴み、天井で攻撃の準備をしていたのだった。


「他のモンスターの岩も準備しましたよ!」


 雫月の周りには、先程と同じ用な岩が無数に浮いている。

 当然、雫月が用意したものだ。


 それをドロドロモンスターに向かって落としていく。

 ドロドロモンスターたちは、岩に押しつぶされて、消えていった。


 それと同時に、鳥楽音が生み出してきた泡も弾け、視界が開けた。

 ドロドロプリンは、急に自身が生み出したモンスターがいなくなったことに気が付き、さらにそれをやった雫月を見つける。

 天井に張り付いていて動けない雫月を見つけたドロドロプリンは触手を伸ばそうとしたが、


「残念ながらもう遅いです」


 雫月が言うと、天井から先程のものよりも巨大な岩が落ちてきた。

 なぜ今まで気が付かなかったのか、それは、雫月が岩を作成するのと同時に、クリアクリオネの能力、透明化で隠していたからだ。

 その結果、時間はかかってしまったが、ドロドロプリンの巨体を全て押し潰すほどの岩を作り出すことに成功した。


ドシャ!!!


 ドロドロプリンは、なすすべもなく、岩に押し潰されたのだった。

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